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レポート

2020/09/29

緩和・支持・心のケア合同学術大会2020より

進行がん患者の浮腫の悪化を防ぐには

発症早期からの複合的治療で症状は軽減する

八倉巻尚子=医学ライター

 がんの進行とともに腕や脚、体幹に浮腫(むくみ)が出て、痛みやしびれを伴うことがある。浮腫が悪化すると、歩きにくい、階段昇降ができない、疲れやすいなど、日常生活は制限されてしまう。浮腫がひどくなる前にケアを開始することが症状の軽減につながる。

 8月9-10日にウエブで開催された緩和・支持・心のケア合同学術大会2020のシンポジウム「進行がん患者の浮腫に多職種で挑む」では、医師、作業療法士、看護師の立場から、進行がん患者の浮腫の特徴やケアの仕方、日常生活での工夫が解説された。講演内容を2回に分けて紹介する。前半は進行がん患者の浮腫の特徴と治療について。


浮腫はなぜ起こるのか

 浮腫は、乳がんや子宮がんなどの手術でリンパ節を切除した場合や放射線治療によって発症することが多いが、進行がん患者の症状の1つでもある。がんの進行に伴う浮腫は原因がさまざまで、改善ができない浮腫が少なくない。しかも浮腫が悪化してしまうと改善はより難しくなる。しかしケアをあきらめず、「発症早期から介入できれば、必ず症状の軽減につながります」。リムズ徳島クリニック院長で、日本リンパ浮腫学会理事長の小川佳宏氏はこのように述べ、進行がん患者の浮腫の特徴と実際のケアについて解説した。

 浮腫(むくみ)は、「体の細胞と細胞のすき間を満たす組織間液が正常よりも多くなった状態」である。椅子に座っている時間が長いと、脚がむくむことはあるが、こういった浮腫は可逆的で、原因が排除されれば治る。しかし進行がん患者の浮腫は、「原因が不可逆的な異常であることが多く、完治させることは困難です」と小川氏は説明した。

 全身の体液循環において、心臓から出た血液は動脈、そして毛細血管を通って、全身に酸素や栄養物を運んでいる。水分や酸素、栄養素などは毛細血管壁からしみ出て、細胞と細胞の間に組織間液がたまる。この組織間液を吸収して心臓に戻すのが静脈とリンパ管。しかし静脈とリンパ管に異常があれば組織間液が多くなり、むくむことになる。静脈血の流量はリンパ液の流量よりも10倍ほど多いといわれている。そのため静脈血が心臓に戻りにくくなった「静脈環流障害」の状態は、リンパ管の異常による「リンパ環流障害」の状態よりも、早くむくんで症状が強く出る可能性がある。このことから「静脈環流障害の予防と改善が浮腫の改善につながる」と小川氏は考えている。

進行がん患者における浮腫の特徴

 進行がんの浮腫にはさまざまな要因が混在しているという。腫瘍や転移リンパ節によって鎖骨下静脈・上大静脈・腸骨静脈などの太い静脈に狭窄や閉塞が起こることや、癌性リンパ管症でも浮腫が認められる。皮膚転移などでリンパ液が漏れ出るリンパ漏や皮膚潰瘍は浮腫の悪化の要因になる。運動神経障害やがん性疼痛などが原因の廃用症候群による浮腫、あるいは抗がん薬の副作用による浮腫もある。

 終末期になると、癌性腹膜炎や胸膜炎による腹水・胸水貯留で浮腫がひどくなったり、多発性肝転移による肝機能障害、心のう液貯留、腎機能障害、あるいは栄養障害や貧血、低アルブミン血症でも浮腫が悪化する。

 進行がん患者の浮腫の特徴を、小川氏は以下のように話した。
・浮腫は急激に発症・進行することが多い
・患肢は発赤することがある
・四肢とともに体幹部も浮腫が見られやすい
・水分の多い浮腫もあるが、皮膚が触診上非常に硬くなることもある
・リンパ漏・皮膚潰瘍を認めることがある
・治療への反応は不良
・疼痛・しびれ・運動神経麻痺がみられやすい
・深部静脈血栓症を伴うこともある

浮腫に対する複合的治療の実際

 小川氏のクリニックでは、本人や家族がケアを希望すれば、全身状態が許す限り、複合的治療を基本としたケアを行なっている。複合的治療とは、用手的(ようしゅてき)リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法、スキンケア、日常生活指導のこと。

