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レポート

2020/09/22

日本外科学会定期学術集会市民講座より

乳がんになっても「私」は「私」

自分らしく生きるための手術を医師と一緒に選択しよう

中西美荷=医学ライター

 30~40年前まで“不治の病”だったがん。医療の進歩により現在では慢性疾患として捉えられるようにもなってきた。がんを罹患しても、ひとりの人間として、「私」として生きるための治療選択とは?

 ウエブ開催となった第120回日本外科学会定期学術集会第46回市民講座で、聖路加国際病院乳腺外科部長/ブレストセンター長の山内英子氏は、「患者らしくではなく、あなたらしくいきるいのちを支える手術」と題して、サバイバーシップの観点からの乳房手術について講演した。


がんと診断された人は誰でも“がんサバイバー”

 “がんサバイバー”と聞くと、がん治療を終えて生存している人を思い浮かべるかも知れない。しかし、この言葉を広めたアメリカの団体NCCS(National Coalition for Caner Survivorship)の定義によれば、がんと診断された人はすべて、診断を受けたその日から人生を終える最後の時まで“がんサバイバー”である。

 山内氏によれば、がんサバイバーの人生は4つの時期に分けることができる。診断から一通りの治療が終わるまでの「急性期」、急性期の治療を終えて経過観察する「生存が延長された時期(延長期)」、再発が多く起こる数年間を乗り越えた「安定した時期(安定期)」、そして誰でも平等に迎える人生の終焉の時期である「終末期」である。

遭遇する問題を一緒に考え支援する“がんサバイバーシップ”

 がんサバイバーが、それら4つの時期において遭遇するさまざまな問題には、「身体的」「心理的」「社会的」「スピリチュアル」という4つの側面がある。

 山内氏は「身体的」なものとして外科手術による体の変化、機能的変化、2次性発がん、妊娠・出産、治療によるさまざまな身体的問題、「心理的」なものとしてがんに対する不安、再発への恐怖、うつ状態、否認や怒り、孤独感、「社会的」なものとしてがん治療による医療費負担、就労、生命保険などへの加入、家庭や家族、「スピリチュアル」なものとして人生の意味・価値観への問いかけ、罪の意識、死に対する恐怖感、神に対する思いなどを挙げた。

 そして、「がんのサバイバーシップは、4つの時期と4つの側面を組み合わせた中で、患者がどのような状況にあるのかを考え、サポートしていくこと」と説明した。

仕事や子育ての中での罹患が多い乳がん

 World Cancer Report 2014では、日本を含むアジア諸国における乳がん罹患数は、欧米と比較して少ない状況であることを報告している。たとえば女性の生涯において、米国では8人に1人が乳がんを罹患するといわれるが、日本では12人に1人である。

 それでも女性のがんとしてはもっとも多く、2018年のがん統計データでは、10万人あたりの女性の乳房の予測がん罹患数は8万6500(20%)だった。一方で、10万人あたりの部位別予測がん死亡数は1万4800(9%)で、ほかのがんと比べると、それほど高くない(公益財団法人がん研究振興財団、がん統計2018)。

 乳がんの罹患年齢は、欧米諸国では60代、70代が多い。日本でも最近、60代、70代での罹患は増えているが、1985年から2015年にかけての年齢別乳がん罹患率では40代、50代の急増が目立ち、現在もっとも多いのが40代、50代での罹患だ(国立がん研究センターがん情報サービス[がん登録・統計])。

 山内氏は多くの乳がんサバイバーの状況を、「40代、50代は、まさにこれから女性のキャリアというところ。乳がんと診断された時、治療に専念しなくてはと思い仕事を辞めてしまったり、医師に勧められる手術でいいと思っているかも知れない。小さいお子さんを抱えての乳がんの診断という場合もあるだろう」と察する。

 そして、「乳がんであっても、あなたはあなたなんです。“患者らしく”ではなく、“あなたらしく” 生きていただくために、サバイバーシップの観点からの乳房手術が大切だと考えています」と述べた。

38歳で罹患、4歳の息子、そして仕事

 例えば、38歳で乳がんと診断された女性がいたとする。母親も40歳で乳がんに罹患していた。現在、4歳の息子と夫との3人暮らしで、派遣社員として仕事に就いていた。このような場合、患者はどんな問題に遭遇するだろうか。どんな治療、手術を選べばいいのだろうか。

