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レポート

2020/10/20

がんゲノム医療は早期治療につながる?リキッドバイオプシーで何ができる?

よりよいゲノム医療の実現へ患者の視点を生かす

中西美荷=医学ライター

リキッドバイオプシーって何?

 続いて、同じく臨床研究支援部門TR支援室/消化管内科の中村能章氏が、「リキッドバイオプシーって何?」と題して講演した。リキッドバイオプシーで何ができるのか、どのようにがんゲノム医療に活用するか説明するとともに、新たなリキッドバイオプシーの可能性についても言及した。

 リキッドバイオプシーは、“リキッド”と“バイオプシー”という2つの単語が組み合わさった用語である。

 日常のがん診断において、がんができた場所の細胞を調べるという過程がある。一般的には腫瘍組織をとって(検体採取)、顕微鏡でみて、がん細胞があれば、がんと診断される(病理診断)。そして一部の患者では、採取した検体を、がんゲノム医療を行うための遺伝子パネル検査にも用いる。この一連の流れを、日本語で“生検”、英語で“バイオプシー”という。

 一方、リキッドは日本語では“液体”を意味する。したがって“リキッドバイオプシー”は、直訳すれば“液体の生検”という意味になる。ただ中村氏によれば、がん診療の場面では、リキッドバイオプシーは “血液や体液を採取して得た腫瘍検体の解析”を意味するという。

 もっともイメージしやすいのが血液の解析だが、実は検体は血液に限らない。喀痰、尿、便、食道擦過液、脳脊髄液、子宮頸部細胞といったさまざまな体液を用いた解析も行われており、これらの腫瘍検体を用いた解析もリキッドバイオプシーである。

血中に放出される“がんの痕跡”を探す

 がん細胞が壊れると、血中に、さまざまながんの痕跡が放出される。また、組織から離れたがん細胞そのものが血中を流れていることもあり、これは血中循環腫瘍細胞、英語でCTC(Circulating tumor cell)と呼ばれる。

 細胞が壊れてDNAが流れ出していれば、血中循環腫瘍DNA(Circulating tumor DNA:ctDNA)、RNAであれば血中循環腫瘍RNA(Circulating tumor RNA:ctRNA)と呼ばれる。またエクソソーム(細胞外小胞)という、がん由来の蛋白やDNA、RNAなどを取り込んだ袋も流れていて、がんの痕跡の宝庫として、日本でも研究が進められているという。

 講演で中村氏が取り上げたのはctDNAで、ここ4〜5年は世界的に盛んに研究され、特にがんゲノム医療においてはもっとも有用であるとして注目されているという。

リキッドバイオプシーを活用するための機器も開発中

 中村氏によれば、現在もっとも関心が寄せられているのは、がんゲノム医療において、ctDNAを用いた解析が、F1CDxやNCCオンコパネルといった腫瘍組織を検体とする解析の代替となるかどうかという点。まだ明確になっていないのが現状だ。

 ctDNAを検体とする遺伝子検査として、特定のDNA断片だけを選択的に増幅させる技術(PCR)を用いた解析は、すでに実臨床で応用されている。NGSとは異なり単一遺伝子を解析するもので、肺がんのEGFR遺伝子変異を評価する「cobas EGFR Mutation Test v2」、大腸癌のRAS遺伝子の変異を調べる「OncoBEAM RAS CRCキット」が、日本でも保険承認されている。

 ただ、がんゲノム医療を行うためには、複数の遺伝子を同時に解析する必要がある。すでに世界ではさまざまなNGSが開発されており、GUARDANT Health社のGuardant 360や、Foundation Medicine社のFoundationOne Liquidは、いずれも約70の遺伝子解析が可能となっている。

 Guardant 360は、今年8月20日に米国食品医薬品局(FDA)で承認されたが、日本ではまだ保険承認されていない。中村氏らは、研究を通じて、これらの検査が日本でいち早く承認されることを目指している。

リキッドバイオプシーを用いたがんゲノム医療の有用性を世界で初めて報告

 2015年2月に開始されたSCRUM-JapanのGI-SCREENというプロジェクトは、腫瘍組織を検体とする遺伝子パネル検査を行い、その結果に基づいて患者を治験に登録する取り組みで、すでに5000例以上が参加する大規模プロジェクトだ。

 一方、中村氏らは、2018年1月からリキッドバイオプシーを使ったGOZILAという研究も行なっている。GOZILAはGuardant 360を用いたスクリーニングプロジェクトで、こちらもすでに3000例以上が参加している。

