このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2020/11/17

がんに負けないお金の話Vol.12

バイオシミラーを使えばがん治療費は軽減できる?

福島安紀=医療ライター

 がんの治療費が高騰している。特に長期間に渡って家計を圧迫するのが分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などを用いた薬物療法の費用だ。薬剤費の負担を下げる手段として、近年、バイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーが注目されている。ジェネリックとどう違うのか、そして、バイオシミラーにはどのようなメリットがあるのか、国立がん研究センター中央病院薬剤部副部長の橋本浩伸氏に聞いた。


先発品と同じ化学合成物であるジェネリックとは異なる

 バイオシミラーは、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて作られ、特許が切れたバイオ医薬品の後続品。現在、がん治療に使われているバイオシミラーには、リツキシマブ(抗CD20抗体)、トラスツズマブ(抗HER2抗体)、ベバシズマブ(抗VEGF抗体)、フィルグラスチム(G-CSF)がある。リツキシマブはリンパ腫、トラスツズマブはHER2過剰発現が確認された乳がんと胃がん、ベバシズマブは結腸・直腸がん、非小細胞肺がん、乳がんなどの治療薬。フィルグラスチムは、抗がん剤治療や造血幹細胞移植の際、好中球数増加を促すために用いられる。そもそもバイオシミラーは、特許が切れた先発品と同じ成分の後続品であるジェネリックとはどう違うのだろうか。

 「バイオシミラーは、先発品であるバイオ医薬品と同等性・同質性が証明された医薬品です。全く同じ化学式で化学合成された後続医薬品のジェネリックと区別するために、バイオシミラーという言葉が使われています。シミラーは英語で『類似する』という意味です」と橋本氏は説明する。

国立がん研究センター中央病院の橋本浩伸氏

 少し専門的になるが、低分子化合物である化学合成医薬品は先発品の有効成分と全く同じ化学式でジェネリックを作ることが可能だ。これに対し、高分子量タンパク質のバイオ医薬品の場合は、バイオテクノロジーを用いて細胞から作られるので、アミノ酸配列は先発品と同じでも、分子レベルで全く同じ規格のものを合成することが難しい。そこで、先行バイオ医薬品と最も類似した規格のバイオシミラーが作られている。

 そのため、バイオシミラーの承認申請はジェネリックより厳しく、先発品のバイオ医薬品と同じ有効性・安全性が得られることが臨床試験で確認された上で厳しい審査を経て製造販売が認められる。ジェネリックを製造する製薬企業は後発医薬品専門のメーカーも多いが、バイオシミラーの製造には先発医薬品を作る製薬企業が多く参入しているのも特徴だ。

先発バイオ医薬品より3~5割薬剤費を軽減

 「バイオシミラーを使うメリットは、先発品と同じ有効性・安全性が得られる上に価格が安いことです。開発・製造にコストがかかるのでジェネリックほど安くはありませんが、それでも、バイオシミラーを使えば先行バイオ医薬品に比べて3~5割は薬剤費が抑えられます」と橋本氏は話す。

 例えば、リツキシマブ500mg50mL 1瓶の薬価は先発品が14万8996円、バイオシミラーが10万2362円。トラスツズマブ150mg 1瓶は先発品が4万2543円、バイオシミラーが2万8468円だ。フィルグラスチム300μg 1筒は先発品1万6377円だが、バイオシミラーは8609円でほぼ半額になる。

 ベバシズマブ100mgの薬価は先発品が3万5877円、バイオシミラーが2万2283円で、約4割薬剤費が軽減される。切除不能な進行・再発結腸・直腸がんで1回300mgのベバシズマブの投与を月2回受けている人の場合は、先発品を使えば3割負担の人でベバシズマブの薬剤費が1カ月6万4578円、バイオシミラーなら4万109円で、2万円以上安くなる計算になる。

 ただし、バイオシミラーはほぼ全て注射薬であり、現在バイオシミラーになっているがん治療薬はリツキシマブ単独療法を除いては他の抗がん剤と併用して使われる。そのため、橋本さんは、「バイオ医薬品を用いた化学療法を受けている患者さんのほとんどは、高額療養費制度によって自己負担額が軽減されているので、先発品からバイオシミラーに切り替えても、自己負担が安くなったという実感は得られないと思います」と指摘する。高額療養費制度を使うと、一般所得の人で1カ月の自己負担額が約9万円、12カ月間のうち4回以上続くとさらに軽減されて4万4000円になるが、先発バイオ医薬品をバイオシミラーに変えても、その自己負担額はほぼ同じだからだ。

長い目で見れば健康保険料の負担増を抑える可能性も

 また、注射薬であるため、バイオシミラーを使うかどうかは院内で統一されていることが多く、内服薬のジェネリックを使うときのように患者に選択を求めることは少ないとみられる。

 それでも橋本氏は、次のように強調する。「がん関連の薬剤費は当院だけでも毎年億単位で増えており、このままでは皆保険制度や現在の高額療養費制度が維持できなくなるのではないかと心配になるくらいです。患者さん自身の自己負担額は変わらなくても、バイオシミラーの導入によって少しでも医療費を軽減できれば、健康保険料の負担増を防ぎ、皆保険制度や高額療養費制度を守ることにつながるのではないでしょうか」。

 ところで、バイオシミラーのデメリットはないのだろうか。「有効性と安全性が先発バイオ医薬品と同等・同質ということが臨床試験で確認されている薬なので、デメリットはほぼないと考えられます。ただし、副作用は若干異なる可能性があるので、今後、個々のバイオシミラー特有の副作用がないかどうか検証してみる予定です」と橋本氏。

 特許の切れた抗体薬など、今後もがん治療で用いられるバイオシミラーは増える見通しだ。どの程度、医療費全体の軽減に貢献できるか注目される。


がんに負けないお金の話

Vol.1  がん患者の「医療費控除」で少しでも多く税金を取り戻すには

Vol.2  がん治療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」フル活用術

Vol.3  該当するなら活用したい 高額介護合算療養費、傷病手当金、ひとり親家庭等医療費助成、ウィッグ・胸部補正具助成

Vol.4  徐々に増える小児・AYA世代のがん患者への助成

Vol.5  もしものときのために知っておきたい「介護保険」活用術

Vol.6  現役世代が、がんでも受給できる可能性がある「障害年金」

Vol.7  医療費がかさみ、生活費や教育費の工面に困ったときの対処法

Vol.8 医療費や生活費のためにも知っておきたい、がん患者への就労支援

Vol.9 がん体験者でも入れる民間の「がん保険」

Vol.10
がん体験者が入れる「引受基準緩和型医療保険」の選び方

Vol.11
がん体験者の家族は「がん保険」に加入すべき?

この記事を友達に伝える印刷用ページ