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レポート

2020/11/03

日本乳癌学会学術総会PAP(Patient Advocacy Program)より

遺伝カウンセリングってなあに?

正確な情報を伝えて患者自身の力で問題解決できるようにサポート

八倉巻尚子=医学ライター

 遺伝的な体質が発症に関わる遺伝性のがん(遺伝性腫瘍)。乳がんでは5%から7%が遺伝性の乳がんといわれている。がんになった家族がいる、自分ががんになって子どもに遺伝するか心配、遺伝子の検査を受けたほうがいいのか——。遺伝に関わる悩みや疑問などを相談できるのが遺伝カウンセリングだ。

 第28回日本乳癌学会学術総会のPAP(Patient Advocacy Program)で、認定遺伝カウンセラーの高磯伸枝氏(愛知県がんセンターリスク評価センター)が、遺伝性のがんと遺伝カウンセリングの取り組みについて説明した。


遺伝カウンセリングはどのようなところか

 遺伝カウンセリングとは、「遺伝に関わる悩みや不安、疑問などを持たれている方々に、まず科学的根拠に基づく正確な医学的情報をわかりやすくお伝えし、理解して頂けるようにお手伝いするところです」と高磯氏は説明した。「その上で、十分にお話を伺いながら、自らの力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決していけるよう、心理面や社会面を含めた支援を行います」(日本遺伝カウンセリング学会)。

 一般の診療では、病気を発症している、または病気の疑いのある患者さんが対象になる。一方、遺伝カウンセリングは、患者さんだけでなく、患者さんの家族や、「家族にがんを発症した人が多いため、自分もいつかなるのではといった不安があり、相談したい」という人も対象になる。こういった来談者は「クライエント」と呼ばれる。

 遺伝カウンセリングを担う職種の1つが「認定遺伝カウンセラー」。日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同で認定しており、国内では267名の認定遺伝カウンセラーが、遺伝性のがんだけでなく、周産期、小児、神経など遺伝が関わる領域で活動している。また遺伝カウンセリングには、認定遺伝カウンセラーのほか、施設によって「臨床遺伝専門医」や主治医、看護師などさまざまな職種が関わっている。

遺伝カウンセリングの外来数は徐々に増加

 高磯氏が所属する愛知県がんセンターでは、2013年から遺伝カウンセリング外来を設けている。遺伝性のがんへの対応を中心に行い、2016年には遺伝カウンセラーが常勤に、2018年には独立した遺伝専門部門としてリスク評価センターが開設された。

 遺伝カウンセリングの外来数は2013年の開設以降、徐々に増加し、遺伝性の体質があるかどうかを確定診断するための「遺伝学的検査」の希望も増加しているという。遺伝カウンセリングを受ける理由や目的はさまざまで、がんに罹患した本人が今後のことを心配して、「遺伝子の検査を受けたい」「またがんになるのではないか気になっている」「治療法や予防法を知りたい」「子供がほしいが遺伝が心配」といった理由で来談するほか、家族や親戚の病歴から自分や家族のリスクを心配して相談することもある。また「テレビの番組や本を見て自分のがんの特徴に当てはまるので遺伝ではないかと心配されてくる方もおり、 実際にそのような来談者の中から遺伝性の体質が診断されることもあります」。

 愛知県がんセンターの遺伝カウンセリングでは、通院中の患者さんやその家族だけでなく、地域の連携施設に通う患者さんなども受け入れている。遺伝カウンセリングはゆっくりと時間を取って行えるように、完全予約制で実施されている。
 
 遺伝カウンセリングの流れはこうだ。まず、クライエントだけでなく家族の病歴を聞いて、家系図を作成する。それを基に遺伝的リスク評価を行い、疑われる遺伝性腫瘍などの情報をクライエントに提供する。遺伝学的検査の内容や、結果が出た時の考え方などについても伝える。「ただし1回の遺伝カウンセリングですぐに何かを決める必要はなく、クライエント自身がよく理解した上で、自分の悩みや不安なことに自分の力で取り組んでいけるよう支援していきます」と高磯氏は話した。

