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レポート

2020/11/03

日本乳癌学会学術総会PAP(Patient Advocacy Program)より

遺伝カウンセリングってなあに?

正確な情報を伝えて患者自身の力で問題解決できるようにサポート

八倉巻尚子=医学ライター

ある日の遺伝カウンセリング

 実際の遺伝カウンセリングはどのようなものだろうか。ある日の遺伝カウンセリングの様子が紹介された。来談者は35歳の女性Aさん。28歳のときに乳がんを発症した。夫と長男との3人暮らし。Aさんは「主治医に遺伝カウンセリングを勧められました。親戚にもがんの人は結構いたのでがん家系だと思っています。でも、すでに1回がんになったし、手術も終わっているので大丈夫ですよね。子どもも男の子だから乳がんにはならないと思って」と話した。

 遺伝カウンセラーは、家族の病歴を確認して、考えられる遺伝性のがんについて話をした。家族歴を聴取したところ、乳がんの既往歴はAさんの母、母方の祖母に認められ、また母方の叔父は前立腺がんで亡くなっていた。

 Aさんの病歴と家族の情報からHBOCが疑われるため、遺伝カウンセリングではHBOCの情報や関連するがんの情報、遺伝学的検査の概要を伝えた。遺伝学的検査の結果によっては、子どもや兄弟、姪や従兄弟にも影響する可能性がある。検査を受けるかどうか、受けた場合の結果によってどのような影響がありそうかなどを聞いていくと、Aさんは遺伝性のがんを理解して、自分と家族への影響を考え始めた。

 このときに「遺伝学的検査を受けて、遺伝性だとわかったら検診して自分の健康に役立てたい。予防できるなら予防をしたい。子供のために長生きしたいからできることは全部したい。情報を家族の健康管理に活かしていきたい」という声が出てくることがある一方で、「自分は遺伝性のがんとは違うタイプな気がする。もう1回がんになった時に考える。今は仕事も子育ても忙しいから後で考える。今はみんなががんになる時代だから仕方がない」といった声が出ることもあるという。

 遺伝カウンセリングは1回で終了ではなく、考えているうちに何回も考えが変わることは少なくない。「むしろそれが当たり前かもしれません。納得がいくまで継続して関わり、クライエントの意思決定を私たちは支援しています」と高磯氏は言う。

遺伝学的検査を受けるかどうかを決める前に

 遺伝カウンセリングを受けたら、必ず遺伝学的検査を受けるというものではない。遺伝性腫瘍や遺伝学的検査について説明を聞いた上で、遺伝学的検査を受けるかどうかを本人が決め、受けると決めた場合に検査が実施される。

 検査は採血によって行い、3週間程度で結果が到着する。結果は、調べた遺伝子に病気と関係する変化が見つかり、遺伝性が確定する「陽性」、調べた遺伝子に病気と関係する変化がなかったという「陰性」、遺伝子に何らかの変化はあったが、病気と関係するのかどうか今の医学ではわからない「未確定」のいずれかとなる。そのため「陽性か陰性かがいつでもはっきりするというものではない、という点にも注意が必要です」(高磯氏)。

 陽性、陰性、未確定のどの結果でも、検査をして良かったと思う気持ち、検査をしなければよかったと後悔する気持ちが出てくるだろう。陽性の結果が出た場合、発症理由が明らかになり、2つめのがんの予防や早期発見、早期治療に生かせるかもしれないという気持ちになる反面、これからの自分や家族への心配が出てくることが予想される。このため「検査前の遺伝カウンセリングでは、自分が検査をした場合としなかった場合、また検査をした場合にそれぞれの結果が出たときに、自分ならどんな気持ちになるかをシミュレーションしてみることを提案しています」。

 また遺伝学的検査は生まれつき病気になりやすい体質を調べる確定診断であるため、一般の血液検査などとは違う特徴がある。「生涯変わらない情報を調べること、その情報は将来の健康状態を予測する情報になること。また自分以外の血縁者にも影響する情報を調べること、などです。1度知ったら、知らなかった状態には戻れません。それを理解してもらった上で、確定診断を受けたいとの希望があれば遺伝学的検査に進みます」。

1つの遺伝子を調べる検査と多遺伝子パネル検査

 クライエントによっては、疑われる遺伝性腫瘍がいくつも考えられる場合がある。例えば乳がんでは、HBOCやリ・フラウメニ症候群など、複数の遺伝性腫瘍が関係している。疑われる遺伝性腫瘍がいくつかある場合は、疑われる順に遺伝子を1つずつ調べていくことになるが、いくつも調べることは結果的に時間も費用もかなりかかってしまう。その場合には、1度に複数の遺伝子を調べることができる多遺伝子パネル検査を行うこともできる。

 高磯氏の施設では、1度に35個の遺伝子を調べることができる多遺伝子パネル検査が導入されている。1つの遺伝子を調べる従来の検査に比べて、いくつかの遺伝性腫瘍が疑われる場合は1回で検査できるので効率的だが、1回の検査での採血量や費用が違う。また検査結果の到着までの期間は、従来の検査では1週間から3週間だが、多遺伝子パネル検査は6週間かかることがある。そのため術式の検討など結果を急いでいる場合は従来の検査が適しており、どちらの検査を行うか目的に応じて選ぶこともある。

 遺伝学的検査によって確定診断された後は、発症リスクを軽減するために、検診やリスク低減手術をどうするか、発症していないがんに対しての検診は自費診療となるが、いつまで継続したほうがいいかなど、新たな心配や疑問が出てくるかもしれない。「クライエントや家族は生涯にわたって遺伝性腫瘍の体質と付き合っていく必要が出てきます。予防や早期発見のための情報提供、心理社会的支援を行えるのが遺伝カウンセリングです。決して、遺伝学的検査をしたら終了というものではありません」(高磯氏)。

 昨今のがんゲノム医療の進展で、遺伝性腫瘍の診断の流れにも変化が及んでいる。これまでは家族歴から遺伝性腫瘍が疑われる、遺伝の不安があるなどの場合に、遺伝カウンセリングを受け、カウンセリング後、希望があれば遺伝学的検査へという流れで遺伝性腫瘍が診断されてきた。しかし最近は、がんの治療法を探す目的の遺伝子の検査で、遺伝性腫瘍の疑いが見つかり、その結果から遺伝カウンセリングを行うケースも見られるようになったという。遺伝性腫瘍は様々な臓器のがんが関わっているため、認定遺伝カウンセラーとして関わりを持つ診療科は増え、多職種との連携、地域医療施設との連携も欠かせない状況になっていると高磯氏はいう。
 
 「がんの遺伝性がわかることで、患者さん自身の治療法選択に役立つことがあります。患者さん自身の次のがんへの対策に役立つ場合があります。また血縁者の未発症のがんへの対策に役立つ場合があります。がんを疑った時から遺伝性を考えて、正確な情報を得ることは自分自身の様々な選択にとって有用です。困った時や不安な時は遺伝カウンセリングを利用してください」と高磯氏は話した。

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