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レポート

2020/11/10

日本乳癌学会学術総会PAP(Patient Advocacy Program)より

専門医に聞く乳房再建の最新事情

紆余曲折を経たインプラント、保険適用となったHBOCの予防的切除

森下紀代美=医学ライター

人工物再建の限界と克服法

 人工物再建では、乳がんの切除時に表面の皮膚もある程度切除されることが多いため、まず皮膚を延ばす必要がある。通常は、まずエキスパンダー(組織拡張器)を入れ、生理食塩水を少しずつ注入し、皮膚を延ばした後、インプラントに入れ替える2回法が一般的である。乳腺組織を取った後は皮膚が薄くなるため、エキスパンダーは大胸筋の下に入れる必要がある。条件がそろっていれば、エキスパンダーを入れずに一度でインプラントを入れ、再建が完成する1回法も可能である。

 インプラントによる再建は、インプラントの大きさと形で決まり、限界がある。乳房の自然な下垂の再現はできない。そのため、下垂がある乳房で再建を希望する場合は、健側の乳房を挙上する手術をしたり、インプラントのサイズがないほど大きな乳房の場合は、健側の乳房を縮小する手術をしたり、逆にインプラントのサイズがない小さな乳房の場合は、健側の豊胸手術をしたりして、左右のバランスをとる。また、インプラント上方の段差やインプラントのしわ(波打ち)が見える場合は、脂肪注入で修正することができる。ただし、これらのインプラントの限界に対する克服方法は、いずれも保険適用となっていない。

大きく変化してきた人工物再建の歴史

 人工物再建は「他の部位を傷つけずに再建できるという最大の強みがあり、普及が拡大しているが、その歴史には紆余曲折がある」と奥村氏。

 日本では、約50年前にシリコンインプラントを用いた乳房再建が始まった。40年前には、米国ダウコーニング社のシリコンインプラントが日本に輸入されるようになった。その後、エキスパンダーで皮膚を延ばし、インプラントに入れ替える現在の方法が確立された。シリコンインプラントも進化し、最初は表面がつるつるした丸型のインプラント(スムースラウンドインプラント)だったが、より整容性が高い、表面がざらざらでしずく型のインプラント(テクスチャーアナトミカルインプラント)も登場した。しかし、28年前、シリコンインプラントが自己免疫疾患を引き起こすとして問題になり、米国で利用が中止され、日本への輸入も中止となった。そのため、しばらくの間、インプラントは生理食塩水のバッグのみの時代となった。

 自己免疫疾患とインプラントに因果関係はないことが後に判明し、シリコンインプラントが戻ってきた。米国アラガン社などがテクスチャーアナトミカルインプラントを販売し、日本では2013年にインプラントによる乳房再建が保険適用となった。日本で唯一保険承認されたインプラントは、アラガン社のテクスチャーアナトミカルインプラントだった。

 しかし、2019年7月24日、アラガン社のテクスチャーアナトミカルインプラントが全世界で販売停止となった。この日を境に、日本では人工物での乳房再建ができなくなった。

 販売停止となった理由は、ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)だった。BIA-ALCLは悪性リンパ腫の1つで、2016年の世界保健機関(WHO)の分類で、ブレスト・インプラント関連のALCLとして、他のALCLと異なるカテゴリーに分類されるようになった。悪性リンパ腫は種類により発症の仕方や治療方法が全く異なり、BIA-ALCLは早期であれば予後は比較的良好とされる。日本では2018年頃から、インプラントによる乳房再建で起こる可能性がある稀な合併症として、話題に上るようになった。

 BIA-ALCLの発生頻度は、テクスチャータイプ全体で約2200~8万6000人に1人、アラガン社の製品に関しては約2200人~3300人に1人の割合とされている。これまでのアジアでの報告は、日本の1例を含めた4例のみとなっている。発生までの期間は、インプラントの留置から平均9.75年とされる(2020年10月2日、日本乳癌オンコプラスティックサージェリー学会、日本形成外科学会、日本乳癌学会、日本美容外科学会[JASPS])。

 BIA-ALCLは、詳しい原因など、まだ詳細にわかっていないことが多い。症状で最も多いのは、インプラント周囲に浸出液が溜まって腫れるというもの。インプラント周囲のしこりで発見される場合もある。これらの症状があれば、MRIやエコーで異常を発見することが可能で、診断はこの溜まった浸出液やしこりを検査に出して確定することになる。

