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レポート

2020/10/06

緩和・支持・心のケア合同学術大会2020より

進行期・終末期の浮腫ケアのポイント

無理なく安全に継続できる方法を提案

八倉巻尚子=医学ライター

 がんの進行とともに腕や脚、体幹に浮腫(むくみ)が出て、痛みやしびれを伴うことがある。浮腫が悪化すると、歩きにくい、階段昇降ができない、疲れやすいなど、日常生活は制限されてしまう。浮腫がひどくなる前にケアを開始することが症状の軽減につながる。

 8月9-10日にウエブで開催された緩和・支持・心のケア合同学術大会2020のシンポジウム「進行がん患者の浮腫に多職種で挑む」では、医師、作業療法士、看護師の立場から、進行がん患者の浮腫の特徴やケアの仕方、日常生活での工夫が解説された。講演内容を2回に分けて紹介する。後半は進行期・終末期における浮腫ケアのポイントについて。


患者の状態に合わせてリハビリテーションアプローチも取り入れる

 浮腫ができると、四肢が重くなり、皮膚の線維化や硬化で関節の可動域が制限される。それにより、起居動作や歩行、階段昇降、更衣や洗体などのセルフケアが困難になり、疲れやすさも増して、活動性の低下につながる。また「自分の体じゃないみたい」といったボディイメージの変化や、自分でできることが減ったり介助を受けることへの辛さなど、精神面にも影響する。

 「少しでも浮腫を改善することが、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の改善につながると考えられます」と、大阪国際がんセンターリハビリテーション科の作業療法士の藤井美希氏は話す。浮腫の治療には、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法、スキンケア、日常生活の指導からなる複合的治療が行われるが、それに加えて、動作指導や環境調整、福祉用具の活用といったリハビリテーションアプローチも、患者の状態に合わせて工夫しながら取り入れていると言う。

 運動療法は、筋ポンプ作用による静脈・リンパ還流の促進、皮膚や関節の柔軟性を改善することを目的として行われている。上肢の運動は、大きくグーパーしたり、肘の屈伸、肩回し、下肢の運動は、股関節、膝関節、足関節、足趾の屈伸を行う。回数や頻度は患者の状態に合わせて、疲れが残らない程度にする。また全身状態が比較的安定している場合はエアロバイクで筋力や全身耐久性の維持、改善を図ることもある。

 また圧迫療法は、進行がん患者では浮腫の改善よりも、浮腫の悪化予防、自覚症状の緩和が目的になるだろうと話した。圧迫方法は、本人が苦痛を感じるものは持続しないので、本人が受け入れられる程度の、弱めで部分的な圧迫にする。また弾性包帯や筒状包帯を組み合わせて、本人が自分で装着でき、あるいは介助者が履かせやすいなど、管理しやすい圧迫方法を勧めている。

 用手的リンパドレナージも、「積極的な排液よりは、自覚症状の緩和、皮膚柔軟性の回復、精神的苦痛に対する支持的効果を目的とします」(藤井氏)。皮膚の張りが強いときは、患肢を柔らかく触れる程度でも張りが和らぎ、本人の苦痛が軽減する。家族にタッチングの方法を指導することで、患者と家族のスキンシップの機会になり、患者に「何かしてあげたい」という家族の思いに答えることが期待されると話した。

日常生活でエネルギー温存の工夫を

 日常生活の指導は、患肢の長時間の下垂を避けるなど、浮腫の悪化要因となる日常生活の内容をできるだけ避けることが基本。さらに藤井氏はエネルギー温存療法を勧める。進行がん患者が経験する倦怠感(がん関連倦怠感)には、活動と休息のバランスをとりながらエネルギーを温存するエネルギー温存療法が有効とされる。これは「浮腫による疲れやすさや倦怠感にも有効だと思われます」。そこではエネルギー配分の工夫が重要とされる。倦怠感が少ない時に優先度の高いことをする。また大事な活動ができるように、体力を消耗するADLは介助してもらう。

 さらに「省エネで安楽にできるような生活環境の調整も大切です」。たとえば電動の介護ベッドや介助バーの利用、ベッド付近におく床頭台やテーブルの位置の調整、動きにくくなったり、しゃがみにくくなったときにはマジックハンドやソックスエイドなどの活用、歩行器や杖などの歩行補助具の使用を提案する。また動作の簡略化や座って休憩をとりながらなど、動作方法の工夫もあるとした。

 実際に、進行がん患者の浮腫に対して病棟でのスキンケアとリハビリテーションを実施したケースが紹介された。化学療法を行なっている肺がんIV期の患者で、両下肢の浮腫、腹水による腹部膨満があり、下腿遠位部の皮膚が肥厚・硬化し、下腿部にリンパ漏があった。自宅退院できるADLと浮腫の管理が必要となり、リハビリテーションアプローチとして、用手的リンパドレナージと運動療法が行われた。足関節周囲の皮膚硬化部をほぐすような用手的リンパドレナージを行い、腹部を圧迫しすぎないような臥位での下肢の他動・自動運動を行なった。その結果、「足が軽くなって歩きやすい」と患者さんは言い、病棟廊下での歩行訓練が行いやすくなった。また退院後も継続できるように下肢運動の方法をパンフレットを用いて指導した。下肢の長時間の下垂は避けることや、介護ベッドの電動機能を生かして背もたれの角度調整やベッドの高さの調整、シャワーチェアやポータブルトイレなどの自宅での環境調整の提案も行なったという。

