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レポート

2020/09/15

緩和・支持・心のケア合同学術大会2020より

多領域の協力でがん関連の心血管疾患を防ぐ

がんのトータルケアには心血管毒性に対する適切な介入が大切

八倉巻尚子=医学ライター

 がん治療の効果を高め、治療を継続するには副作用の管理が重要である。従来の抗がん剤から分子標的薬、そして最近のがん免疫療法に到るまで、副作用として心不全や高血圧などの心血管毒性が報告されている。がん患者の高齢化に伴って心血管疾患を合併する患者は増え、腫瘍循環器学が重要視されるようになってきた。

 8月9-10日にウエブで開催された緩和・支持・心のケア合同学術大会2020の教育講演では、がん研有明病院腫瘍循環器・循環器内科の志賀太郎氏が「Onco-Cardiology/Cardio-Oncology(腫瘍循環器学)~がん治療中からエンドオブライフケアまで~」と題し、がん治療で起こる心筋障害や血栓症を中心にその対応について最新動向を解説した。



心血管疾患を合併したがん患者が増加

 高齢者の増加に伴って、循環器領域では心不全の患者が急速に増え、心房細動の患者も年々増加している。がん患者においてもサバイバーの増加とがん患者の高齢化で、心血管疾患を合併したがん患者が増えることが予想されている。

 「患者さんの高齢化、心血管疾患の既往、そしてがん治療開始後の経過期間は、がん患者さんの予後にとても影響します」と志賀氏は言う。早期乳がん診断時の年齢が66歳未満の患者では、診断から何年経っても死亡理由の第1位は乳がんによる死亡であるが、診断時の年齢が66歳以上の場合、心血管疾患による死亡が増えてくる(JAMA Cardiol.2017;2(1):88-93)。また心血管疾患の既往がある人では、乳がんによる死亡と心血管疾患による死亡の割合はほぼ同じで、診断から5年ほど経つと、心血管疾患が死亡理由の1位を占めてくる。

 がん患者とがんサバイバーの循環器疾患、およびがん治療に関連した心血管障害を扱うのが腫瘍循環器学である。「がんの診断時からがんの治療中、そしてサバイバーの時期と、長きにわたって患者さんに携わり続けていくのが、腫瘍循環器学の立ち位置になっています」と志賀氏は説明した。

がんに関連して起こる心血管疾患は多岐にわたる

 がん治療に関連して、不整脈、心筋症、動脈疾患、静脈血栓、肺高血圧、高血圧、心膜疾患、弁疾患など、さまざまな心血管障害が起こることが知られている(Nat Rev Cardiol. 2020 ;17(8):474-502)。従来の抗がん剤の代表格であるアントラサイクリン系薬剤(アドリアマイシン/ドキソルビシン、エピルビシンなど)では心筋障害が、5FUやカペシタビンなどの代謝拮抗薬では狭心症や心筋障害、白金系薬剤のシスプラチンでは静脈血栓があるといわれる。

 分子標的薬では、血液がんに用いられるプロテアソーム阻害薬(カルフィルゾミブなど)では心筋障害や動脈疾患、抗HER2薬のトラスツズマブは心筋障害、血管新生阻害薬であるVEGF阻害薬(ベバシズマブ、スニチニブ)では高血圧だけでなく、心筋障害、動脈疾患、静脈血栓も知られている。慢性骨髄白血病に対するBCR-ABL阻害薬のボナチニブでは動脈疾患、ダサチニブは肺高血圧、BRAF阻害薬やMEK阻害薬では心筋障害が報告される。がん免疫療法の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)やCAR-T細胞療法でもさまざまな心血管障害が起こり、CAR-T細胞療法ではサイトカインスト―ム(サイトカイン放出症候群)により低血圧が起こるとされる。放射線療法でもいろいろな心血管障害が起こるといわれている。

がん治療関連性の心筋障害とその頻度

 がん治療で起こる心筋障害は、がん治療関連性心筋障害(CTRCD、Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)と呼ばれる。欧州心臓病学会(ESC)の抗がん剤による心毒性の予防と治療に関する方針(position paper)2016では、CTRCDは「左室駆出率(LVEF)が10%以上低下し、基準下限の53%を下回る値になったもの」と定義されている(Eur Heart J.2016;37:2768-2801)。

 左心不全および心不全の発生率は、アントラサイクリン系薬剤の場合は5-30%といわれ、例えば乳がん治療におけるドキソルビシン240mg/m2までの低用量の場合は2-5%である(E-J Cardiology Practice 2019; 16-40,27 Feb 2019)。トラスツズマブやペルツズマブといった抗HER2薬では5-15%、血管新生阻害薬のVEGF阻害薬では約10%、BCR-ABL阻害薬のうち高リスク薬(ポナチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなど)では5-15%、プロテアソーム阻害薬の高リスク薬(カルフィルゾミブなど)は10-15%とされ、ICIについてはまだデータが不足しているため、発症頻度は不明である。放射線治療では高線量の縦隔照射で5-10%、低線量の乳房照射は2-4%となっている。

