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レポート

2020/06/23

がんに負けないお金の話Vol.8

医療費や生活費のためにも知っておきたい、がん患者への就労支援

福島安紀=医療ライター

 仕事を続けながら通院しているがんの患者は、2016年国民生活基礎調査の結果から、36万5000人と推計される。がんと仕事の両立支援に積極的に取り組む企業や病院は増えてきているが、「同僚に迷惑をかけるのではないか」「仕事を続けながら治療をする自信がない」などと、悩む人は少なくない。仕事と治療の両立、休職、復帰・再就職のために、知っておきたい制度や支援について、国立がん研究センター東病院サポーティブケアセンター/がん相談支援センター・副センター長(がん相談統括専門職)の坂本はと恵氏に聞いた。


 「最初に強調したいのは、がんを告知されたときに、会社を辞めるなど重大な決断をできるだけしないでほしいということです。最近は減ってきていますが、以前は、がんの疑いと言われたり告知されたりした時点で会社を退職してしまい、『後悔している』と相談にいらっしゃる方が少なくありませんでした。がん種や進行度、病状にもよりますが、がんの場合は外来通院で行う治療も多く、働きながら通院している患者さんや有給休暇、会社の時差出勤、時短勤務、フレックス勤務、在宅勤務制度などを使って治療期間を乗り切る人も増えています。まずは、がんの担当医に、どういう治療がどのくらいの期間必要で、仕事にどのような影響が出ると考えられるのか確認することが大切です」。坂本氏は、そうアドバイスする。

国立がん研究センター東病院の坂本はと恵氏

 担当医に確認したいのは、手術の場合、1)何日くらい休みが必要なのか、2)手術前後にどの程度通院が必要か、3)手術を受けることでできなること、難しくなることはあるのか、4)手術の後の追加治療の有無と、その期間、5)費用などだ。手術だけで治療が終了するときには、有給休暇や夏季休暇の消化で、治療が終わることもある。

 薬物治療を受ける前には、1)入院、通院どちらの治療なのか、2)通院と治療の頻度、3)通院治療の場合1回の治療にかかる期間、4)頻度の多い副作用とその期間、5)治療の前後に出勤が可能か、6)費用――といった情報が必要になる。放射線治療は、一般的には通院治療で、1回の治療にかかる時間は短いが、1~2カ月間平日は毎日通院が必要になる場合もある。薬物治療での確認事項2)~6)に加えて、例えば、早朝や夕方に受けられないか放射線治療の時間帯などを、必要に応じて相談してみるとよいだろう。

就業規則を確認し、仕事と治療の両立支援を受けよう

 「休職できる期間やその際の給与の条件などは事業所によって異なるので、勤務先の就業規則を確認することも重要になります。時短勤務やフレックス勤務、在宅勤務などができないかも含めて、就業規則に詳しい、総務担当の人に相談してみましょう」と坂本氏は話す。

 勤務体系の変更や休職を検討するときには、上司や人事・総務担当者に報告し相談する必要もある。労働安全衛生法では、企業に対し、「安全配慮義務」を課している。安全配慮義務とは、社員の生命、身体等の安全を確保しつつ仕事をすることができるように健康診断の実施や、必要と認められた場合の就業上の配慮(配置転換や勤務時間短縮など)をする責任のことだ。
 
 厚生労働省は、「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(2020年3月改訂)を策定し、事業者に対して、従業員が治療と仕事を両立する場合には「両立支援プラン」、休職後復帰する際には「職場復帰支援プラン」を作成することを提案している。治療と仕事の両立支援、職場復帰支援は、がんの患者である労働者が支援に必要な情報(表1)を集めて事業者に提出するところから始まる。その際、「主治医意見書」が必要になる場合には、意見書を受け取るまでに1~2週間かかることが多いので、早めに、主治医に相談するとよいだろう。職場に所定の書式がない場合には、同ガイドラインの様式例集が参考になる。

