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レポート

2020/08/04

胃がんの低侵襲手術の最新動向Vol.1

早期胃がんで良好な長期成績が示された腹腔鏡下胃切除術、QOLも改善

森下紀代美=医学ライター

 腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術は、開腹手術や開胸手術と比べて、手術での出血量が少なく、手術創が小さくて済み、術後の痛みが少ないため早期離床が可能、入院期間も短縮するなど、患者にとってさまざまなメリットがある。

 胃がんに対する腹腔鏡下手術には保険が適用され、がんの種類や病期などにより推奨される度合いは異なるが、患者の身体に負担(侵襲)の少ない低侵襲手術として普及してきた。

 ただし、デメリットもある。腹腔鏡下手術で使用する器具には柔軟性がなく、直線的な動きしかできないこと、腹腔内に入れる内視鏡カメラは2次元画像のものが多く、画像は平面的で立体感がないことなどだ。そのため、腹腔鏡下手術には高い技術力が求められる。2018年には、腹腔鏡下手術の問題点を改善したロボット支援下内視鏡手術も保険適用となり、腹腔鏡下手術と同額で受けられるようになっている。

 7月1日からWEBで開催された第92回日本胃癌学会総会のシンポジウム「胃癌外科手術のevidenceとreal-world data:低侵襲手術」では、臨床試験で検証された胃がんに対する腹腔鏡下手術やロボット支援下内視鏡手術のエビデンス、そしてエビデンスに基づき日常診療でどのように活用されているかについてエキスパートが講演した。その様子を3回にわたって紹介する。

 1回目は、開腹手術による幽門側胃切除術(開腹幽門側胃切除術)と腹腔鏡下手術による幽門側胃切除術(腹腔鏡下幽門側胃切除術)を比較した、日本の第III相試験JCOG0912の長期成績について。先に発表された無再発生存期間(RFS)に続き、QOL研究の結果も明らかになった。神奈川県立がんセンター胃食道外科医長の山田貴允氏が講演した。


切除範囲が大きな胃切除術で腹腔鏡下手術は開腹手術と同等の有効性と安全性

 幽門とは、胃の出口で、十二指腸につながる部分のこと。胃がんができやすい部分とされる。幽門を含む胃の2/3以上を切除する幽門側胃切除術は、胃がんの手術の中では胃全摘術の次に切除範囲が大きな手術である。

 臨床分類でI期の胃がんに対する腹腔鏡下幽門側胃切除術は、良好な短期成績や安全性が報告され、「胃癌治療ガイドライン 2018年1月改訂 第5版」では「日常診療の選択肢となりうる」とされた。ただし、この手術には高い技術力が必要であることから、「各施設において習熟度に応じた適応基準を設けるべきである」ことも記載されている。

 腹腔鏡下幽門側胃切除術の長期成績も最近明らかになった。日本で行われた大規模なJCOG0912試験から、RFSの結果(Lancet Gastroenterol Hepatol 2020;5:142-51)、さらにQOLの結果が報告されたのである。

 JCOG0912試験の対象は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の対象とならない臨床分類でIA/IB期の胃がんで、がんが胃の中部か下部にあり、20-80歳、体格指数(BMI)は30kg/m2未満――などの条件を満たす患者だった。幽門側胃切除術とともに、IA期にはD1+(D1プラス)と呼ばれるリンパ節郭清、IB期にはD1+よりも広範囲のD2リンパ節郭清が行われた。

 主要評価項目はRFSで、開腹幽門側胃切除術に対し、腹腔鏡下幽門側胃切除術が非劣性であることを検証した。RFSは、ランダム化割り付けから再発または死亡(あらゆる死因による)までの期間と定義された。手術の質を保つため、手術の経験症例数や技術の資格などの基準を満たす外科医だけがこの試験への参加を認められた。

 2010年3月から2013年11月までに、日本の33施設から921人の患者が登録され、開腹幽門側胃切除術を行う群(開腹群)に459人、腹腔鏡下幽門側胃切除術を行う群(腹腔鏡群)に462人がランダムに割り付けられた。割り付けられた手術が行われたのは912人(99%)だった。

 先に報告された短期成績では、腹腔鏡群は開腹群よりも手術時間が長かったものの、出血量や術後の鎮痛薬の使用が少なかったことが報告されている(Gastric Cancer 2017;20:609-708)。

