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レポート

2020/06/16

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)のがん患者のリスク低減手術が保険適用に

福島安紀=医療ライター

 がんには、環境だけではなく遺伝が要因になっているものがある。その中で最も有名なのが、遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer: HBOC)だ。ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリー氏が、HBOCであることを公表し、乳房と卵巣・卵管の予防切除(リスク低減手術)を受けたことで注目を集めた。最近では、料理家の栗原友氏が、検査でHBOCであることが判明したため、乳がん手術の際、健康な側の乳房の予防切除を受けたことを公表している。

 この予防切除には、これまで健康保険が使えなかったが、すでに乳がんか卵巣・卵管がんになっているHBOCの患者が受ける場合には、今年4月から保険が適用されるようになった。ゲノム医療の「がん遺伝子パネル検査」で、思いがけずHBOCが見つかる人もいる。HBOCとは何なのか、予防切除の必要性や早期発見法の選択肢などについて、順天堂大学医学部附属順天堂医院で遺伝外来を担当する、同院ゲノム診療センター先任准教授の新井正美氏に聞いた。


乳がん患者などが受けるリスク低減手術の自己負担は大幅に軽減

 今回、健康保険を使って受けられるようになったのは、まず、すでに乳がんか卵巣がんを発症している人でHBOCと診断された人が、まだ病気になっていない乳房や卵巣・卵管を、がんを予防する目的で切除する「リスク低減手術」だ。

 「例えば、乳がんでHBOCの患者が、遺伝カウンセリングを受けたうえで、健康な側の乳房も予防切除したり、卵巣がんの発症を防ぐために卵巣・卵管の予防切除を受けたりする場合などに健康保険が適用されます。卵巣がんでHBOCと診断され、その治療が落ち着いた段階で、乳房の予防切除を受ける場合も同様です。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実際には4月からリスク低減手術を実施している病院はまだ少ないと思いますが、秋ぐらいから徐々に増えるのではないかとみられます」と新井氏は解説する。

 リスク低減手術は、がんの手術と同時に受けることも可能だ。これまで、リスク低減手術は自費診療で100万円程度だったが、保険適用になってその自己負担は大幅に軽減される。高額療養費制度を使えば、手術を受けた月の自己負担は一般所得の人で9万~10万円程度になる。保険適用は、患者が遺伝カウセリングを受けたうえで予防切除を希望し、臨床遺伝学に関わる専門的な知識及び技能を有する医師、乳腺外科医、または産婦人科医が参加するカンファレンスで治療方針の決定をすることが条件だ。

HBOCの診断に必要なBRCA遺伝子検査も保険適用に
 
 そもそもHBOCと診断するためには、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子に変異があるかをみる遺伝子検査が必要になる。血液検査でBRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子の異常の有無をみる検査だ。下記の表のような条件を満たす乳がんや卵巣がんなどの患者がHBOCの診断のために受ける場合には健康保険が使えるようになった。

 「HBOCは、DNAが傷ついたときに正常に修復する働きのあるBRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子のどちらかに変異がある遺伝性のがんの一種です。HBOCの人は、生まれつきBRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子に傷がついているので、変異のない人より若い年代で、女性の場合は乳がん、卵巣・卵管がん、男性の場合は前立腺がんや男性乳がんなどを発症しやすくなります。両方の乳房にがんを発症したり、乳がんと卵巣がんなど2種類以上のがんを経験したりすることもあるので、その予防の選択肢の1つとして、まだ病気になっていない卵巣・卵管を切除するなどのリスク低減手術の検討が勧められるのです」と新井氏は話す。

 HBOCである可能性がある人として、「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き2017年版(2020年一部改訂)」では、表のいずれかに該当する場合が挙げられている。自分や家族の中に、45歳以下で乳がん、年齢を問わず卵巣・卵管・腹膜がん、男性乳がん、60歳以下でトリプルネガティブ乳がんを発症した人や、血縁者に自分以外にも乳がんや卵巣がんになった人がいる場合にもHBOCであるリスクがある。

特に推奨度が高いのは卵巣・卵管の予防切除

 国立がん研究センターの「最新がん統計」によると、2016年に乳がんと診断された人は約9万5000人、卵巣がんは約1万3000人だ。そのうち、生まれつきBRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子に変異があるHBOCの人は、日本人の乳がん患者の約5%、卵巣がんの15~20%と推計されている。つまり、乳がん患者のうち約4800人、卵巣がん患者のうち1950~2600人は、HBOCである可能性がある。

 日本人女性が一生涯に乳がんになる確率は9%だが、BRCA1遺伝子に変異がある場合には46~87%、BRCA2遺伝子変異では38~84%と高率だ。卵巣がんの生涯罹患率は一般的には1%だが、BRCA1遺伝子変異があると39~63%、BRCA2遺伝子変異があると16.5~27%になる。

 では、リスク低減手術が勧められるのは、どういう場合なのか。「特に、勧められるのは、卵巣・卵管がんをまだ発症していないHBOCの方に対する卵巣・卵管がんのリスク低減手術です。卵巣・卵管がんは進行が早く早期発見が難しいため、半年に1回、経腟超音波検査と腫瘍マーカー検査を実施していたとしても、進行がんで見つかることが少なくありません。HBOCと分かったときから半年に1回は経腟超音波検査を受け、挙児希望の方はお子さんを生み終えた後、40歳前後以降に、卵巣・卵管の予防切除を受けるかどうか検討することが推奨されます」

 そう話す新井氏によると、日本HBOCコンソーシアム(現在は日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構に移行)に症例登録されたデータでは、HBOCと診断された人の約3割が卵巣・卵管の予防切除を受けており、その平均年齢は47~48歳という。自費診療が高額であるためにリスク低減手術を躊躇していた患者にとっては、今回の保険適用は朗報といえそうだ。

すでにがんを発症している人の乳房造影MRI検診も保険診療に

 HBOCの人の乳がん対策に関しては、25歳以上の人に年に1回の乳房造影MRI検査が推奨される。HBOCの人、とりわけ20代~30代に関しては、一般的な乳がん検診に用いられるマンモグラフィ検査では、病変発見率が落ちるからだ。乳がんか卵巣がんを発症していてHBOCと診断された人に対しては、この乳房造影MRI検査に関しても、4月から健康保険が使えるようになった。乳がんのリスクを下げるために、発症前に健康な乳房を切除するリスク低減手術も選択肢になる。なお、未発症の人に関しては従来、予防のためにタモキシフェンを服用することも選択肢とされていたが、「HBOC診療の手引き」では、「化学予防を行う十分な根拠がないため推奨されない」としている。

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