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レポート

2020/08/18

胃がんの低侵襲手術の最新動向Vol.3

胃がんの根治手術での術後合併症のリスクを減らすロボット支援下内視鏡手術

森下紀代美=医学ライター

 腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術は、開腹手術や開胸手術と比べて、手術での出血量が少なく、手術創が小さくて済み、術後の痛みが少ないため早期離床が可能、入院期間も短縮するなど、患者にとってさまざまなメリットがある。

 胃がんに対する腹腔鏡下手術には保険が適用され、がんの種類や病期などにより推奨される度合いは異なるが、患者の身体に負担(侵襲)の少ない低侵襲手術として普及してきた。

 ただし、デメリットもある。腹腔鏡下手術で使用する器具には柔軟性がなく、直線的な動きしかできないこと、腹腔内に入れる内視鏡カメラは2次元画像のものが多く、画像は平面的で立体感がないことなどだ。そのため、腹腔鏡下手術には高い技術力が求められる。2018年には、腹腔鏡下手術の問題点を改善したロボット支援下内視鏡手術も保険適用となり、腹腔鏡下手術と同額で受けられるようになっている。

 7月1日からWEBで開催された第92回日本胃癌学会総会のシンポジウム「胃癌外科手術のevidenceとreal-world data:低侵襲手術」では、臨床試験で検証された胃がんに対する腹腔鏡下手術やロボット支援下内視鏡手術のエビデンス、そしてエビデンスに基づき日常診療でどのように活用されているかについてエキスパートが講演した。その様子を3回にわたって紹介する。

 3回目は、胃がんの根治手術におけるロボット支援下内視鏡手術の有用性について、藤田医科大学総合消化器外科准教授の柴崎晋氏が講演した。


胃がん手術に保険適用となったロボット支援下内視鏡手術

 胃がんに対するロボット支援下内視鏡手術では、内視鏡下手術用ロボット「ダヴィンチ」を用いて腹腔鏡下胃切除術が行われる(ロボット支援下胃切除術)。

 藤田医科大学総合消化器外科では、2009年1月にこの手術を開始した。同大で2012年までに胃がんの根治手術を行った526人を対象とした後ろ向き研究では、ロボット支援下胃切除術を行った群(88人)、保険が適用されている従来の腹腔鏡下胃切除術を行った群(438人)の術後短期成績を比較。ロボット支援下胃切除術を行った群で手術に関連する局所合併症が有意に減少し、術後の在院期間も短縮したことが示された(Surg Endosc 2015;29:673-85)。

 この研究では、長期成績は両群で同等となった。術後3年の時点での全生存(OS)率は、ロボット支援下胃切除術で86.9%、腹腔鏡下胃切除術で88.8%(p=0.636)、無再発生存(RFS)率はそれぞれ86.9%、86.3%となり(p=0.905)、いずれも差はなかった(Surg Endosc 2016;30:5444-52)。

 これらの結果を基に、ロボット支援下胃切除術の保険適用を目指し、先進医療として多施設共同の前向き試験が行われた。

 対象は、臨床分類でI期またはII期の胃がんで、内視鏡では切除できないと判断された患者。噴門側胃切除術(胃の入口側を切除)、幽門側胃切除術(胃の出口側を切除)、胃全摘術(胃のすべてを切除)のいずれかで根治手術が可能なこととした。2014年10月から2016年12月までに15施設から330人が登録され、プロトコール治療が中止になった患者を除く326人が解析対象となった。

 この試験ではまず、当初から参加を予定していた3施設(藤田医科大学、佐賀大学、京都大学)の過去のデータを再調査し、I期またはII期の胃がんで腹腔鏡下胃切除術を行った801人について、術後合併症の規準を用いて評価した。入院期間の延長につながるグレードIII以上の術後合併症は6.4%に発症していた。

 ロボット支援下胃切除術では、グレードIII以上の術後合併症の発症率は2.45%となり、腹腔鏡下胃切除術よりも有意に減少したことがわかった(p=0.0018)。ロボット支援下胃切除術は、腹腔鏡下胃切除術と比べて安全性で優れることが示された(Gastric Cancer 2019;22:377-85)。この試験では、今後、術後3年間のRSFやQOLなどが報告される予定だ。

低侵襲手術の術後合併症に影響するリスク因子を検証

 前向き試験の結果に基づき、ロボット支援下胃切除術は2018年4月より保険適用となった。それに伴ない、この手術が選択される患者やこの手術を行う医師(術者)が今後増加することが予測されるが、患者背景や術者の因子などが結果に与える影響についてはわかっていない。

