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レポート

2020/11/24

第60回日本呼吸器学会学術講演会より

新たな分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入で肺がん治療はどう変わる?

切除できる肺がん、放射線療法が可能な肺がんの治療にも薬物療法

中西美荷=医学ライター

免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用が治療戦略の主軸に?

 免疫チェックポイント阻害薬については、PD-L1の発現状況別にいくつかの治療法が確立されている。ペムブロリズマブ単剤療法は当初、PD-L1発現率50%以上の患者に対して用いられていたが、その後、PD-L1の発現が1〜49%に対しても使用可能となり、現在はPD-L1発現が陽性(≧1%)であれば、ペムブロリズマブ単剤の適応となる。

 PD-L1発現の有無にかかわらず、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用も標準的治療として確立されてきており、山本氏は、「今後、この併用療法が基本となって、各種の治療戦略が進んでいく」との見解を示した。

 この併用療法のエビデンスは海外からのものが主であったが、今年、日本を中心とした第3相試験(TASUKI-52試験、550例)の解析結果として、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブへのニボルマブ上乗せが、管理可能な安全性プロファイルのもとに進行/再発の非扁平上皮NSCLCのPFSを有意に延長することが報告された(Lee J et al., ESMO 2020 #LBA54)。PFS中央値はカルボプラチン+パクリタキセルの8.11カ月に対してカルボプラチン+パクリタキセル+ニボルマブでは12.12カ月、ハザード比は0.56(96.37%信頼区間:0.43-0.71、p<0.001)だった。

 さらに、がん免疫療法(IO)同士を併用する治療法の導入が予想されるという。米国FDAは5月26日に、組織型やPD-L1発現状況にかかわらず、EGFR陰性ALK転座陰性の進行NSCLCに対する1次治療として、抗PD-1抗体ニボルマブ+抗CTLA-4抗体イピリムマブ+化学療法を承認した。オープンラベル多施設無作為化第3相試験CheckMate-9LAの結果(Reck M et al., ASCO2020 #9501)に基づくもので、山本氏は、「この年末までには日本でも承認される見込みが高くなっている」とした。

 こうした新たな治療法の承認により、多種多様の治療選択が可能となる一方で、どの治療法がどのような患者に適合するのかについて、以前にも増して真剣に考えていかねばならない時代になっているという。

抗体薬物複合体や二重特異性抗体など新たな作用機序の薬剤も開発中

 ドライバー変異に対する標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬以外にも、重要な分子標的薬剤が開発されつつある。現在、臨床試験が進められ、非常に注目されているのは、抗体と低分子薬剤を結合させた抗体薬物複合体(ADC)と、2つの異なる抗原に特異的に結合する二重特異性抗体である。

 ADCに関しては、抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカンが、9月25日、化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃がんを対象に承認されており、肺がんに対しても有望である可能性が高いという。

 二重特異性抗体に関しては、抗EGFRおよび抗cMet抗体であるAmivantamab(JNJ-61186372)単剤療法が、EGFRエクソン20挿入変異陽性の進行NSCLC患者を対象とする第I相試験において、全例での奏効率(ORR)41%(95%信頼区間:24-61)、PFS中央値8.3カ月(95%信頼区間:3.0-14.8)、プラチナ併用化学療法歴のある患者では、それぞれ41%(95%信頼区間:24-61)、8.6カ月(95%信頼区間:3.7-14.8)との成績を示し、忍容性も良好だったことが報告されている(Park K et al., ASCO2020 #9512)。

 山本氏は、「これらの薬剤も、もうしばらくすると日常臨床の中に入ってくる可能性が高くなるので、入ってきた暁には適切に使用していきたい」と述べた。

新薬の開発、承認が日常臨床の治療成績改善に寄与

 さまざまな薬剤について、良好な臨床試験成績が示されているが、これらは日常臨床の改善に反映されているのだろうか? 今年8月、新薬登場が肺がん患者の死亡率に与える影響を検討した研究結果が米国から報告された(Howlader N et al., N Engl J Med. 2020; 383(7): 640-649)。

 例えば男性の肺がん発生率は徐々に低下しており、2008〜2016年には2001〜2008年よりも3.1%減少した。一方、死亡率減少は、2006〜2013年には3.1%にとどまっていたが、2013〜2016年には6.3%となった。同時期において、女性では発生率の減少1.5%に対して死亡率の減少は5.9%だった。

 山本氏は「2013年はEGFR陽性肺がんの1次治療として、米国でEGFR-TKIが承認されている。ドライバー変異をターゲットとする薬が承認されて、肺がんの発生率よりも死亡率が格段に減少した」と説明した。この論文の著者らも、急激な死亡率の低下は、治療の進歩、特に分子標的治療の承認により説明できると結論している。新薬の登場は実際に、日常臨床における治療成績改善に寄与することが示唆される。

