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レポート

2020/11/24

第60回日本呼吸器学会学術講演会より

新たな分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入で肺がん治療はどう変わる?

切除できる肺がん、放射線療法が可能な肺がんの治療にも薬物療法

中西美荷=医学ライター

 「切除できるものは切除し、できないものは放射線治療、切除も放射線治療もできないものは薬物療法」だった肺がん治療の枠組みは、薬物療法の進歩により大きく変化している。1990年代には根治的放射線治療が実施できる患者に対して化学放射線治療を行うことが標準的治療となり、2000年以降は切除に術後補助化学療法などの周術期治療を追加することが標準的治療となった。そして近年、ドライバー変異に対する分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場は、肺がん治療とその成績を大きく変えている。

 9月にWEB上で開催された第60回日本呼吸器学会学術講演会における和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科教授の山本信之氏によるYear in Review「肺がん診療最近1年間の進歩」の内容を紹介する。



新たに登場したドライバー変異を標的とする治療薬

 近年、進行非小細胞肺がん(NSCLC)の薬物療法では、従来型の殺細胞性抗がん薬に加えて、分子標的薬剤や免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになっている。中でもドライバー変異(がんの発生や悪化において直接的に重要な役割を担う遺伝子の変異)に対する分子標的治療薬や、免疫チェックポイント阻害薬の進歩は著しい。

 治療の標的となるドライバー変異として、肺がんではこれまでEGFR変異、ALK転座、ROS1転座、BRAF変異が同定されており、これらの変異を有する場合、それぞれの変異に対応する薬剤による治療が行われる。

 そして2020年2月、新たにROS1/TRK阻害薬のエヌクトレチニブが、ROS1融合遺伝子陽性のNSCLCに対する治療薬として承認された。エヌクトレチニブは2019年9月に、神経栄養因子受容体チロシンキナーゼ(NTRK)融合遺伝子を有し特定のTRKタンパク質に薬剤耐性変異のない固形がんに対して承認されていた。

 またMET遺伝子エクソン14スキピッピング変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLCに対して、MET阻害薬のテポチニブが3月に、カプマチニブが6月に承認された。そのため、NTRK転座、MET変異も、ドライバー変異として肺がん治療における検査対象となってきている。

EGFR陽性の進行NSCLCに対する1次治療としてオシメルチニブが標準治療に

 これらのドライバー変異の中で、肺がんにおいて最初に発見され、またもっとも頻度が高いのがEGFR遺伝子変異で、これを標的とする治療薬として数多くのEGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が開発されている。

 山本氏によれば、この1年間におけるもっとも大きな進歩のひとつは、未治療のEGFR遺伝子変異陽性(EGFR陽性)進行NSCLCの1次治療で、第3世代EGFR-TKIオシメルチニブによる全生存期間(OS)の延長が示されたことである。オシメルチニブと第1世代EGFR-TKIのエルロチニブもしくはゲフィチニブを比較した第3相試験FLAURAの最終解析により明らかになった。オシメルチニブで無増悪生存(PFS)期間が有意に延長することは、すでに報告されていた(Soria JC et al., N Engl J Med. 2018; 378(2): 113-125)。

 データカットオフ2019年6月25日での最終解析におけるOS中央値は、第1世代EGFR-TKI群31.8カ月(95%信頼区間:26.6-36.0)に対して、オシメルチニブ群は38.6カ月(95%信頼区間:34.5-41.8)、ハザード比0.799(95%信頼区間:0.641-0.997、p=0.046)で、OSを有意に延長することが確認された(Ramalingam SS et al., N Engl J Med 2020; 382(1): 41-50)。これにより、EGFR変異陽性の進行NSCLCに対する1次治療として、オシメルチニブが標準的治療として確立された。

オシメルチニブに弱点はあるか?