 新たに発表された長期成績の観察期間中央値は5.9年となった。5年の時点でのRFS率は、開腹群94.0%、腹腔鏡群95.1%、ハザード比0.84(90%信頼区間:0.56-1.27、p=0.0075)となり、腹腔鏡下幽門側胃切除術の開腹幽門側胃切除術に対する非劣性が証明された。

 最も多く観察されたグレード3または4の術後合併症は腸閉塞で、開腹群の2%、腹腔鏡群の1%に発症した。両群ともに治療関連死は発生しなかった。

幽門側胃切除術で腹腔鏡下手術と開腹手術のQOLを初めて比較

 JCOG0912試験で副次的評価項目の1つとされたのが術後のQOLで、腹腔鏡下幽門側胃切除術は、QOLにおいても開腹幽門側胃切除術より低侵襲であるかを研究した。この2つの手術のQOLを比較した研究はこれまでなかった。

 このQOL研究では、JCOG0912試験の対象のうち、国立がん研究センター中央病院、神奈川県立がんセンター、静岡県立静岡がんセンター、愛知県がんセンターの4施設の患者でQOL研究への参加にも同意した患者を対象とした。

 QOLの評価には、欧州がん研究・治療機構(EORTC)が開発したQOLに関する質問票(EORTC QLQ-C30、以下QLQ-C30)、胃がん患者用のQOL調査票(EORTC QLQ-STO22、以下QLQ-STO22)を用いて、患者から回答を得た。

 主要評価項目は、QLQ-C30の項目の中の「全般的健康(global health status:GHS)」スコア。GHSスコアは0点から100点で表し、点数が高いほど全般的健康状態とQOLが良好であることになる。手術から3カ月後に10点以上低下した場合、臨床的に意味のある低下とした。研究では、GHSスコアが10点以上低下する割合を開腹群で61%、腹腔鏡群で45%と仮定し、3カ月後に差が認められた場合は1年後、3年後も検証を続けることとした。

 JCOG0912試験に登録された患者921人のうち、4施設から登録されたのは592人で、このうち590人がQOL研究に同意した。開腹群294人、腹腔鏡群296人となり、患者背景の偏りはなかった。QOL調査の回収率は、手術から3カ月後には98%以上、3年後も92%以上と高く、山田氏は「非常に質の高い研究を行うことができた」と話した。

術後3カ月でのQOLの回復は腹腔鏡下手術で優れる

 解析の結果、GHSスコアが10点以上低下した割合は、手術から3カ月後で開腹群37.2%、腹腔鏡群29.2%、オッズ比0.65(95%信頼区間:0.45-0.93、p=0.020)となり、腹腔鏡群で統計学的に有意に低く、QOLの低下が少ないことが示された。なお、手術から1カ月後、1年後、3年後では、GHSスコアが10点以上低下した割合に差はなかった。

 山田氏は「腹腔鏡群は開腹群と比べて、術後1カ月から3カ月の間にQOLが回復する患者さんの割合が多いと解釈することができる」と説明した。

 経時的変化をQLQ-C30の機能尺度でみると、身体機能と役割機能は手術から1カ月後に腹腔鏡群で有意に優れることが示されたが、認知機能、心理機能、社会機能はどの時点でも両群の間に差はなかった。

 次に、QLQ-C30の症状尺度でみると、疼痛は手術から1カ月後と3カ月後に腹腔鏡群で有意に少なく、便秘も同じ時点で少ないことが示された。倦怠感、悪心・嘔吐、呼吸困難感、不眠、食欲不振、下痢、経済的困難については、どの時点でも両群の間に差はなかった。

 QLQ-STO22でも、腹痛は手術から1カ月後と3カ月後に腹腔鏡群で有意に少ない結果となった。

 JCOG0912試験では、腹腔鏡下幽門側胃切除術は開腹幽門側胃切除術との比較において、RFSでは非劣性、QOLでは優れることが示された。山田氏は「総合的に考え、I期の胃がんに対し、腹腔鏡下幽門側胃切除術は強く推奨される。ただし、進行がんに対しては、エビデンスが出揃うまで適応の拡大は慎重にすべきと考える」と述べた。

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