 病期分類は、インプラント周囲にできた被膜までにとどまっているものがI期、被膜の外に少し出ているが、腋窩リンパ節までにとどまっているものがII期、周囲のリンパ節に進行しているものがIII期、他の部位に転移しているものがIV期となる。I期のうちに発見し、治療できれば、インプラントとその周囲の被膜を取り除くことで完治の可能性がある。

 研究が進む中でわかってきたのが、インプラントの表面構造の違いでBIA-ALCLの発生頻度が違うことである。表面構造を4段階に分けると、グレード4で最も発生頻度が高く、アラガン社の製品はグレード3に相当する(P. Jones, et al. Plast Reconstr Surg. 2018;142:837-49)。これを受けて、米国で同社の製品の販売停止が決定され、世界中で一斉にアラガン社のアナトミカルインプラントが消える事態となった。ただし、アラガン社の製品での発症頻度は0.03%と低く、すでに再建が完成し問題ない場合は、インプラントの取り出しや別の物への入れ替えは推奨されていない。

 そうした中、2019年12月に新しいインプラントが保険適用となった。アラガン社のスムースラウンドインプラントで、耐久性は以前のものと同じであるが、「テクスチャーアナトミカルインプラントの整容面の利点を考えると、時代が20年戻ってしまった感じは否めない」(奥村氏)。新たなインプラントは境目がわかりやすく、釣り鐘型の乳房を作ることは難しくなったという。一方、新たなインプラントの利点は、表面構造がグレード1で、BIA-ALCLの発生報告が世界で1例のみと少ないことである。「インプラントとBIA-ALCLについては今後も注目していかなければならない」と奥村氏は話した。

 テクスチャーアナトミカルインプラントについては、2020年8月20日、日本では米国シエントラ社のインプラントが薬事承認を取り、10月1日に保険適用されることとなった。表面構造はグレード2に相当し、BIA-ALCLの頻度は低くなるが、ゼロではない。また、サイズ展開はアラガン社のものと比べると少なくなる見込みだという。

 海外の状況をみると、米国の主流はスムースラウンドインプラントで、BIA-ALCLのリスクは現時点では最も低いが、整容面では困難を伴う。欧州で多く流通しているのはテクスチャーアナトミカルインプラントで、新たに認可されたものはBIA-ALCLのリスクが低いが、ゼロではなく、整容面では日本人の再建に向いていると考えられる。奥村氏は「今後、日本ではどちらかが主流になっていくのか、それとも両方をうまく使い分けていくのか、考えていく必要がある」とした。

HBOCでは検査から予防的切除、再建まで保険適用に

 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は、2013年5月、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーがBRCA1遺伝子変異陽性のため、両側の乳腺の予防的切除を受けたことがニュースとなり、日本でも知られるようになった。日本の複数の病院において、自費診療で遺伝子検査と予防的切除、再建が少しずつ開始された。

 HBOCは、生殖細胞系列のBRCA1/2遺伝子変異に起因する乳がん、卵巣がんをはじめとするがんの易罹患性症候群で、常染色体優性遺伝形式を示す。日本では年間約9万人が新規で乳がんに罹患しており(国立がん研究センター がん情報サービス[2020年のがん統計予測])、その3~5%をHBOCが占めるとされている。BRCA1/2遺伝子に変異があると、生涯で乳がんに罹患する可能性は、一般的な日本人の6~12倍に高まると言われている(S. Chen, et al. J Clin Oncol 2007;25:1329-33)。

 日本では、2020年4月、HBOC確定診断目的でのBRCA遺伝子検査、遺伝カウンセリング、HBOCと確定した場合の予防的な乳房または卵巣の切除、乳房再建に保険が適用されることとなった。BRCA遺伝子検査は3割負担の場合で約6万円となり、HBOCと診断されたら、反対側の乳房に乳がんが発症する前に、予防的な乳房切除と再建、卵巣切除を保険で受けることができる。

 ただし、現段階で対象となるのは、乳がん、卵巣がんをすでに発症している人のみ。規準は、「45歳以下の乳がん発症」、「60歳以下のトリプルネガティブ乳がん発症」、「2個以上の原発性乳がん発症」、「第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がん発症者が1名以上いる」、「卵巣がん、卵管がんおよび腹膜がんを発症」、「男性乳がんを発症」の1つ以上に当てはまる場合となる。予防的切除と再建ができる施設は現時点では限られている。

 最後に奥村氏は「乳房再建を取り巻く環境はまだまだ変化していくと思う。最先端の情報を取り入れながら、患者さんごとのニーズにあった再建を提供できるよう、日々努力していきたい」と述べた。


日本乳癌学会学術総会PAP(Patient Advocacy Program)より
遺伝カウンセリングってなあに?

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