表1 両立支援の検討に必要な情報

 「復職前には、一定期間、時間外労働や出張ができない、通院時間や休憩場所の確保など、仕事のうえで配慮を望む事柄について、上司や人事・総務担当者に具体的に相談することをお勧めします。ただ、必要以上に、職場の人に気を遣われたくないという患者さんは少なくありません。仕事との両立の仕方や上司・同僚・家族への病気の伝え方などで不安や悩みがあったら、病院の相談室やがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに相談してください」と坂本氏は強調する。労働、保険、年金の専門職である社会保険労務士が、定期的に就労関係の相談に応じる、がん相談支援センターも増えている。

 仕事と治療の両立に関しては、病気の特性や治療法によっても対応が異なり、会社の風土なども影響する。ピアサポーターの存在も重要だ。「同じような経験をした方のお話を聞くことで、経験に基づいたヒントを得られることがあります。ときには、患者サロンや働く世代が多い患者会の集まりに参加してみることもお勧めです」(坂本氏)

休職中の収入を補う傷病手当金は申請時期、タイミング熟考を

 会社員や公務員など給与所得者が、治療のために休職し、給与が減額されたり無給になったりしたときには、傷病手当金を活用する手もある。傷病手当金が支払われるのは、下記の4つの条件をすべて満たしたときだ。正社員でなく契約社員などでも、社会保険に加入していれば受給できる。

表2.傷病手当金の支給条件

 受給するには、自分が加入している健康保険組合に申請書を提出する必要がある。1日当たりの支給金額は、支給開始日以前の12カ月間の標準報酬月額の平均額を30日で割った金額の3分の2で、仕事に就けない期間は土日祝日分も関係なく支給される。在職中に傷病手当金を受給し始め、その後も働けないのであれば、退職したとしても支給開始日から最大1年半は傷病手当金が受給できる。

 ただ、この連載のVol.3「該当するなら活用したい 高額介護合算療養費、傷病手当金、ひとり親家庭等医療費助成、ウィッグ・胸部補正具助成」でも触れたように、傷病手当金を申請する際には、注意点がある。それは、途中で仕事に復帰して働き、傷病手当金を受け取っていない期間があったとしても、同じ病気が理由である場合には、最初の支給開始日から1年半経ったら受給できないという点だ。例えば、がんで手術を受け、入院とその後の療養期間に1カ月間傷病手当金を受給し、その後、復職して元通り働き、傷病手当金をもらっていなかったとしても、受給開始日から1年半までしか支給対象にならない。万が一、2~3年後に再発して長期間休職して治療を受けても、そのときには傷病手当金はもらえないわけだ。

 「ケースバイケースですが、最初の治療が例えば手術だけで、数週間から1カ月程度で終わるのであれば、できるだけ有給休暇の消化などで何とか工面する方法もあります。傷病手当金は、実際の受給期間に関係なく、支給開始日から1年半で受給期間が終了することを考慮に入れたうえで、病状や治療内容に合わせて申請のタイミングや期間を検討しましょう」と坂本氏はアドバイスする。

復帰に備えて職場への定期的な連絡とリハビリも重要

 休職中は、体調がいいときに、メールや電話などで人事・総務担当者や上司などに定期的に現状を報告し連絡を取っておくことも大事だ。休職後、復職する際には、満員電車で通勤ができるのか、フルタイムでの出勤は可能か、治療や副作用などのために変則勤務が必要かなど主治医に確認しつつ検討し、納期の厳守や立ち仕事が難しい、頻繁に休憩が必要など、具体的に自分の状況を職場に伝える必要がある。スムーズに復帰するためには、職場と医療機関の連携が不可欠だ。