 今後の課題は、在宅での浮腫ケアの継続だという。ケアが不十分で浮腫が増悪したり、皮膚障害で再入院することもある。「浮腫のケアの知識を持った訪問看護、リハビリスタッフの充実、病院と在宅医療のスムーズな連携に向けた取り組みが必要と考えています」と藤井氏は話した。

浮腫の正しいアセスメントが安全なケアに

 浮腫には複合的治療が行われるが、「むくんでいたら誰にでも行なっていいものではありません」と、合同会社ウェルネスアトリウム代表社員・訪問看護ステーションフレンド所長で、がん看護専門看護師の奥朋子氏は述べた。

 浮腫にも種類があり、複合的治療によって改善することができる浮腫、複合的治療によって改善の困難な浮腫、そして複合的治療によって改善させてはいけない浮腫がある。「浮腫の原因によって対応が異なるため、これらの区別をつけて、安全なケアを行う必要があります」。

 浮腫は、全身性浮腫と局所性浮腫に分けられる。全身性浮腫は、心臓、腎臓、肝臓、内分泌系の機能低下、薬剤などを原因とし、手術や薬物療法で根本的な原因の解決が必要となる。一方、局所性浮腫のうち、静脈・リンパ系が原因の場合は複合的治療が適応されるが、炎症が原因のときは消炎治療(薬物療法、冷却など)が行われる。

 また奥氏は訪問看護で高齢者のケアにあたることが多いが、高齢者の浮腫の原因としては、加齢による心機能の低下、手足の冷えや筋力の低下のほか、進行がん、腎臓や肝臓、心臓などの内臓疾患を原因とする場合もあるという。

進行期・終末期がん患者の浮腫のケア

 進行期・終末期がん患者における浮腫のケアの目標は、浮腫が今以上に悪化しないこと、リンパ漏などからの感染症を起こさないこと、患者に生じている浮腫以外の症状(疼痛ほか)の苦痛を併せて対処すること、そして患者を孤独にしないこと、と奥氏は述べた。そして緩和を主体とした時期の浮腫ケアの方法として、スキンケア、浮腫の悪化原因を可能な限り取り除くこと、疼痛の緩和、心理・社会的ケアを挙げた。

 スキンケアは、リンパ漏や感染の予防を目的に、保清・保湿・保護を行う。手浴・足浴後は保湿クリームを塗布する。圧迫や摩擦予防のため、臥位での体位の工夫や患肢を下垂した体位を長くとらないこと。また患肢を損傷しリンパ漏を生じないように、着衣やシーツのシワを伸ばすことも付け加えた。

 浮腫の悪化原因を可能な限り除去するため、浮腫悪化の原因となる薬剤は、主治医と話し合い、可能なら変更・中止する。必要以上の輸液の減量・中止を主治医と検討する。浮腫の悪化につながらない体位の工夫や、患者の身体を締め付けない着衣の工夫も挙げた。

 浮腫が急速に進行した場合、皮膚が伸展し引っ張られるようなぴりぴりした痛みが起こり、がんの神経への浸潤などによる痺れや麻痺が起こることもある。それに対してはアセトアミノフェンやオピオイドの使用、神経因性疼痛の場合は鎮痛補助薬の使用を検討するという。

 心理・社会的ケアについては、看護師として、患者さんのベッドサイトから遠ざからないこと。患者の気持ちに焦点を当てて傾聴し、患者の気持ちを理解する努力をする。安易な励ましは避けるが希望を持つことを支える。現実的に実践可能なケアと予測される結果を告げ、ケアに対する協力を得る。スキンケアや足浴、タッチングなどを通して、非言語的コミュニケーションを図り、本人や家族と良い時間を作ることとした。

 そして「浮腫のケアに当たっては、原因となる病態を見極め、本人および介護者が在宅でも無理なく安全に継続して実施できるケアの方法を提案する必要があります」と話した。

 講演後の質疑応答では、終末期がん患者の浮腫ケアとして、在宅医療の現場で、どのような職種と協力しているかという質問があった。それに対し奥氏は、訪問看護の指示が出たときに、主治医に患者さんの状態を尋ね、退院前のカンファレンスに出席して、主治医や病棟看護師、栄養士、リハビリテーション科スタッフと話すこともあるという。また患者が自宅に戻り安全に生活するため、ケアマネージャーを通して、手すりやベッド、杖などの福祉用具をできるだけ早く準備してもらったり、身体介護を担うヘルパーと浮腫について連絡ノートを作り、スキンケアの方法などを書いてお願いしていると話した。

 また「患者と家族への説明で、先生にお願いしたいこと」として、「原因ががんで、放射線照射や化学療法によってがんの完全寛解を見込めない限り、浮腫は治癒しないと患者に説明すべきである」という言葉を紹介した(トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント第2版)。「過度に患者さんに期待をさせるのではなく、また落胆させるのではなく、できることとできないこと、どこまで改善が見込めるのかを、主治医から患者さんに伝えていただきたいと思います。私たちもどこを目標に看護するかがわかります」と話した。


進行がん患者の浮腫の悪化を防ぐには
発症早期からの複合的治療で症状は軽減する

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