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レポート

2020/09/22

日本外科学会定期学術集会市民講座より

乳がんになっても「私」は「私」

自分らしく生きるための手術を医師と一緒に選択しよう

中西美荷=医学ライター

乳房手術の選択肢

 乳房手術は、「病状によっては、どの手術になるかが決まってしまう場合もあるが、さまざまな選択肢がある」(山内氏)。乳房に対しては乳房部分切除+残存乳房放射線治療と、乳房切除がある。そして乳房切除の術式には、単純乳房切除、皮膚温存乳房切除、乳頭乳輪皮膚温存乳房切除がある。また乳房切除の場合、乳房再建も選択肢のひとつだ。腋窩リンパ節に対してもセンチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清がある。

 乳房温存手術+放射線治療と、乳房切除術、乳房切除術+乳房再建術を比較すると、生存率、薬物療法(化学療法など)の必要性に違いはない。10年間での乳房内再発率は、乳房温存手術+放射線治療が約10%、乳房切除術と乳房切除術+乳房再建術は約3%、がんの取り残しのリスクは乳房温存手術+放射線治療では少しあるが、乳房切除術と乳房切除術+乳房再建術ではほとんどないといった特徴がある。こうした特徴をみながら、その患者に合った手術をきめていくことになる。

人工乳房でのまれな事象の危険性など、最新情報も考慮

 乳房再建についても、選択肢はひとつではない。人工乳房(インプラント法)と自家組織を選択でき、再建時期も乳房切除術と同時、あるいは時期をおいて行うことも可能だ。

 そして、山内氏が「知っておいて欲しいこと」として説明したのは、人工乳房の場合、長期的にインプラントを入れていることで、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)という、まれで悪性度の低いリンパ腫を発症する可能性が指摘されるようになってきていることだ。

 BIA-ALCLが初めて報告されたのは1997年で、米国FDAが、2011年に75例(4例死亡)、2017年には30カ国をまとめて359例(9例死亡)と報告した。日本では2017年6月に、BIA-ALCLの危険性について、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会、日本乳癌学会、日本形成外科学会で会員宛に勧告した。日本で初症例が報告されたのは2019年6月である。

 BIA-ALCLは、通常、局所治療(インプラント抜去と被膜切除)で軽快し、化学療法や放射線療法は必要ないが、治療開始が遅れたことによる死亡例もあるという。「こうした最新情報や副作用の可能性、社会情勢も考慮して、治療法を一緒に決定してく」(山内氏)。

がん家系ってなんだろう?

 しばしば「うちの家系はがん家系だから」、「親戚に多いから絶対がんになる」ということがいわれる。がん家系とはなんだろう? がん家系というものが本当にあるのだろうか?

 遺伝医療の進歩に伴い、さまざまながん原因遺伝子がみつかり、それらの遺伝子に紐づいたがん家系も明らかになってきている。がんの発症には、遺伝要因だけでなく環境要因が関与しているが、乳がんでは家系に乳がん、卵巣がんと診断された人がいる場合、乳がん、卵巣がんになることが多いということがいわれてきた。

 山内氏は、「これを“乳がん、卵巣がんの家族歴、家族集積性がみられる”という。そして、家族歴のみられる乳がん患者では、発症に遺伝要因が関与していることがある」と説明した。

乳がん、卵巣がん発症リスクが高い遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)

 遺伝子というのは人の体の「設計図」のようなもので、体を作るための情報や、体の機能を維持するための情報が含まれている。遺伝子の情報は、基本的には人類でほとんど共通しているが、ひとりひとりで少しずつ違いがあることが特徴である。

 BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子は誰もが持っている遺伝子で、細胞に含まれる遺伝子が傷ついたときに修復して正常に戻す働きがある。これらの遺伝子に生まれつき変異(病的バリアント)があって本来の機能が失われると、乳がんだけでなく卵巣がんなどを発症しやすいことが明らかになっており、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と診断される。

 HBOCの特徴は、若年(40歳未満)での乳がん発症、両側乳房に発症、片側の乳房に複数回発症、乳がんと卵巣がん両方を発症、男性乳がん、乳がんや卵巣がんの家族歴があるなどで、膵臓がんや前立腺がんとの関連性もあるとされている。山内氏は、「こうした特徴がある患者は、遺伝子検査を受けて遺伝的背景をみることができる」と説明した。

 遺伝子は、両親から片方ずつの遺伝子を受け継ぐため、どちらかの親が病的バリアントを持っている場合、子は半分の確率でこれを受け継ぐといわれている。BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の病的バリアントを受け継いだとしても、必ず乳がん、卵巣がんを発症するわけではないが、リスクは非常に高くなる。

 BRCA遺伝子の病的バリアントを持たない人では、70歳までに乳がんを発症するリスクは7%、卵巣がんを発症するリスクは2%未満である。一方、病的バリアントを持つ場合、70歳までの乳がん発症リスクは56-87%、卵巣がん発症リスクは27-44%と報告されている(J Natl Cancer Inst. 2017 Jul 1;109(7):djw302.)。

乳がん、卵巣がんを予防するための外科手術

 2013年5月14日付のニューヨーク・タイムズ紙に、米国の俳優アンジェリーナ・ジョリーが「マイ・メディカル・チョイス」という署名記事の中で、自分にはBRCA1遺伝子の変異があり、乳がん予防のための両乳房切除手術(リスク低減乳房切除術:RRM)と、乳房再建手術を受けたことを公表した。日本でも大きな話題となったため、乳がん予防のためにこうした手術を受けるという選択があることを知っている人もいるだろう。

 HBOCの女性の乳がんに対する医学的管理の選択肢としては、18歳から自己乳房について意識し、25歳からは6〜12カ月に1回、医療機関で乳房検診(25〜29歳は年1回のMRI、できなければマンモグラフィ、30~75歳は年1回のマンモグラフィとMRIを行う)を受けるほか、リスク低減乳房切除(RRM)がある。卵巣がんのリスクに対しても、卵巣・卵管を切除する手術(リスク低減卵巣卵管摘出術:RRSO)という選択肢がある。

 HBOCに対するリスク低減手段により、経口薬タモキシフェンでは乳がんで49%(Gronwald et al., Int J Cancer. 2006 May 1;118(9):2281-4)、RRMでは乳がんで90%(Li X et al., Clin Cancer Res. 2016 Aug 1;22(15):3971-81)、RRSOでは乳がんで68% 卵巣がんで96%(Rebbeck TR. et al.,J Natl Cancer Inst. 2009 21:101(2) 80-7)、経口避妊薬では卵巣がんで60%(Iodice S et.al. Eur J Cancer. 2010 46(12):2275-84)のリスク低減率が得られると報告されている。

 さまざまな選択肢の中から、「自分の年齢やライフスタイルを考え、発症予防効果や乳房再建、リスクなどについて医療者とよく話し合って選択することが大切である」(山内氏)。

本当の意味での治療効果の回復、向上のために

 新しい治療薬が開発されるなど、がんの治療効果は向上している。しかし、薬の副作用や費用の問題で服薬できなくなったり、手術を受けたことによる体のダメージが続き、そのために自分らしく生きることができないとすれば、本当の意味での治療効果は低下してしまうことになる。

 山内氏は「副作用に対する介入や、費用、就労に対する社会的配慮をし、“あなたらしくいきるいのちを支えるサバイバーシップの観点からの乳房手術”というものを、みなさんとともに、あなたがどうしたいかを教えていただきながら考えることで、本当の意味での治療効果の回復、向上がはかれるのではないでしょうか。あなたらしくいきるいのちを支える手術を、ご一緒に選択させていただきたいと思います」と話した。

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