 「職場復帰支援プログラムを作成する際、意外と見落とされがちなのがリハビリです。がんで治療や入院、療養すると、身体活動量が、がんだと診断される前と比較して約90%落ちるという報告もあり、職場に復帰後は、ほとんどの患者さんが非常に疲れやすくなります。一般的には、がんの治療後、元の仕事のペースに戻るのは、半年から1年以上かかります。精神的なストレスも大きいので、復帰は焦らず、体調に合わせてゆっくり進めましょう。在宅勤務から通勤するようになる場合も同様ですが、職場に復帰する前から、出勤する前提で就寝・起床し、通勤時間帯に外出するリハビリが大切です。通勤電車に乗ってみたり図書館などに行って一定時間座り続けてみたりする模擬出勤、ウォーキングなどの有酸素運動や筋肉トレーニングもお勧めです」(坂本氏)

ハローワークの長期療養者就職支援事業も活用を

 がんになったことで仕事に関する価値観が変わったり、治療の影響で体が変化したりしたために、それまで就いていた仕事は退職し、転職を考える人も少なくない。ただし、退職する前に、辞めたことによって失う権利がないかも確認しておこう。加入している健康保険組合によっては、医療費の自己負担を軽減する高額療養費や傷病手当金に付加給付がついている場合があるからだ。

 がん患者などの転職・就職支援のために、厚生労働省は、13年から「長期療養者就職支援事業」を実施している。全国47都道府県のハローワークに、専門相談員である就職支援ナビゲーターを配置し、がん診療連携拠点病院などと連携して長期療養者の希望や治療状況等を踏まえた職業相談、職業紹介を行っているのだ。ハローワークでは、長期療養者の希望する労働条件に応じた求人の開拓、求人条件の緩和を事業者に指導するとともに、治療と両立できる求人の確保、就職後の職場定着支援なども行っている。

 新型コロナ禍で派遣が中断している病院もあるが、ハローワークの専門相談員が、がん診療連携拠点病院の相談支援センターで定期的に出張相談も実施している。同事業を活用した19年度の就職率は、58.2%だ。

 「国立がん研究センター東病院では、この事業を利用して職業紹介を受けた患者さんの多くが再就職を実現しています。この制度を利用するかといって、必ずしも就職希望先に病気のことを公表しなければならないということではありませんし、具体的に就職活動に結びつけなければならないわけではありません。まずは、自分の希望や体の状況に合った求人がありそうなのか知りたいというところから利用していただいて構いません。その後、病気のことを就職の際に伝えるか、伝えない場合は前職の退職理由をどのように説明するかなど、就職に向けて一つずつ先に進むお手伝いをさせていただいています」と坂本氏。この事業を実施しているハローワークとがん診療連携拠点病院は、厚生労働省のサイトで閲覧できる。

 治療によって体の状態が変化したときには、障害年金を受給できる場合がある。詳しくは、「現役世代が、がんでも受給できる可能性がある『障害年金』」を参照いただきたい。

 治療と仕事の両立を考える際には、厚生労働省のサイトにある『仕事とがん治療の両立 お役立ちノート』も参考になる。坂本氏も参加していた、厚生労働省の「働くがん患者の就労継続および職場復帰に資する研究」班が作成したものだ。

 さらに、国立がん研究センターがん情報サービス「がんと仕事のQ&A第2版」には、体験者の声も紹介されていて参考になる。

 仕事は収入を得るだけではなく、生きがいにもなる。職場の制度やがん患者への支援などを活用し、できる限り、治療と仕事を両立したい。


がんに負けないお金の話

Vol.1  がん患者の「医療費控除」で少しでも多く税金を取り戻すには

Vol.2  がん治療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」フル活用術

Vol.3  該当するなら活用したい 高額介護合算療養費、傷病手当金、ひとり親家庭等医療費助成、ウィッグ・胸部補正具助成

Vol.4  徐々に増える小児・AYA世代のがん患者への助成

Vol.5  もしものときのために知っておきたい「介護保険」活用術

Vol.6  現役世代が、がんでも受給できる可能性がある「障害年金」

Vol.7  医療費がかさみ、生活費や教育費の工面に困ったときの対処法

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