同時化学療法で放射線治療の効果を増強する
放射線治療の効果は腫瘍が大きくなると低下することが知られている。そこで「放射線治療の効果を増強するために、3つの対策がなされてきた」。1つは、放射線治療と同時に化学療法を行うこと(同時化学放射線治療:CCRT)、2つめは放射線治療後に化学療法を行うこと、そして化学療法で小さくしてから放射線治療を行うこと、つまり放射線治療前に化学療法を行うことである。
まず根治的放射線治療への同時化学療法について。同時化学療法が子宮頸がんの根治的放射線治療の効果を増強するかを検証するため、1990年代に多くの無作為化比較対照試験(RCT)が行われた。たとえば放射線治療にシスプラチンを併用したGOG123試験では、シスプラチンの追加で死亡リスクは46%低下した。またGOG120試験ではIIB期からIVA期子宮頸がんを対象に3群が比較された。結果、放射線治療群(ヒドロキシウレア併用)に比べて、放射線治療にシスプラチン単剤を併用したCCRT群では死亡リスクは39%低下、放射線治療にシスプラチン+フルオロウラシル(5-FU)+ヒドロキシウレアを併用したCCRT群は42%低下した(Rose PG, et al. 1999)。CCRT群の成績はほぼ同等であったため、比較的副作用が少なかったシスプラチン単剤を併用するCCRTが標準治療となった。
また手術の後の放射線治療に化学療法を併用することについて、GOG109試験では術後高リスク群を対象にその有用性が検討された。結果、放射線治療単独に比べて、シスプラチン+5-FUを用いたCCRTはPFSとOSを有意に延長した(Peters WA, et al. 2000)。このため術後高リスク群では、術後照射の効果を同時化学療法は増強するといえる。
ただし、「中リスク群に対する術後照射を同時化学療法が増強するか否かは現時点で不明である」。現在、放射線治療単独とシスプラチンを用いたCCRTとを比較する第3相試験のGOG0263試験で、その検討が行われているという。
放射線治療後および放射線治療前の補助化学療法の有効性は検討中
2つめの放射線治療後に化学療法を行うことについては、「予後が改善されるか否かは現時点では不明である」と馬淵氏。現在、シスプラチン併用のCCRTに、化学療法としてカルボプラチン+パクリタキセル(TC療法)を4サイクル追加するデザインの2つの第3相試験が行われている。1つは、IA2-IB2期で術後高リスク群を対象に、術後CCRTの後に化学療法(TC療法)を追加する試験(GOG0724/RTOG0724)。もう1つは、局所進行子宮頸がん(リンパ節転移陽性IB1期またはIB2-IVA期)を対象に、根治CCRTの後に化学療法(TC療法)を追加する意義が検討されている(OUTBACK試験:GOG0274/RTOG1174)。
3つめの放射線治療前の化学療法(NAC)について。1980年から1990年代には放射線単独治療に対するNACの有用性を検討するために数多くのRCTが行われた。しかし18のRCTのメタ解析の結果、NACの有用性は証明できず、NACに使用されるシスプラチンの用量強度の低い群ではむしろ逆効果であることが示された(Eur J Cancer 2003;39:2470-86)。これらの結果を受け、「今日まで放射線単独治療にはNACを行わないことが標準になっている」。
ではCCRTの場合はどうか。「昨年CCRTの前にNACを行うことの是非を検討するRCTの結果が公表された」。この第3相試験では、シスプラチンを用いた標準的なCCRTを行った群と、CCRTの前にシスプラチン+ゲムシタビンによるNACを行った群が比較された。その結果、NACを行った群で有意に生存率が低下した(da Costa et al. J Clin Oncol. 2019; 37:3124-31)。つまり、「CCRT前のNACは有害である可能性が示唆されたわけである」。
現在、別の第3相試験INTERLACEが行われている。この試験ではNACとして週1回投与のTC療法が採用されている。試験は2021年に終了予定で、「CCRT前のNACの意義について、結論が出ると思われる」と馬淵氏は語った。
手術前のNACの有用性を示すエビデンスなし、術後補助化学療法の有効性は検討中
手術療法の効果を高めるための化学療法にはNACと術後補助療法がある。「手術前に行うNACの目的は、手術可能性(operability)を上げること、また切除可能例では根治性(radicality)を上げることである」。それにより生存率の向上や手術合併症の減少、術後リスク因子を減少させて術後補助治療の回避が期待できると考えられ、2000年代までに多くのRCTが行われたという。
代表的なRCTの1つが米国で行われたGOG141試験。IB2期を対象にNAC(シスプラチン+ビンクリスチン)+手術と手術単独が比較されたが、OSの改善効果は認められなかった。国内のJCOG0102試験でもNAC(シスプラチン、ブレイオマシン、マイトマイシン、ビンクリスチン)の有用性は証明できず、「生存率という観点では手術前にNACを行うメリットはないというのが結論である」。
子宮頸癌治療ガイドライン2017年版でも、IB・II期扁平上皮がんに対し「QOLの改善を含めたNACの有用性が示唆されているが、CCRTなど標準治療に対して予後改善効果を示すエビデンスは得られていない」としている。しかし「NAC奏効例では予後良好であるという報告が多く」、一方でNACの薬剤や投与量などは試験によって異なっていた。現時点では「腫瘍の拡がりや大きさによってはNACを組み合わせた治療が考慮される」(グレードC1:行うことを考慮してもよいが、未だ科学的根拠が十分でない)と記載されている。
手術後に行う化学療法についても、前向き研究は少なく、その有用性を示すエビデンスは現時点ではないというのが実情であるという。現在、第3相試験のJGOG1082試験(AFTER試験)で、術後高リスク群を対象に、TP療法またはTC療法による術後補助化学療法と術後放射線治療(CCRT)の比較が行われている。
PD-L1陽性例での免疫チェックポイント阻害薬への期待
進行・再発子宮頸がんに対する新しい治療薬として、期待されているのが免疫チェックポイント阻害薬である。KEYNOTE 158試験では進行・再発子宮頸がん98例に対して、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ単剤の治療効果が検討された。全体の奏効率は12.2%で、完全奏効(CR)が3.1%だった。PD-L1の発現が陽性の患者では奏効率は14.3%、陰性例では0%だった(Chung HC, et al. 2018; 37:1470-78)。またPFSとOSは、PD-L1陽性例のほうが陰性例に比べて高いことが示されている。
この結果を受け、2018年6月に米国FDAは、PD-L1陽性の進行・再発子宮頸がんに対しペムブロリズマブを承認した。「今後日本においても、本薬剤が使用できることが期待される」と馬淵氏は話した。
子宮頸がんの治療1. 手術
子宮頸がんの若年化で変わってきた手術の術式