 CTRCDの分類は、長年にわたってタイプ1(心筋障害)とタイプ2(心筋機能不全)に分けられてきた。タイプ1はドキソルビシン、タイプ2はトラスツズマブを代表薬として、タイプ1は「安定化はするが、障害は持続的、蓄積的で非可逆的な障害」、タイプ2は「一般的には可逆的な障害」とされていた。しかし新しい薬が出てきて、最近ではタイプ11あるいはタイプ12など細分化され、複雑になってきているという。病態生理の視点から3つのタイプに分ける場合もある。タイプ1が直接的な心筋障害、タイプ2が間接的な心筋障害で、ストレスなどの全身的な影響による心筋障害を含む。タイプ3が心筋炎である(Nat Rev Cardiol. 2020 ;17(8):474-502)。ただ、ドキソルビシンや5-FU、抗HER2薬など、どの薬剤でもいずれのタイプをも起こるため、「病態生理の違いを理解しながら、薬剤による心筋障害を見ていくことが大事になります」と志賀氏は話した。

心筋障害リスクのある人とは

 欧州心臓病学会のPosition Paperによれば、心筋障害は、心不全の既往がある人、心不全がなくてもLVEFが50%未満もしくはBNPが高い人、虚血性心血管疾患がある人、弁膜症がある人、不整脈がある人は注意すべきだとされている(Eur Heart J.2016;37:2768-2801)。さらに「通常の心血管疾患リスク、つまり年齢や高血圧、糖尿病、高脂血症もCTRCDに深く関与するため、コントロールがとても重要です」(志賀氏)。このほか、アドリアマイシンの治療歴、胸部照射歴、喫煙、肥満、アルコールの多飲もCTRCDのリスクとして挙げられている。

 CTRCDの検査方法として、BNPやトロポニンI/Tなどのバイオマーカーの測定や心電図、心臓のエコー、心臓CT、心臓MRIなどが行われる。心エコーではLVEFだけでなく、ストレイン(心筋の伸び縮み)も大切で、特にglobal longitudinal strain(GLS)という検査項目がCTRCDの管理には重要といわれている。

 CTRCDの治療には、慢性心不全の治療に使われているβ遮断薬、ACE阻害薬やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を使って心臓を保護し、スタチンも「抗炎症や抗酸化など良い作用がある」ため使われる(Cardiovascular Research 2019;115-5:915-921)。「これらを継続的に使って、心臓を守りながら安全な抗がん剤の治療を続けてもらっています」と志賀氏は言う。

 そして「治療で大事なのが早期介入です」。心筋障害が起こってしまうと元に戻せなくなることがある。心エコーの検査項目のGLSは早期診断に有用で、「GLSを測ってCTRCDの早期発見、そして早期治療の開始に役立てようといわれています」。LVEFが10%以上低下して53%を下回る場合はCTRCDと診断されるが、そうでない場合も、GLSを測って治療前のGLSと比べて15%以上低下したら、心筋障害が進んでしまう可能性が高いため、CTRCD治療の開始を考えるきっかけになるという。

心筋障害の予防とリスク低減のために

 米国臨床腫瘍学会(ASCO)はがんサバイバーの心筋障害の予防とモニタリングの指針として、第一に、「どんながん患者さんが心血管疾患の増悪リスクが高いかを考えていかなければならない」としている(J Clin Oncol. 2017;35(8):893-911)。例えば、高用量のアントラサイクリン系薬剤は注意が必要で、「従来はドキソルビシン換算で500mg/m2まで大丈夫と考えられていましたが、250mg/m2以上でリスクが高くなると考えることがより安全といわれています」。放射線療法では心臓領域を含む照射で30Gy以上ではリスクが高くなる。低用量のアントラサイクリン系薬剤でも、2つ以上の心血管疾患リスク(喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満)、年齢が60歳以上、心機能障害(LVEFが50-55%など)があれば高リスクにつながる。

 がん治療開始前の心血管疾患の予防およびリスク低減には、心毒性のある薬剤のほかに代替療法がないのかどうか、「特に心血管疾患の高リスクの患者さんには、このような検討をすべきでしょう」。そして大事なのは、心血管疾患リスク因子(高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満、喫煙)の評価とそれらの適正化であるという。

 治療中のリスク低減にも、心血管疾患リスク因子の改善が重要とされている。また例えば高用量アントラサイクリン系薬剤であれば、リポソーム化ドキソルビシンなど低毒性のものを使うことが可能かどうか、放射線療法も低線量化ができるかどうかなどを検討する。モニタリング方法として、ASCOの指針では第一に心エコーを挙げている。心エコーが難しい場合は心臓MRI(CMR)を考え、トロポニンやBNPといったパイオマーカー、GLSなどをチェックすることが推奨されている。

 がん治療後の長期的なモニタリングでも心エコーが第一で、症状がなくても心血管リスクの高い患者には、がん治療後6-12カ月の間で心エコーを行うことが推奨されている。そして「非常に大事なのが、心血管疾患リスク因子の適正化、食事療法や運動といったヘルスケアです」。

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