 浮腫をケアする前に、まず全身状態の把握を行う。がんの部位、がんの進行程度、胸水・腹水の有無、浮腫の局在部位、肝機能・腎機能・貧血などの血液検査異常の有無を確認する。さらに今後のがんの治療方針や予後を念頭に、家族の介護体制や訪問看護など、在宅医療の体制も確認する。そして患者本人と家族から、現時点で苦痛に感じている症状と、できれば改善したい症状を聞き取るという。

 患肢の状態としては、浮腫の範囲、重症度や皮膚の硬化の程度、皮膚転移・皮膚潰瘍・リンパ漏の有無、癌性疼痛の有無、知覚および運動神経障害の有無、白癬症など皮膚感染症の有無を確認する。

 それらを把握した上で、複合的治療を行うが、用手的リンパドレナージは全身状態への悪影響は少ないものの浮腫改善効果は軽度であること、圧迫療法は浮腫を改善させるが、胸水や腹水を増加させる可能性があり、本人も苦痛に感じることがある。このため「複合的治療の中で、どの治療方法を選択するかには十分な配慮が必要です」と話した。

 用手的リンパドレナージとは、貯留している組織間液を医療的なマッサージで排液すること。リンパドレナージ単独では浮腫改善効果は軽度だが、施術者が手で患肢を触ることが安心感や気持ち良さにつながる。浮腫が強く緊満して、癌性疼痛などの症状が強いときは、通常の手技ではなく、症状緩和のため柔らかく触れる程度で行うこともある。しかし手背・手指や足背・足趾がむくむと、皮膚が硬くなるため、強めにほぐすこともあるという。

 圧迫療法では、弾性包帯や弾性着衣(弾性スリーブや弾性ストッキングなど)を使って患部の圧迫を行う。浮腫改善に有効だが、癌性疼痛が強いときは圧迫が苦痛となる。小川氏のクリニックでは、家族の協力があるときは、弾性包帯で浮腫をできるだけ改善させて、弾性着衣に変更していく。弾性包帯や弾性着衣の使用が難しいときは、緩めのチューブ型の包帯をいくつか重ねて使用して圧迫する。

 しかし圧迫療法で合併症が起こることがある。圧迫した部分のアレルギー性皮膚炎や、足背から足趾、手背から手指の皮膚硬化や角化、圧迫後の関節への食い込みや疼痛、手指・足趾の虚血や末梢神経障害(しびれ等)などがある。「ゆるく圧迫することから始め、ゆっくり慣れることが大切です」と小川氏は話した。

 浮腫が進行すると、リンパ液が漏れ出すリンパ漏や皮膚潰瘍、細菌感染で蜂窩織炎(ほうかしきえん)を起こす場合もある。リンパ漏や皮膚潰瘍で漏出するリンパ液は、血液と違って凝固しないため、「止血のような一時的な圧迫は有効ではありません。漏出点を含めて患肢全体を十分に圧迫して、全体の水分量を減らすことが大事です」(小川氏)。効果的に圧迫するには、漏出液を十分吸収できる被覆材を使用し、その上をカーゼや紙おむつなどで覆った後に圧迫する。

 スキンケアは、表皮・真皮層が薄くなると、傷つきやすいため、強く触ったり引っかいたりしないように指導するという。皮膚の乾燥はひび割れてリンパ漏や感染につながるため、ローションなどで保湿する。ただし過度な保湿は皮膚がふやけるため注意する。手指・足趾がむくむと、指趾間がむれて白癬症や皮膚の剥離が起こりやすく感染源となるため、乾燥させるようにする。

 日常生活の指導では、浮腫の悪化要因となる日常生活の内容を可能な限り避けるように伝える。たとえば患肢を下垂し続けないように、下肢は足台などに乗せて挙げる、上肢はオーバーテーブルやクッションなどに腕を伸ばして挙げることを指導する。また腕や脚を軽くでも動かすことを勧めている。運動も大切で、自力で行う運動(自動運動)も、他の人や器具による外力によって体を動かす運動(他動運動)も、関節の拘縮を防いで関節可動域を維持する。さらに運動による筋肉の収縮で血管を圧迫して血液を送りだす筋ポンプ作用が、静脈・リンパ管系の還流を改善させるといわれている。

 「進行がんの浮腫だから仕方ない」と思わずに、疼痛が強くなったり重症化する前に医療者が介入することが勧められるとした。「圧迫療法で組織間液の増加を軽減できれば、必ず浮腫の悪化を軽減できると考えています」と小川氏は述べた。

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