このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2020/09/15

緩和・支持・心のケア合同学術大会2020より

多領域の協力でがん関連の心血管疾患を防ぐ

がんのトータルケアには心血管毒性に対する適切な介入が大切

八倉巻尚子=医学ライター

がん関連性の血栓症とその原因

 がん関連性の血栓症(Cancer-Associated Thrombosis;CAT)は、動脈血栓症、静脈血栓症、脳梗塞などを引き起こすTrousseau症候群など多岐にわたる(Mukai M, et al. J Cardiology 2018;72:89-93)。日常診療で多いのが静脈血栓塞栓症(VTE:肺動脈塞栓症と深部静脈血栓症)で、がん患者では非がん患者に比べてVTEは4倍から7倍に増加し(JAMA2005;293:715-722)、がん患者のVTEは増加傾向にある(Eur J Cancer2013;49:1404-1413)。

 なぜがん患者に血栓症が多いのか。その原因の1つは「がんそのものが血栓を作ってしまうためです」(志賀氏)。がんが大きくなると、内部が低酸素状態に陥って、PAI-1(プラスミノーゲン活性化抑制因子-1)という成分が出てくる。PAI-1は血栓を溶かしにくくする作用があるため、血栓を助長する。またがん特有のムチン(糖タンパク質)が血栓を助長したり、がん細胞からサイトカインが多く出てきて血栓を予防する内皮細胞を障害する。さらに凝固反応に関連する組織因子や、組織因子を含むマイクロパーティクルが血栓を助長する。白血球も深くかかわっており、好中球細胞外トラップ(NET)という構造になって血栓を助長する。さらに、外科手術、静脈内カテーテル留置、化学療法やホルモン療法といったがん治療も血栓形成を助長するため、がんの治療中は血栓ができやすいという。

 またがん患者ではVTE再発率が高く、大出血の発症率や死亡率も高いことが、日本の後ろ向きコホート研究COMMAND VTE Registryで示されている(Circ J 2018;82-5:1262-1270)。

血栓症になりやすい人とは

 静脈血栓塞栓症のリスク評価にKhoranaスコアとViennaスコアがある。Khoranaスコアにおいて、胃がん、膵がんは非常にリスクが高いため配点は2点に、肺がん、リンパ腫、婦人科がん、膀胱がんなどは1点としている。血小板数が35万/μL以上、ヘモグロビン10g/dL未満、白血球数11000/μL超、BMIが35kg/m2以上の肥満の場合は各1点としている。さらにD-ダイマー(1.44μg/mL以上)、可溶性P-セレクチン(53.1mg/mL以上)を加えたものがViennaスコアであり、高い点数ほど血栓ができやすいことを示す。

 ただし、「日本人のがん患者でBMI 35以上は高すぎではないか」と考え、志賀氏の施設で肺がん患者を対象に調べたところ、BMI 35以上は682人中1人しかいなかった(J Cardiol. 2020;75-1:110-114)。多変量解析では、BMIが25 kg/m2以上、白血球数11000/μL超、化学療法前の血清D-ダイマーが1.44μg/mL以上、非小細胞肺がんがVTEのリスク因子になることがわかった。

がん関連性血栓症の治療と注意点

 VTE治療には抗凝固療法が行われる。欧米のガイドラインでは低分子ヘパリンの皮下注射が主流になっているが、「日本では使えないことと、ヘパリンの皮下注射が痛くて患者さんのストレスになるという問題があります」(志賀氏)。そこで治療には、未分画ヘパリンとワルファリン、そしてDOAC(直接経口抗凝固薬)が使われる。がん患者においてDOACはワルファリンに比べてVTE再発および重大な出血リスクが低い傾向が示されている(Thromb Res 2014;134:1214-1219)。

 低分子ヘパリンとDOACについてもさまざまな解析がなされてきた。それらの結果を加味して国際血栓止血学会(ISTH)の標準化委員会(SCC)ガイダンスでは、低分子ヘパリンとの無作為化比較試験のデータがあるDOACはリバーロキサバンとエドキサバンであり、これらは投与を考慮できるとなっている。ただし、VTE急性期で出血リスクが高い場合は低分子ヘパリンを使用し、「リバーロキサバンとエドキサバンは上部消化管出血と泌尿器科領域の出血が心配されるので注意しましょうと言われています」。

 最近では、DOACのアピキサバンがTHE ADAM VTE試験やCARAVAGGIO試験で、出血の頻度が比較的低いことが示唆される結果が出ている(J Thromb Haemost. 2020;18(2):411-4219 / N Engl J Med 2020;382:1599-1670)。それでも「やはりDOACでは消化管出血は注意すべきだと考えています」と志賀氏。特に胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などを行なった場合に、術後のDOACの再開には注意が必要であるとした。

 日本ではがん患者におけるVTEの予防的治療はできないが、ASCOのガイドライン最新版では、VTE高リスク外来患者に対する予防的治療(アピキサバン、リバーロキサバン、低分子ヘパリン)が選択肢として記載されている。リスク評価にはKhoranaスコアなどを活用すること、VTE治療にリバーロキサバンとエドキサバンが追記され、DOACを使う場合は消化器系がん患者と泌尿器生殖系がん患者での出血に注意することが記載されている(J Clin Oncol.2020;38:496-520)。そして米国NCCNガイドラインの最新版では、DOACとしてエドキサバン、リバーロキサバン、そしてアピキサバンも記載されているが、「胃または食道に病変がない患者に推奨と書かれています」と志賀氏は念を押した。

免疫チェックポイント阻害薬における心血管毒性

 免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)として、心筋炎だけでなく、心血管炎、心タンポナーデ、たこつぼ心筋症などが報告されている。劇症型心筋炎の101例の解析では、発症時期は中央値で27日(5-155日)、死亡が46例(46%)で、併用療法での致死率は67%、単剤療法では36%であった(Lancet 2018;391-10124:933)。「今後さらにICI関連の心筋炎患者さんが増えてくるといわれており、重症化すると死亡に至ることが問題です」。

 ではどのようにマネジメントすべきなのか。「そもそも循環器医にとって心筋炎の診断は非常に難しいのです」と志賀氏は言う。最終的には心筋生検をしないと確定診断に至れない。心筋生検ができなければ心臓のMRIを行い、心臓のMRIがない場合は心エコーやバイオマーカー、心電図、そして冠動脈病変の除外をしてから確定診断となる。欧州心臓病学会では、免疫チェックポイント阻害薬による治療にあたり、症状やバイオマーカーの測定、心電図、心臓MRIを利用して治療前のチェックをし、フォローアップ中もこれらの検査方法を使って調べ、心臓MRIも3カ月ごとに行う。そして疑わしいときは心筋生検を行うという管理を提案している(Eur Heart J 2020;41-18:1744-1746)。

Onco-Cardiologyチームの適切な介入で心血管疾患は減少

 最後に志賀氏は、多職種によるOnco-Cardiologyチームの適切な介入が有用であることを示した最近の論文を紹介した。アントラサイクリン系薬剤による治療を受けた乳がん患者154人を対象に、Onco-Cardiologyチームの介入がなかった時期の患者群と比較した。その結果、チームの介入後は高血圧や心不全、心筋梗塞、死亡が減少していた(Wei-Ting Chang, et al. ESC Heart Failure 04 July 2020)。

 「腫瘍循環器学はがん治療の継続を支えます。そのために大事なのはオンコロジストとの連携、施設での循環器医の役割を確立していくこと、腫瘍循環器領域の教育と育成、そして一番大事なのが多領域専門分野の集約です」と志賀氏は述べた。

この記事を友達に伝える印刷用ページ