がんになりやすい体質はなぜ遺伝するのか

 遺伝とは、生物の特徴や形質が親から子へ伝わる現象のこと。その特徴や形質を決めているものが遺伝子で、遺伝子は体をつくる設計図のようなものといわれる。「その遺伝子の中には特定の変化があるとうまく働けなくなって、病気になったり、病気になりやすくなったりするものがあります」。遺伝性腫瘍の原因遺伝子も、普段はがんになりにくいように調節している遺伝子に変化が起こり、そのためにがんになりやすい体質を持つことがわかっている。

 それぞれの遺伝子は2つで1セットになっている。常染色体優性(顕性)遺伝では、父親と母親から1つずつ遺伝子を受け継ぐため、次の世代は父親と母親が持つ2つの遺伝子のうち、どちらかが伝わる。例えば母親に遺伝性のがんに関わる遺伝子の変化がある場合、男女にかかわりなく、1人の子どもに50%の確率で遺伝子の変化、つまりがんになりやすい体質が受け継がれる。しかし「遺伝するのは、がんではなく、がんになりやすい体質であるということに注意が必要です」(高磯氏)。

遺伝性腫瘍の原因遺伝子と関連するがん

 遺伝性腫瘍の特徴は、一般的ながんの発症年齢と比べて若年で発症していること。また同時にあるいは異なる時期に何度もがんを発症しており、例えば乳がんなら両側性乳がんや片側乳房内多発などがある。同じ家系内で同じ遺伝性腫瘍に関連するがんを発症した人が複数いることや、一般的に稀ながん、例えば男性乳がんが見られることなどが挙げられる。

 遺伝性腫瘍の原因遺伝子は100種類ほどが知られている。遺伝性の乳がんの場合も複数の遺伝子が乳がんの原因になっており、「原因遺伝子が異なると乳がんは共通していても、関連する腫瘍は異なります」。例えば、米国の女優の告白で日本でも話題となった「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)は、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の異常が原因とされ、乳がんだけでなく、卵巣がん、膵がん、前立腺がんのリスクが高くなるといわれている。

 現在、一部の乳がん患者では保険診療でBRCA1/2遺伝子の遺伝学的検査が行われている。乳がん治療薬であるPARP阻害薬の適応を決めるためのコンパニオン診断を目的とした場合、あるいは乳がん患者で45歳以下の発症、2個以上の原発性乳がんの発症、第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がん発症者がいるなどの項目が当てはまりHBOCの確定診断を目的とした場合に、BRCA1/2遺伝子の遺伝学的検査が保険診療で受けられる。

 HBOCと確定診断されると、関連がんのリスクに合わせて、がん検診を見直したりリスク低減手術を検討する。「原因遺伝子とがんの種類によって、リスクの高さやリスクが高くなる年齢が異なりますので、それぞれに合わせた対策を考えていくことになります」。またいくつかの診療科をまたぐことが予想されるため、検診や検査の時期を調整することも提案しているという。

 乳がんに関係する遺伝性腫瘍には、「リ・フラウメニ症候群」もある。原因遺伝子はTP53遺伝子で、これも常染色体優性(顕性)遺伝のため次世代に50%の確率で遺伝する。乳がん以外に、軟部肉腫や骨肉腫、脳腫瘍などさまざまながんのリスクが高くなるといわれる。特に若年乳がんの発症頻度が高いことから、高磯氏の施設では、35歳以下の乳がん患者さんにはHBOCとともにリ・フラウメニ症候群についても情報を伝えているという。

 血縁者の病歴などがきっかけで疑われることがある一方で、家族にがんの治療歴がなくても、リ・フラウメニ症候群が確定診断されることもある。「7%から20%の方は新生突然変異といって、親には遺伝子の変化がなくても、新たに遺伝子に変化が起こり、遺伝性の体質を持つことがあります」。

 「こうした遺伝性腫瘍の情報を聞くと、自分はどうなのか、家族はどうなのか、あるいは遺伝学的検査をやってみたいという気持ちが高まることがあるかもしれません」。しかし患者さんや家族の状況は一人ひとり違う。「正確な情報を知った上で本当に検査が必要なのか、検査を受けて確定診断されたらどうしたらいいのか、これからの人生を考えていくことを支援するのが遺伝カウンセリングです」と高磯氏は話した。

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