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レポート

2020/10/13

日本外科学会定期学術集会市民講座より

がんは手術でしか治せない、手術だけでは治せない

超高難度・高侵襲の手術に命をかける意義とは?

中西美荷=医学ライター

 もし、がんになったら、手術をしなくてはいけないのだろうか? その手術が難しい手術だとしたら、どうしよう?
 ウエブ開催となった第120回日本外科学会定期学術集会第46回市民講座で、慶應義塾大学外科 一般・消化器の阿部雄太氏は、「がんと向き合うとは? 胆道がんに対する超高難度・高侵襲手術から考える」と題して、がん治療における外科手術の意義や、外科手術の中でも難しく、かつ患者が負担を強いられる胆道がん手術について講演した。


手術の目標は“完治”

 現在、がんは日本における死亡原因の第1位である。4人に1人以上に当たる27%が、がんで亡くなっている(厚生労働省平成30年[2018]人口動態統計月報年計)。

 がんの3大治療は、外科治療(手術)、薬物療法、放射線治療。最近では第4の治療法として免疫療法も確立されつつある。いずれの治療も、死に直結するがんの克服を目指し、日進月歩で進歩している。

 これらのがんの治療には、それぞれ特徴がある。たとえば手術や放射線治療の治療範囲はターゲットのみで、狙ったところを確実に治療する。一方、薬物療法や免疫療法の治療範囲は全身で、がんが転移しても行うことが可能で、まだ見えていないがんを根絶やしにできる可能性もある。

 体への負担もまちまちで、手術は比較的負担の大きい治療である。そして阿部氏が理解しておかねばならないこととして挙げたのは治療目標の違いである。手術の目標は“完治”。ほかの治療法は、確実に進歩しつつも現状では完治を望むことはできず、“がんとの共存”が目標となる。「手術だけしかがんは治せません。でも、手術だけではすべてのがんを治すことはできないのです」(阿部氏)。

 たとえば、大腸がんにまだ有効な抗がん剤が少なかった頃の5年生存率は、ステージ0で94.0%、ステージI で91.5%、ステージII で84.8%だった。

 早いステージで手術をした患者は多くが手術のみで完治する一方、進行癌では手術を受けても再発率や死亡率が高くなる。完治率(5年生存率)はステージIIIaで77.7%、ステージIIIbで60.0%。さらにステージIVになると18.8%で、8割の患者が死亡している(大腸癌研究会 大腸癌全国登録・2014症例)。

手術にほかの治療法を組み合わせた“集学的治療”で完治を目指す

 阿部氏は「手術だけではすべての患者さんのがんを完治できないのが現実です。こういった進行がんの患者さんに対して完治を目指すために、がん治療の現場では、手術に加えて、ほかの治療を組み合わせた集学的治療を行い、少しでも完治する患者さんを増やす努力をしています」と話す。

 たとえば食道がんでは、手術のみと比較して、手術+抗がん剤治療では相乗効果によって生存率が約10%上昇(52% vs 61%)したことが報告されている(JCOG9204試験:Ando N et al., J Clin Oncol 2003 Dec 15;21(24):4592-6)。また、治療を組み合わせる順序についても、手術後に抗がん剤を投与するよりも、手術前に抗がん剤を投与する方が完治率が高いことが示されている(JCOG9907試験:Ando N. et al., Ann Surg Oncol 2012 Jan;19(1):68-74)。

 「このように、現代のがん最新治療では手術を中心とした組み合わせ治療(集学的治療)が行われ、この20年で完治率が確実に向上している」と阿部氏は話した。

がんをしっかり取ろうとすると体の負担は増大する

 がんになるというのは、命と向き合うということだ。手術を受けたい人はいないが、完治を目指すならば、外科手術は避けて通れない治療である。

 「手術で完治できるのなら、受けるしかないね」「痛いのはイヤだし、体力も落ちるだろうけど、1〜2カ月で社会復帰できるのならば、治療を早く終わらせたい」というのが患者の声であり、多くの患者は「まだ手術が受けられるだけよかった」と手術を選択する。

 しかし、実際の医療現場では手術を躊躇せざるを得ないことがあるという。それは、たとえば12時間以上の長時間手術、大量出血を伴う手術、臓器の大量切除などの大手術(高難度・高侵襲手術)を受けなくてはならない場合である。

 大手術の前には「すぐに命を失うことがあるのでは?」「もとの生活に戻れないのでは?」「すぐにがんが再発するのでは?」といった不安がつのる。必要だとわかっていても、その手術による負担が大きいほど、ハードルがあがる。

 阿部氏によれば、手術の負担が増えると、起きて欲しくない体の変化、いわゆる“術後合併症”が増加する。合併症は時に手術関連死亡につながり、がんで亡くなるよりも早く命を断たれることになる。一命をとりとめたとしても、後遺症が残った場合、これまでの生活ができなくなることもある。そして、後遺症がなかったとしても、術後、大きな合併症を起こしたことが、がん再発率上昇の原因になりうるとの研究結果もある(Tsujimoto H. et al., Ann Surg Oncol 2019, 16: 311-318ほか)。

 こうしたことから、「がんの手術では、負担をできるだけ減らし、安全に施行することが重要」と阿部氏はいう。

がんの手術における“安全”と“確実”をいかに両立するか

 一方で、手術を安全に施行するために負担を減らすことで、ときに治療効果を下げることがある。阿部氏は、「がんの治療効果を高めるには、取り残しなく切除することが非常に重要」と指摘する。胆管がん手術を受けた患者では、しっかり切除できて顕微鏡レベル(病理検査)でのがんの露出がない患者の方が生存率が高いことが示されているという(自験例未発表データ)。

 しかし、“しっかり取る”ことは体の負担を増やすこととなり、その結果、術後合併症が増える可能性もある。たとえば腫瘍が膵臓にさしかかっているような胆管がんでは、肝臓切除だけでなく、肝臓と膵臓を同時切除する方が取り残しなく切除することができるが、負担が増すために、全国データでは手術死亡率が8.1%と非常に高い結果となっている(日本肝胆膵外科学会修練施設集計2012-2014)。

 「つまり、外科手術では“安全”と“確実”がときに相反するのです。がんの外科手術で重要なことは、この両立、つまりがんの完治に必要なだけしっかり切除して、それでいて合併症を最小限とすることになります」(阿部氏)。

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