より早期の肺がん治療にも標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬を組み込む動き

 ドライバー変異に対する標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など肺がんの薬物療法における役割は、現時点においては進行がんが中心だが、より早期のがんに対して、たとえば免疫チェックポイント阻害薬を化学放射線療法に併用することが検討されている。

 PACIFIC試験では、化学放射線療法後に抗PD-L1抗体デュルバルマブを投与することで、生存期間が有意に延長することが示された(Gray JE et al., J Thorac Oncol. 2020; 15(2): 288-293)。そのため、現在、根治的化学放射線療法を行うことが可能な患者に対しては、維持療法としてデュルバルマブを投与するとことが標準的治療になっている。

 ドライバー変異に対する標的治療薬に関しても、周術期治療における有用性のエビデンスが集積されてきている。もっとも大きなエビデンスのひとつは、IB-IIIA期NSCLC患者を対象とする第3相試験ADAURAの早期解析で、術後治療としてオシメルチニブを投与することにより、無病生存期間(DFS)が有意に延長することが示された。

 II-IIIA期患者におけるDFS中央値は、プラセボ群20.4カ月(95%信頼区間:16.6-24.5)、オシメルチニブ群未達(95%信頼区間:38.8-算出できず[NC])で、ハザード比は0.17 (95%信頼区間:0.12-0.23、p<0.0001)、2年DFS率はプラセボ群44%、オシメルチニブ群90%、3年時点ではそれぞれ28%、80%だった。(Herbst RS et al.,ASCO 2020 #LBA5)。

 山本氏によれば、この結果を受けて、EGFR陽性の患者に対しては術後補助療法としてオシメルチニブを投与することを標準的治療としていいのではないかと言われ始めているという。しかし、OSについての経過報告では、今のところ大きな上乗せ効果がない可能性も示唆されている(OS中央値のハザード比は 0.40、95%信頼区間:0.18-0.90、24カ月OS率はプラセボ群83% 、オシメルチニブ群100%)。

 山本氏は、主要評価項目(DFS延長)が満たされていることから、「この治療法を実際の患者さんに適用するかどうかに関しては、研究者の意見だけではなく、(OSに大きな上乗せはない可能性があるという)この情報を十分に患者さんに理解していただいて、患者さんの意見を聞いて判断する必要があるのではないか」との見解を示した。

薬剤によっては治療に組み込むための臨床試験に工夫が必要

 免疫チェックポイント阻害薬も、周術期治療に導入されることが見込まれている。またドライバー変異に対する標的治療薬は、周術期治療から化学放射線療法への導入が進み始めている。「新たな薬剤が、いまや進行肺がんだけではなく、肺がん治療のすべての領域に導入される見込みがある」(山本氏)。

 こうした状況において個々の患者に適した治療を提供するためには、たとえばドライバー変異に関しては、数多くの変異を調べることが必要となってきている。ただ、EGFRを除く多くのドライバー変異の頻度は10%未満で、1%程度の“希少がん”といってもいいようなものもある。山本氏は、各ドライバー変異を標的とする薬剤を周術期治療、化学放射線治療などに導入するに際して、その有効性や安全性を「ひとつひとつ臨床試験によって確認していくのはまず不可能であろう」「今後は、ある程度グループ化して一括して評価できるような仕組み、臨床試験の方法を確立することが重要ではないか」との見解を示した。

「切除できるものは切除、放射線治療ができるものは放射線」ではなくなる?

 今後は、薬物療法による微小転移の制御が可能となってきていることから、切除可能な患者や放射線治療を行うことができる患者の範囲が広がることが予想される。

 たとえば、“原発以外には数少ない他臓器への転移があるのみ”という病態を指す”Oligometastases”という概念(後藤悌. 肺癌.2016;56:945-947)があるが、そうした患者に対して、薬物療法に局所療法を追加することで予後改善が可能かどうかを検討する臨床試験(CURE-OLIGO試験)が行われているという。

 さらに、化学放射線療法が標準的治療であったIII期NSCLCについて、PD-L1≧50%であれば放射線治療を行わず、免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法のみで治療が可能かどうかを検討する多施設共同単群第2相医師主導治験Evolution(WJOG11819L)が行われている。

 今後、薬物療法の進歩に伴い、さらに治療の枠組みが変更されていくことも十分に考えられ、こうした試験の成績も注視していく必要があるという。

既存の薬剤をうまく使うことで実臨床での治療成績向上につなげる

 肺がん治療の成績向上のためには、有効な新薬の開発・承認は不可欠だが、山本氏は、「果たして、本当にそれだけでいいのか。メーカーが開発する有望な薬剤の治験を実施して、新しい薬を承認することだけが、日常診療する患者さんの治療成績の向上に役に立つのかというと、それだけではないだろう」と述べ、従来型の治療についても評価を続けるべきとの見解を示した。

