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レポート

2020/06/16

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)のがん患者のリスク低減手術が保険適用に

福島安紀=医療ライター

がん未発症の人のリスク低減手術は保険適用外

 BRCA遺伝子検査、リスク低減手術や乳房造影MRIなどの保険適用は、すでに乳がんか卵巣・卵管がんになっている人が対象だ。BRCA1/2遺伝子変異を受け継いでいる確率は、両親・きょうだいなどの第1度近親者のBRCA変異が確認されている場合には50%、祖父母・おじ・おばの変異が確認されている場合には25%だが、がんを発症していない人がHBOCと診断されてリスク低減手術や検診を受ける場合には健康保険が使えず自費診療になる。

 「例えば、卵巣・卵管の予防切除はこれまで通り100万円程度かかります。HBOCの人のがん発症リスクを減らし生命予後を改善できることが分かっているわけですから、今後は未発症のHBOCの人も、当事者の意向が確認できれば、保険診療で検診やリスク低減手術を受けられるようにしていく必要があるのではないでしょうか」と新井氏は強調する。

 一方、遺伝性のがんはHBOCだけではない。大腸がん、子宮体がん、腎盂がん、胃がんなどを発症しやすいリンチ症候群は、HBOCと同じくらい頻度の高い遺伝性腫瘍とみられている。また、乳がんの遺伝要因にはHBOCのほかに、骨軟部肉腫や脳腫瘍を発症しやすいリ・フラウメニ症候群などもある。まだ自費診療だが、複数の遺伝子異常の有無を一度に調べられる次世代シークエンサー(NGS)を使って、遺伝性のがんと関連のある遺伝子異常の有無を網羅的に調べる「遺伝性腫瘍パネル検査」を受けられる病院も増えてきている。

 昨年、標準治療が終わったがんの患者を対象に保険適用になった、「オンコガイド(OncoGuide) NCCオンコパネル」と「ファンデーションワン(FoundationOne) CDxがんゲノムプロファイル」という「遺伝子パネル検査」は、手術や生検で採取したがんの組織を用いて、効果が期待できるがんの治療薬を探すために行う。一方で、遺伝性腫瘍のパネル検査は、血液を用いてがんの遺伝的な素因がないか遺伝性腫瘍の診断のための検査だ。遺伝性腫瘍のパネル検査の費用は、検査の種類と医療機関によって金額は変わるが、30万~40万円前後という。BRCA遺伝子検査だけは他の遺伝性乳がん、卵巣がんの原因遺伝子までは検査できず、乳がん、卵巣がんを発症していても思いがけない遺伝性腫瘍がある場合もある。

 BRCA遺伝子検査も同様だが、遺伝性腫瘍の遺伝子検査を受ける場合には、できるだけ、すでにがんを発症している人が受けたほうが家族全体のメリットは大きい。未発症の人に遺伝性腫瘍に関連する遺伝子が見つからなかったとしても、他の家族にも遺伝子変異がないとは言い切れないからだ。
 
がん家系が心配な人は遺伝カウセリング活用を

 「遺伝性腫瘍のパネル検査でリンチ症候群だと診断された人の約2割は、乳がんか卵巣がんしか発症していなかったとの報告もあります。乳がんか卵巣がんだからといって、HBOCとは限らないわけです。米国では、BRCA1/2遺伝子のみ調べられる検査よりも、上記の遺伝性腫瘍のパネル検査を受ける人のほうが多くなっています。BRCA1/2が陰性でも、例えば家族に乳がんが多い場合には、ほかの遺伝性腫瘍である可能性があり、遺伝性パネル検査を受ければ、原因遺伝子が特定できる可能性もあります」と新井氏は指摘する。

 遺伝性腫瘍に関する検査を受ける際には、同じ遺伝子変異を受け継いでいる家族にも影響する問題であり、遺伝カウセリングを受けることが重要だ。遺伝カウンセリングを受けられる病院は、全国遺伝子医療部門連絡会議の「遺伝子医療実施施設検索システム」(http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)で検索できる。

 「特に、HBOCやリンチ症候群などは、予防や早期発見のための対策が確立されており、遺伝性のがんがない人と同じように人生を全うすることが可能になってきています。がん家系ではないかなど、がんと遺伝に関する心配や不安を抱えている方は、遺伝カウセリングを受診してみることをお勧めします。遺伝カウンセリングを受けた結果、遺伝子検査を受けて遺伝子の変異が分かれば、健康管理の第一歩として、その対策を医療者と一緒に前向きに検討できるメリットは大きいと思います。家族や婚約者などにどう伝えるかなど遺伝に関するいろいろな不安や悩みも一緒に考えていきたいと思いますので、遺伝カウセリングを活用してください」と新井氏。

 転移・再発乳がんでは、化学療法歴のあるHER2陰性HBOCの人にPARP阻害薬のオリパラブ、リンチ症候群と関連のあるマイクロサテライト不安定性(MSI)検査陽性(MSI-High)の人には転移・再発治療薬として免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブが選択肢になるなど、遺伝性腫瘍かどうかは個別化治療にも直結する。

 がんを発症しやすい遺伝子変異を持つことが生命保険の加入や就職などに悪影響を与えないような法整備は必要だが、今回のHBOCのがん患者に対するリスク低減手術などの保険適用は、予防治療の一部を保険診療で行う前向きな第一歩ととらえるべきなのかもしれない。

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