 FLAURA試験に関しては、いくつかの副次的な解析(サブセット解析)の結果も報告されている。たとえば人種に注目すると、非アジア人(209例)においてはオシメルチニブの優位性は良好(ハザード比0.542、95%信頼区間:0.378-0.772)だが、アジア人(347例)では効果が劣るようにもみえる(ハザード比0.995、95%信頼区間:0.752-1.319)。またEGFR変異のタイプに関しては、エクソン21のL858R変異を有する患者(207例:ハザード比0.996、95%信頼区間:0.708-1.404)では、エクソン19欠失変異を有する患者(349例:ハザード比0.679、95%信頼区間:0.509-0.904)に比べて、オシメルチニブの効果が減じる可能性がある。

 山本氏は、「これらサブセット解析はprimary analysis(主たる解析)ではないため、それほど重要視すべきではないというのが私の考えではあるが、これらサブセット解析の中で少しオシメルチニブが弱いと思われるところに関して、いろいろな臨床試験が現在行われている」と説明した。

エルロチニブとラムシルマブの併用は人種や変異にかかわらず成績良好

 現在、日常臨床でオシメルチニブが使用されるようになっているが、ほかにも第1世代EGFR-TKIのエルロチニブ、ゲフィチニブ、第2世代EGFR-TKIのダコミチニブ、アファチニブが使用可能である。

 ゲフィチニブについては、第3相試験NEJ009においてゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド(GCP)療法の良好な成績が報告されている。PFS中央値はゲフィチニブ単剤群の11.2カ月に対してGCP群では20.9カ月、ハザード比0.49(95%信頼区間:0.39-0.62、p=0.001)だった。また追跡期間中央値45カ月における生存期間中央値(MST)はそれぞれ38.8カ月、50.9カ月、ハザード比は0.722(95%信頼区間:0.55-0.95、p=0.021)で、いずれも有意な改善を認めた(Hosomi Yet al., J Clin Oncol 2019; 38: 115-123)。

 エルロチニブは、血管新生阻害薬ラムシルマブとの併用療法が、米国ですでに1次治療として承認されおり、山本氏によれば、今後、国内でも承認される可能性が高い。エクソン19の⽋失またはエクソン21のL858R変異があるECOG PS 0-1の進⾏NSCLC患者を対象とする第3相試験RELAYにおいて、エルロチニブ単独(プラセボ群)と比較して、エルロチニブ+ラムシルマブ(併用群)でPFSの有意な延長が示されている。中央値はプラセボ群12.4カ月、併用群が19.4カ月でハザード比は0.591(95%信頼区間:0.461-0.760、p<0.001)だった(Nakagawa K et al., ASCO2019 #9000)。

 併用群では、L858R変異を有する患者においてもエクソン19欠失を有する患者とほぼ同じ効果が得られており、PFS中央値はプラセボ群が11.2カ⽉に対して19.4カ⽉で、ハザード⽐は0.618(95%信頼区間:0.437-0.874)だった。

 RELAY試験では、⽇本人を含む東アジア人336人のサブセット解析でも、全患者と同様の効果が得られることが示されている。併⽤群のPFS中央値はプラセボ群12.5カ⽉に対して併用群では19.4カ⽉、ハザード⽐は0.636(95%信頼区間:0.485-0.833、p=0.0009)だった(Nishio M et al., JSMO2019 PS1-2)。

 EGFR-TKIと血管新生阻害薬の併用療法としては、オシメルチニブへのベバシズマブ上乗せを検討する第3相試験(NCT04181060)が米国で計画され、日本でも第2相試験(医師主導治験WJOG9717L)の患者登録が終了している。

  EGFR-TKIについてはほかにも、薬剤への耐性発現後に薬剤を変えるのではなく、1次治療として異なるEGFR-TKIを順次使用することの有用性も検討されている。たとえば胸部腫瘍臨床研究機構(TORG)/西日本がん研究機構(WJOG)では、アファチニブを一定期間投与した後にオシメルチニブを投与する治療と、オシメルチニブの単剤療法を比較するランダム化第2相試験YAMATO(TORG1939/WJOG12919L)を実施している。また、オシメルチニブとアファチニブを交互に投与する治療(交替療法)の第2相試験Alt(WJOG10818L)も患者登録が終了して進行中である。

EGFR陽性例でも免疫チェックポイント阻害薬が有用?