 この1年で、殺細胞性抗がん薬についてもいくつかの重要なエビデンスが出されており、これらを実臨床に生かしていくことが重要だという。たとえば第3相試験JIPANGでは、完全切除非扁平上皮NSCLCに対する術後補助化学療法として、シスプラチン+ペメトレキセドが、標準治療のシスプラチン+ビノレルビンに対して無再発生存期間(RFS)での優越性は示せなかったものの、有害事象の頻度は低く、毒性が比較的軽微なレジメンであることが明らかになった(Kenmotsu H et al., J Clin Oncol 2020; 38: 2187-2196)。ただ現時点では、ペメトレキセドはIII期NSCLCに対して適応拡大されていない。

 また第3相試験JCOG1210/WJOG7813Lでは、高齢者の進行非扁平上皮NSCLCに対する1次治療として、カルボプラチン+ペメトレキセド後のペメトレキセド維持療法が、ドセタキセル単剤に対してOSでの非劣性を示した。毒性についても、重度の好中球減少症、発熱性好中球減少症の頻度が、ドセタキセルより低いことが示されている(Okamoto I et al., JAMA Oncol. 2020;6(5):e196828)。

 進行肺扁平上皮がんについても、高齢者(70歳以上)患者を対象として、ドセタキセル療法とnab-パクリタキセル+カルボプラチン併用療法の有効性と安全性を比較検討するランダム化第3相試験CAPITALが進行している。

治療向上のために実臨床における情報収集も

 山本氏は、新薬に関しては、「リアルワールド(日常臨床)における情報収集も欠かせない」と話す。たとえば、第3相試験KEYNOTE-189の最終解析で、進行非扁平上皮NSCLCの1次治療としてOSを有意に延長したプラチナ製剤+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ(Shirish Gadgeel et al., J Clin Oncol. 2020 May 10:; 38(14): 1505-1517)は、確固たる標準的治療となっている。しかし、この試験に登録された日本人患者数は限られており、しかも日本人では、薬剤性肺障害の頻度が高い可能性があることが示唆された。

 そのため、この治療法を日常臨床に導入するにあたって、薬剤性肺障害の発生頻度を含めた安全性調査としてSUSPECT試験が実施された。SUSPECT試験では、90日以内の肺臓炎発現割合を主要調査項目とするステップ1において、全グレードで5%以上、またはグレード3で3%以上となった場合には、肺臓炎発症例のみを対象として詳細な調査を行うステップ2に進むことになっていた。

 今回の呼吸器学会でステップ1の結果が報告され、有効性に関しては有望であることが確認された。観察期間中央値5.5カ月において、治療成功期間(TTF)中央値5.9カ月(95%信頼区間:5.0-6.8)、PFS中央値7.5カ月(95%信頼区間:6.5-8.7)、OS中央値5未達(95%信頼区間:未達-未達)だった。

 一方、肺臓炎が一定以上の割合で発症することが確認され、ステップ2への移行が決まった。発現割合は90日以内で全グレード7.0%、グレード3-5が3.0%、観察全期間ではそれぞれ12.4%、3.3%だった(和久田一茂ら. 第60回日本呼吸器学会PP582/日本呼吸器学会誌2020; 9(suppl): 258-258)。

 こうした観察研究は資金源に乏しいことが多いが、山本氏によれば、ステップ2に関しては日本呼吸器学会がサポートするという。また今後も、日本の実地臨床に重要な意味を持つ臨床研究、特に観察研究をサポートしていきたい意向だという。

COVID-19パンデミックと肺がん治療

 最後に山本氏は、COVID-19パンデミック下における肺がん治療について話した。今年8月、米国におけるCOVID-19パンデミック下(2020年3月1日~4月18日)の6種のがん(乳がん、大腸がん、肺がん、膵がん、胃がん、食道がん)の1週間あたりの新規患者数は2310例で、2019年1月6日~2020年2月29日の4310例と比較して、46.4%減少していたことが報告された(Kaufman HW et al., JAMA Netw Open 2020; 3(8): e2017267)。

 これは当然、COVID-19ががん患者の発生を抑制しているわけではなく、パンデミックにより検診等で発見される患者数が少なくなった結果だと理解されている。「すなわち、COVID -19パンデミックが、がん患者さんの診療および治療の予後に大きな影響を与える可能性があるという警鐘が鳴らされている」(山本氏)。

 COVID-19パンデミック下の肺がん診療については複数の学会から治療指針が著されているが、日本でも肺癌学会が「 COVID-19パンデミックにおける肺癌診療:Expert opinion 」を、今年8月3日に公表している。感染段階に応じた、それぞれの治療の優先度などが記載されている。

 山本氏はまた、COVID-19が増える可能性もある季節への準備として、インフルエンザワクチン接種に言及した。「インフルエンザワクチンが免疫チェックポイント阻害薬の効果に与える影響を懸念して接種を抑える向きもあるかも知れないが、現時点では悪影響が出るということを明らかに示した所見はない。COVID蔓延下でインフルエンザに罹ることの方が、悪影響が大きい。今年の冬に関しては、従来以上にインフルエンザのワクチン接種を受けていただけることが肝要」とした。

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