 そのため柴崎氏らは、同大単施設の後ろ向き研究として、胃がんに対する低侵襲手術において、術後合併症に寄与するリスク因子を再度検証することとした。同氏らはこの研究の結果を論文で発表している(World J Gastroenterol 2020;26:1172-1184)。

 研究の対象は、2009年1月から2019年6月までに同大で行った低侵襲手術で、臨床分類または病理分類でI期からIII期の胃がんに対し、根治手術が可能だった患者とした。1401人が解析対象となり、ロボット支援下胃切除術を行った群(ロボット手術群)は359人、腹腔鏡下胃切除術を行った群(腹腔鏡群)は1042人となった。

 グレードIII以上の術後合併症の有無について、単変量解析と多変量解析の2つの解析法で検討したところ、単変量解析では、術後合併症のリスク因子として、「腹腔鏡下胃切除術」、「男性」、「臨床分類でII期以上」、「噴門側胃切除術または胃全摘術」、「脾臓摘出術」、「手術時間が360分以上」、「出血量が50mL以上」が有意な因子となった。

 これらの因子を多変量解析にかけると、「腹腔鏡下胃切除術」、「男性」、「手術時間が360分以上」が有意な因子として抽出され、オッズ比(対象とする事象[ここでは術後合併症]の起こりやすさ)は、それぞれ2.591(95%信頼区間:1.418-4.717、p=0.002)、1.969(95%信頼区間:1.142-3.390、p=0.015)、1.800(95%信頼区間:1.098-2.952、p=0.020)となった。この解析では、腹腔鏡下胃切除術が術後合併症の最も有意なリスク因子として抽出された。

ロボット手術で術後合併症のリスクは低下、腹腔内感染症で顕著に

 全体の解析において腹腔鏡下胃切除術が最も有意な独立したリスク因子として抽出されたため、患者背景のばらつきによる影響を除外するため、傾向スコアマッチング法*1を用いて、ロボット手術群と腹腔鏡群で患者背景、腫瘍因子、術式を揃え、各群354人で比較検討した。

 ただし、日本内視鏡外科学会が認定する「技術認定医」の数が術者全体の数に占める割合(技術認定医執刀率)は調整しきれない因子だった。ロボット手術群の術者は8人で、全員が技術認定医だったが、腹腔鏡群の術者は33人、このうち技術認定医は14人だった。技術認定医執刀率は、ロボット手術群100%、腹腔鏡群52.5%となり、有意差を認めた。

 傾向スコアマッチング法で患者背景を調整した後の術後成績では、手術時間中央値はロボット手術群360分、腹腔鏡群347分で、ロボット手術群で有意に長く、出血量中央値はそれぞれ37mL、28mLで、10mL未満の差だったが、ロボット手術群で有意に多かった。一方、術後在院日数中央値は、ロボット手術群12日、腹腔鏡群13日となり、ロボット手術群で有意に短かった。

 グレードIII以上の術後合併症の発症率は、全体ではロボット手術群3.7%、腹腔鏡群7.6%となり、ロボット手術群で有意に低かった(p=0.033)。特に低かったのが腹腔内感染症(縫合不全*2、膵液瘻*2、腹腔内膿瘍*3を合わせたもの)で、ロボット手術群2.5%、腹腔鏡群5.9%となり、ロボット手術群で有意に低い結果となった(p=0.038)。その他の局所合併症(腸閉塞など)、全身合併症(肺炎など)の発症率は、両群で差はなかった。

 ロボット支援下胃切除術が合併症軽減に寄与する可能性が示された理由として、リンパ節郭清の手技の工夫やダヴィンチの機能を活かした手術機器の使用により、「より精緻に、かつ、より臓器を保護する手技を行うことができたためと考える」と柴崎氏は説明した。

 この結果を日常診療に外挿することが可能かについては、柴崎氏は「単施設の成績であること、長期成績がまだ不明であることなどを考慮すると、さらなる検証が必要と考える。現在、NCDの全例前向き登録による症例の蓄積が行われているため、その解析結果も見ていく必要がある」と述べた。

[脚注]
*1 研究対象となる危険因子以外の背景因子で、比較する群の間で分布が異なり、かつ結果に影響を及ぼすものについて、偏りを小さくする方法。ランダム化割り付けが困難な観察研究などに用いる。
*2 胃の手術後にみられる主な合併症。縫合不全:胃を切除した後、残った消化管を縫合し、再び食物が通過できるようにする(再建)が、縫合した部分の一部が開いてしまうこと。膵液瘻:膵臓周囲のリンパ節を郭清する際などに膵臓に傷がつき、膵液が漏れること。いずれも治癒しないと生命に関わる場合がある。
*3 消化管の損傷や縫合不全などにより、消化管の内容物が漏れ、感染性の液体が腹腔内に貯まること。



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