 中村氏らは、2つの大きなプロジェクト、GI-SCREENとGOZILAを比較し、リキッドバイオプシーのがんゲノム医療における有用性を世界で初めて評価した。その成果は世界的にも認められ、結果はASCO GIという消化器がんの世界的な学会で発表された。さらに最近、この研究についての論文がNature Medicineという有名な雑誌に掲載されることが決まった(Nakamura Y. et al., Nat Med 2020 in press)。

 今回の勉強会では、その研究結果がいち早く紹介された。

 まず登録から検体到着までの期間はGI-SCREEN(検体:腫瘍組織)で14日だったのに対してGOZILA(検体:ctDNA)では4日、さらに検体が検査所に届いてから結果返却までが19日対7日で、登録から解析結果返却までの期間は33日対11日、リキッドバイオプシーの方が圧倒的に短期間であることがわかった。

治験到達率は倍以上、治療効果は同等

 遺伝子解析の結果、治験に登録された患者の割合は、GI-SCREENでは126/3055例、4.1%であったのに対して、GOZILAでは60/632例9.5%であり、リキッドバイオプシーにより、治験に登録された患者の割合は2倍以上に増加した(χ二乗検定 P<0.0001)。

 中村氏は「直接的な原因はわからないが、ひとつは、結果がすぐに手元に返ってくるので、担当医たちも、その結果をもとにすぐに治験を検討することができる。そうっいたところが1つ大きなメリットになったのではないかと考えている」と説明した。

 治験に登録されて、実際に腫瘍が小さくなった患者の割合(奏効割合)は、GI-SCREEN で21/126例16.7%、GOZILAで12/60例20.0%で同等だった。また病気が悪くなるまでの期間(無増悪生存期間:PFS)も、中央値2.8カ月 対 2.4カ月で同等であり、治療効果は変わらないということが明らかになった。

 「つまり、リキッドバイオプシーは腫瘍組織の解析に比べて結果が早く届いて、治験にもたくさんの患者が登録され、なおかつ治療効果は変わらないという、がんゲノム医療に非常に優れたメリットがあるということが、今回、われわれの研究からわかった」(中村氏)。

リキッドバイオプシーの利点を生かしたMONSTER-SCREENも進行中

 GOZILAプロジェクトでは、大腸がん、大腸がん以外の消化器がん、消化器がん以外の固形がんといった、さまざまな患者を対象として、遺伝子の異常に基づく治験を行い、できるだけ早く患者に治療を届けられるような仕組みを作っている。「さらにこれらの一部は、今後、承認申請につながって、保険診療で患者に治療を届けられる未来が待っていることを期待している」(中村氏)という。

 GOZILA以外に、MONSTAR-SCREENというプロジェクトも進行している。肺がんを除く広範な固形がんが対象で、採血という患者への負担が少ないリキッドバイオプシーを導入し、経時的に遺伝子解析を行うことで、治療にともなうがんの変化を解明するプロジェクトである。

リキッドバイオプシーでがん診療の未来を開く

 最後に中村氏は、新たなリキッドバイオプシーの活用について展望した。

 ひとつは、ctDNAが検出されるかどうかによって、がんの術後のリスク予測や早期発見につながる可能性である。たとえば手術でがんを取りきったと考えられるが画像検査で腫瘍があるかどうかがわからない患者に対して、リキッドバイオプシーでctDNAが検出されなければ、術後の抗がん剤治療が不要かも知れない。一方、ctDNAが検出されれば再発リスクが高く、強力な抗がん剤治療をすべきかも知れないと考えられる。このことはさまざまな研究からも示唆されており、中村氏らは、これを前向きに検証するCIRCULATE-Japanというプロジェクトを進めている。

 もうひとつは、がんがあるかどうかわからない健常人で、リキッドバイオプシーを行なって、ctDNAがなければ、がんリスクは低いかもしれないので定期検診でいいが、ctDNAが検出された人は、精密検査をする必要があるかもしれないといったことも考えられる。これについては、COSMOSプロジェクトで検証していくという。

 中村氏は、「今の話を聞くと、リキッドバイオプシーで(診断も早期発見もゲノム医療もリスク評価も)何でもできるように感じられるかもしれない。すべて検証段階だが、私たちとしても、これらすべてができるようになる、そういった未来を実現したいと考えて、日々、研究に取り組んでいる」と話した。

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