 ドライバー変異を有する進行NSCLCでは、その変異に対する薬剤で1次治療を開始するが、第3相試験IMpower 150のサブセット解析では、少数例ではあるがEGFR変異例においても、化学療法+抗PD-L1抗体アテゾリズマブ+ベバシズマブが有用である可能性が示唆された(Socinski MA et al., N Engl J Med 2018; 378: 2288-2301)。

 こうしたことから、2次治療については、ドライバー変異を有する患者を対象に免疫チェックポイント阻害薬の有用性を検討する臨床試験が数多く行われている。

 またEGFR陽性だがEGFR-TKI抵抗性の転移のある患者に対する抗PD-1抗体ペムブロリズマブ+化学療法と化学療法を比較するKEYNOTE-789試験や、TKI抵抗性のEGFR変異(G719X、L861Q、Del 19及びL858R)陽性かつT790M陰性の患者に対する抗PD-1抗体ニボルマブ+化学療法と化学療法を比較するCheckMate 722試験が進行中である。この2つの試験はいずれも国際共同第3相試験で、日本も参加している。

 さらに国内でも、T790M 変異以外の機序によってEGFR-TKIに耐性化したEGFR陽性非扁平上皮NSCLCに対するニボルマブと化学療法を比較する第2相試験(WJOG8515L)が実施されている。

バイオマーカーに基づく2次治療を目指して

 最近では、2次治療においてもバイオマーカーに基づく試験が数多く行われるようになっている。代表的なものが非盲検多施設共同多剤併用第2相プラットフォーム試験ORCHARDである。オシメルチニブによる1次治療で病勢進行した時点でバイオマーカーを評価し、2次治療では、そのバイオマーカーに応じた治療を加えた併用療法を行う。たとえば、再発時にMET増幅を認めた患者に対してはMET阻害薬を、EGFR C797Xの発現が認められた場合にはゲフィチニブとオシメルチニブを併用する。

 プラットフォーム試験は、1つの疾患に対して継続的に複数の標的治療の評価を行い、試験中に新たな治療法や対象を追加あるいは除外できる試験デザインである。今後、再発に関わる機序に対する新たな薬剤が開発された場合、その薬剤による治療群を加えたり、効果がある治療が見つかった場合、その治療を”卒業”として臨床導入へ進めたりできる。山本氏は、「ORCHARD試験が成功すれば、2次治療においてもバイオマーカーに基づいた治療選択が可能になると考えられる」とした。

同定されたドライバー変異が多いゆえのジレンマ

 進行NSCLCでは、EGFR変異、ALK転座、ROS1転座、BRAF変異、NTRK転座、MET変異という6種のドライバー変異について、対応する治療薬を用いることが可能となってきている。山本氏によれば、今後、RET転座、KRAS変異、HER2増幅に関しても、それぞれの有効な薬剤が開発されて承認される見込みが高くなってきている。

 このことは、1次治療に際して検査すべき遺伝子変異の数が増えてくることを意味している。また2次治療以降についても、バイオマーカーに基づいた治療戦略が重要視される可能性が高くなってきており、「特に2次治療のことを考えると、遺伝子パネル検査やリキッドバイオプシーの重要性がさらに増すと考えられる」(山本氏)。

 遺伝子パネル検査により複数の遺伝子の異常を一度に検査できるようになっているが、肺がん診療における遺伝子パネル検査には、いくつかの問題点がある。最も重要なのは検査に必要な組織量だという。気管支鏡等では十分な組織を採取することが難しく、そのために遺伝子パネル検査が実施できない症例も少なくない。またコストの点も考慮せざるを得ないという。

 山本氏は、「特にリキッドバイオプシー等は2次治療で数多くの患者に対して承認される見込みとなっていることもあり、保険償還額と実際支払う費用との間にdiscrepancy(相違)が生じることになる。検査をすればするほど病院にコスト(負担)がかかる可能性が示唆されている」と説明した。

 こうした問題のために、遺伝子パネル検査を導入しないと判断する施設も少なくないという。最近では、他のがんでも遺伝子パネル検査を実施する機運が高まっているが、実は、遺伝子変異に基づく治療は肺がんがもっとも進歩しており、それが標準的治療ともなっている。山本氏は、日常臨床への遺伝子パネル検査の導入が遅れることで、肺がん診療のみが、いわば“ガラパゴス化”してしまうことを危惧している。「問題点はあるが、やはり遺伝子パネル検査の導入に関しては、歯を食いしばってでも積極的に行なっていくべきではないか」と述べた。

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