 この人が、診断とともにまず考えるのは、「4歳の子どもに病気のことをどう伝えればいいでしょう?」「一緒にお風呂に入る時に、手術の傷跡を見てどう思うかしら?」といったことである。がんサバイバーシップの観点に立てば、「本人はもとより、子どもの心も考慮した乳がん手術を選択することが大事である」(山内氏)。

 手術の選択に加えて、聖路加国際病院では約7年前からチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)を導入し、乳がんの母親とその子どものサポートも行っている。たとえば「おかあさん だいじょうぶ?」という絵本を一緒に読んだり、一緒に手形を取りながら、お母さんの大好きなところを一緒に言っていったりといった活動をしているという。

 CLSというのは、1950年代より欧米で普及してきた専門資格で、発達心理学、家庭学、教育学などを基礎に、病院などストレスの多い環境におかれた子どもの発達やストレスへの対応に関する専門家だ。今では日本でも、いろいろな病院でCLSによるサポートが行われている。

治療と仕事との両立、どうする?

 この38歳の女性が乳がんと診断されたのが、仕事がやっと軌道に乗ったところだったとしたらどうだろう。「仕事を辞めた方がいいですか?」と考えるかも知れない。

 財団法人がん研究振興財団の「がんの統計’14」によれば、2010年における年間全罹患数805236人のうち、20〜64歳での罹患が244976人と30.4%を占めていた。がん患者の3人に1人は就労可能年齢で罹患していることになり、仕事と治療の両立のための「就労支援」は、ますます重要になってきている。

 一方、昨今のがん治療では、外来での治療が増えて入院日数は減少している。平成11年は10万人あたりの入院受療率が108人、外来受療率が95人だったが、平成26年には逆転して、入院受療率が102人、外来受療率が135人となっている(平成11〜26年厚生労働省「患者調査」)。病状にもよるが、できるだけ外来で治療するという選択ができる可能性もある。

乳がんに起因する労働損失は年間1042億円にも及ぶ

 山内氏は、平成25年度厚生労働省科学研究のがん臨床研究事業として、がんと就労について研究してきた(キャンサーサバイバーシップ、治療と職業生活の両立に向けたがん拠点病院における介入モデルの検討と医療経済などを用いたアウトカム評価〜働き盛りのがん対策の一助として〜)。

 この研究で、仮にがんと診断された人すべてが仕事を辞めてしまった場合の労働損失は、最大で1兆8000億円にも及ぶと推計された。中でも乳がんの影響は大きく、実際のアンケート調査結果から、乳がんに罹患して仕事や家事ができないことによる年間の労働損失は、1042億円にも上ることが示された(Yamauchi H et al., Breast Cancer (Tokyo, Japan), 16 Feb 2017, 24(5):694-701)。

 山内氏は、乳がんはまさに働き盛りの方々が発症するがんで、生存率が高く、治療を終えてから仕事に戻る人も多いためだと説明し、「仕事と両立していく治療として、どのような手術を選択すればいいのか、一緒に意思決定を行っていきたい」とした。

医療現場における意思決定は双方向の時代に

 医師と患者の関係も、時代とともに変化している。医療現場における意思決定にはいくつかの主義がある。医師から患者に最低限の情報を提供し、医師が治療方針を最終決定する“医療父権主義(Paternalism)”、逆に医師から患者へ最大限の情報を提供し、患者が最終決定する“患者主権主義(Consumerism)”、そして医師から患者へ、患者から医師へ、互いに必要な情報を提供し、患者と医師で最終決定をする“意思決定共有主義(Shared decision-making)”である。

 山内氏は、「患者は先生にお任せしますと言い、医師も僕の言うことに任せなさい、私の言う通りにしなさいといった時代があったのかも知れない。反対に、患者が、自分がこうしたいから先生の言うことは聞かないということもあるかも知れない。でも今は、意思決定共有主義といって、医師から患者へきちんとした情報を伝え、患者から医師へは自分が何を重視して乳がんの治療方針を決めたいかを伝え、それに基づいた手術もできるような時代になってきている」と説明した。

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