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レポート

2020/06/09

日本の子宮頸がん検診で考えるHPV検査の位置づけVol.2

HPV検査を用いた子宮頸がん検診を現実社会に導入する際の課題とは?

森下紀代美=医学ライター

 日本の子宮頸がん検診は、各自治体が行う対策型検診として行われ、現在の検診方法は「細胞診」である。細胞診は、子宮頸部の細胞を採取し、標本を作り、顕微鏡で異常細胞の有無を判定する方法で、子宮頸がんの死亡率を低下させることが科学的に証明されている。

 一方、海外から、より感度が高いとされるヒトパピローマウイルス(HPV)検査を用いた検診の有効性が示されている。HPV検査では、子宮頸部の細胞を採取し、高リスクとされる13-14種類のHPVを中心に、ウイルスのDNAの有無を調べる。日本でも対策型検診にHPV検査を導入することが検討されているが、海外と同様の効果が得られるかどうかは不明で、他にも検討が必要な課題は多い。

 4月23日から28日までWEBで開催された第72回日本産科婦人科学会学術講演会の「子宮頸がん検診事業を考えるワークショップ~HPV検査のがん検診手法としての位置づけ~」では、HPV検査を子宮頸がん検診事業に実際に導入する際のさまざまな課題について、エキスパートが講演した。その様子を2回にわたって紹介する。

 2回目は、HPV検査を用いた子宮頸がん検診のエビデンスについて。国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部部長の中山富雄氏が講演した。


主な指標は「子宮頸がん罹患の減少」

 国立がん研究センターでは「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」の更新版を作成しており、2018年末にはドラフト版を提示した。中山氏によると、寄せられたパブリックコメントに応じてドラフト版の大幅な更新を行い、推奨も変更され、公開の準備はすでに終了している。ただし、新型コロナウイルス感染症対策の混乱時期であることを配慮し、公開は控えている状況であるという。

 中山氏は「ガイドライン=国の推奨ではなく、ガイドラインが出たらすぐに検診のやり方が変わるものではない」と話した。厚生労働省には「がん検診のあり方に関する検討会」があり、そこで審議、承認が行われ、健康局長通達の指針の形で承認されて、初めて各自治体の検診が変わることになる。

 今回の講演で中山氏は、エビデンスの整理という観点から、HPV検査を用いた子宮頸がん検診について解説した。

 がん検診における有効性評価の一般的なアウトカムは、当該がんの死亡率減少効果である。しかし、子宮頸がんの年齢調整死亡率は10万人あたり約2.0人(有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン 2009年版、国立がん研究センター)と少ないため、研究として示すことは現実的ではない。

 そこで使用されているのが、欧州の子宮頸がん検診の精度管理ガイドライン(European guidelines for quality assurance in cervical cancer screening2nd edition、2010年)のアウトカムの序列である。アウトカムの指標として最も信頼性が高いのは「子宮頸がん死亡率の減少」で、「子宮頸がん罹患(IB期以上の罹患)の減少」、「子宮頸がん罹患(微小浸潤がんを含む)の減少」が続く。国立がん研究センターのガイドラインでは、序列の3番目の「子宮頸がん罹患(微小浸潤がんを含む)の減少」を主なアウトカムの指標として評価している。

HPV検査の有効性を示したイタリアの研究

 HPV検査を用いた検診の効果として広く知られているのは、イタリアで行われたNTCC(New Technologies for Cervical Cancer screening)研究の結果である。

 この研究では、25-60歳の健康な女性を対象とした検診で、細胞診(従来法)を受ける群(細胞診群)またはHPV検査を受ける群(HPV検査群)に、受診者はランダムに割り付けられた。HPV検査群では、高リスクとされる13種類のHPVのDNA検査が行われた。

 研究では2つのフェーズが設定され、各フェーズで検診は3年毎に2回行われた。細胞診群では、フェーズ1、2ともに細胞診(従来法)が行われた。一方、HPV検査群では、フェーズ1ではHPV検査と細胞診(LBC法)を併用し、HPV検査陽性で35-60歳の女性では組織診断のためのコルポスコピー診が全例に直ちに行われ、HPV検査陽性で25-34歳の女性では、細胞診で異常を認めるか、HPV検査陽性が持続する場合にのみコルポスコピー診が行われた。フェーズ2ではHPV検査単独法とし、HPV検査陽性者全例に直ちにコルポスコピー診が行われた。研究の主要評価項目は、1回目と2回目の検診におけるCIN2(中等度異形成)、CIN3(高度異形成・上皮内がん)、浸潤がんの検出率だった(Guglielmo Ronco, et al. Lancet Oncol 2010;11:249-57)。

