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レポート

2020/11/10

日本乳癌学会学術総会PAP(Patient Advocacy Program)より

専門医に聞く乳房再建の最新事情

紆余曲折を経たインプラント、保険適用となったHBOCの予防的切除

森下紀代美=医学ライター

 この1年余りの間に、乳房再建を取り巻く環境は大きく変化した。2019年7月には、ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の発症への懸念から、日本で保険認可されていた人工乳房(インプラント)が、米国において販売中止が決定され、日本全国で人工物による再建が一斉に停止される事態となった。2020年1月から拡大した新型コロナウイルス感染症では、乳房再建の制限を迫られた施設もある。一方、新たな進展として、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に対し、2020年4月、遺伝子検査と遺伝カウンセリング、予防的乳房切除、乳房再建が保険適用となった。

 第28回日本乳癌学会学術総会のPatient Advocacy Program「乳房再建の最先端教えて」では、愛知県がんセンター中央病院形成外科部医長の奥村誠子氏が、このような状況を踏まえながら、乳房再建の進歩と最新事情について解説した。


患者自身の組織を使う自家組織再建の進化

 乳房再建には、患者の身体から組織を移植する「自家組織再建」と、インプラントを用いる「人工物再建」がある。自家組織再建には、背部の組織を移植する方法と腹部の組織を移植する方法がある。

 背部の組織を移植する「有茎広背筋皮弁」では、背中の皮膚、脂肪、筋肉(広背筋)を腋窩から出ている血管をつなげたまま、胸部に移動させる。「有茎」は血管をつなげたまま移植すること、「皮弁」は血液が流れている皮膚や皮下組織を移植する手術の方法のことだ。広背筋皮弁のみでは大きな乳房は作れず、体型に比べてやや小さな乳房の人に適した方法となる。しかし、広背筋皮弁の下にインプラントを挿入し、広背筋だけでは足りないボリュームを足すことが可能になった。この方法は、1990年以前に行われていた術式で大胸筋、小胸筋を切除した患者にも行われ、現在でも、放射線照射後などで胸部組織が薄すぎたりする場合に用いられる。

 その後、「拡大広背筋皮弁」が登場した。広背筋に加えて腰の脂肪組織も一緒に取るこの方法では、インプラントを併用しなくても、体型相応の大きさまでの乳房が再建できる。現在の広背筋皮弁の主流はこの方法と考えられる。

 次世代の主流になる可能性があるのは、広背筋皮弁に脂肪を注入してボリュームを増す方法だ。奥村氏は「拡大広背筋皮弁では、腰の脂肪部分が硬くなってしまうことがあるが、筋肉の中に注入する脂肪は生着が良好で、軟らかく大きな乳房が再建できると考えられる」と話した。海外、日本から報告が増えてきているが、日本では脂肪注入がまだ保険適用となっていない。

 腹部の組織を移植する「腹直筋皮弁」は、大きな乳房の再建が可能で、現在の王道と言える方法である。最初に登場したのは、腹部の皮膚、脂肪、筋肉(腹直筋)を縦型に、腹直筋の上方から出ている上腹壁動静脈をつなげたまま、胸部に移動させる「有茎縦型腹直筋皮弁」だった。その後、腹部で最も脂肪がある下腹部を有効に使える皮弁として、「有茎横型腹直筋皮弁(有茎TRAM皮弁)」が開発された。横型は、縦型より多くの脂肪組織を取ることが可能で、現在の主流となっている。

 ここまでの方法は、いずれも組織や血管を切り離さずに移動させる方法である。皮弁の血流の研究が進み、血管吻合による組織移植の技術が開発されたことにより、一度組織を切り離し、血管をつないで移植する「遊離皮弁」が登場した。

 腹直筋皮弁では、腹直筋の下方から出ている下腹壁動静脈のほうが血流は良好なことが分かった。この血管を用いる場合は、一度組織を切り離さないと胸部に移植できないため、組織と血管を切り離し、胸部の血管と吻合して移植する「遊離腹直筋皮弁」が行われるようになった。筋肉内の血管の走行に関する研究も進み、下腹壁動静脈は筋肉内で内側列と外側列に分岐するタイプが最も多く、内・外側列それぞれから穿通枝(垂直方向に走行する細い動脈)を出し、その部分の組織を栄養することが分かっている。広い面積の皮弁を栄養するためには、この穿通枝が重要になる。

 自家組織再建では、腹部に優しい手術をするため、できるだけ筋肉を温存する筋肉温存型(Muscle Sparing:MS)TRAMで行うことが多くなっている。MS TRAMは、筋肉温存のないMS0、外側のみ筋肉を温存するMS1、外側列の外側と内側列の内側の筋肉を温存するMS2、外側列または内側列の一方のみで、筋肉をつけないMS3(DIEP flap)の4つに分類される。血行は、MS0からMS2までが同様で、DIEP flapはやや劣る。

 DIEP flapは日本で開発された皮弁で、筋肉を含めず、穿通枝を内側列か外側列のどちらか一方にすることで、筋肉の切開量を最小限にすることができ、腹部に優しい手術と言える。ただし、含まれる穿通枝の数は少なくなり、組織の血流範囲が狭くなる可能性もある。

 同じ下腹部の皮弁に、「浅下腹壁動脈皮弁(SIEA flap)」もある。浅下腹壁動脈は腹直筋よりも上方の皮下を走行しており、採取する時に筋肉を全く切らず、最も腹部に優しい手術となる。両側乳がんで皮弁を半分ずつにする人、腹部皮弁の半分のボリュームですむ人などが適応と考えられる。血管が短く細いことが欠点で、またこの血管が存在しない人もいる。

 この他、臀部の上や下、大腿の内側、腰などから皮弁を取って移植する方法も報告されている。

 奥村氏は、今後発展する可能性が最も高い方法として、「脂肪注入」を挙げた。日本の複数の施設では自費診療で行われており、乳がん切除時にエキスパンダーを入れ、皮膚を延ばしておきながら脂肪を注入して置き換えていくという方法が取られている。脂肪注入はインプラントの修正にも有用な方法であるが、保険適用は見送られている。乳房再建を脂肪注入だけで完成させるには複数回繰り返す必要があること、大きな乳房を脂肪注入だけで作ることは難しいことなどが報告されている。「技術がさらに進歩すれば、メインになる方法かもしれない。将来に期待を寄せている」と奥村氏は話した。

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