 細胞診群4万7001人、HPV検査群4万7369人となり、細胞診群ではフェーズ1が2万2466人、フェーズ2が2万4535人、HPV検査群ではそれぞれ2万2708人と2万4661人となった。細胞診群の3万3851人、HPV検査群の3万2998人が2回の検診を受けた。

 解析の結果、浸潤がんが検出されたのは、1回目の検診では細胞診群9人、HPV検査群7人となり、差はなかった(p=0.62)。しかし、2回目の検診では、細胞診群の9人に対し、HPV検査群では0人だった(p=0.004)。35-60歳の女性の2回目の検診でも、細胞診群では7人に検出されたのに対し、HPV検査群では検出されなかった(p=0.016)。

 中山氏は「35-60歳の2回目の検診では、HPV検査群で浸潤がんが1人も発生しないというインパクトのある成績となった。NTCC研究と他の欧州のランダム化比較試験(RCT)3件を用いたメタアナリシス(Guglielmo Ronco, et al. Lancet 2014;383:524-32)でも、統計学的に有意な結果となったことから、HPV検査が細胞診よりも有効と考える医師は多いだろう」と説明した。

*従来法:直接塗抹法。専用の器具で細胞を採取し、スライドガラスに塗り付けて固定・染色して、標本にする方法。
†LBC(Liquid Base Cytology)法:液状検査法。採取した細胞を専用の保存液に回収して保存した後、標本にする方法。

浸潤がん罹患の減少効果はHPV検査で良好、ただし細胞診を上回る強い証拠は得られず

 これまでに最終結果が報告されたRCTは、NTCC研究を含め、先進国から6件報告されている。ただし、主要評価項目、フォローアップ期間、検診間隔などはさまざまで、HPV検査の方法も、高リスクとされる13種類のHPVを調べる液相ハイブリダイゼーション法のハイブリッドキャプチャー2(HC2)と、遺伝子増幅法(PCR法)の後に酵素免疫測定法(EIA法)を行う方法とが混在している。プロトコールが異なると結果も自ずと異なるため、メタアナリシスを行うには研究のばらつきを考慮したランダム効果モデルを用いる必要がある。Ronco氏らが行ったメタアナリシス(G. Ronco, et al. Lancet 2014)では、プロトコールが異なるにも関わらず固定効果モデルが用いられており、研究のばらつきが考慮されていない。

 中山氏らはこれら6件のRCTを用いてメタアナリシスを行い、その結果を示した。主解析と感度分析で計5つのランダム効果モデルを用いて結果を算出すると、浸潤がん罹患の減少効果は、ハザード比からHPV検査のほうが細胞診よりも良好であることが示された。ただし、信頼区間はどの解析でも1を超え、細胞診を上回ることを示す強い証拠とはならず、弱い証拠にとどまった。その理由として、サンプルサイズやフォローアップ期間の不足が考えられた。

 また、代替指標としてのCIN3(高度異形成・上皮内がん)以上(CIN3+)の検出率でも、HPV検査単独法と細胞診、細胞診・HPV検査併用法と細胞診、HPV検査単独法+細胞診・HPV検査併用法と細胞診の間に明らかな差はなかった。目立ったのは、NTCC研究のフェーズ1における浸潤がん罹患減少効果が特に大きいことだった。

 NTCC研究と他のRCTと何が違うのか。NTCC研究と欧州の他のRCT3件を用いたメタアナリシスを見ると、HPV検査陽性者に対し、NTCC研究では全例にコルポスコピー診が行われたのに対し、他のRCTでは細胞診トリアージを行い、細胞診陽性者のみにコルポスコピー診が行われていた(G. Ronco, et al. Lancet 2014)。中山氏は「HPV感染症自体は女性のほとんどが感染するありふれた感染症であり、HPV検査陽性全例にコルポスコピー診を行うことは実験的な試みで、効果を最大化させた要因であるが、現実的ではない」と考察した。

 中山氏は、HPV検査と細胞診の感度と特異度についても説明した。CIN2+病変に対する感度は、細胞診・HPV検査併用法では細胞診単独法よりも25-35%高くなるが、特異度は4.5-10%低下する。細胞診・HPV検査併用法の感度は高いため、見落としはほぼなくなるが、HPVには感染しているがCIN2+には進展しない偽陽性が10万人あたり1万人増加し、HPV検査単独法でも4400人増加することになる。このような偽陽性は受診者にとっては不利益となり、増加した要精検者の受け皿をどうするかが医療者側にとっても問題になる。

 このようにCIN2+病変では細胞診とHPV検査で検出力の差が大きいが、治療対象となるCIN3+病変ではその差は小さくなる。HPV検査は早期または発がん前の段階まで広くカバーできるが、「そこから進展していく病変を適切に管理していくことが、HPV検査を用いた検診の成功のカギと考える」と中山氏は話した。

 また検診間隔については、細胞診とHPV検査で陰性となった後の累積CIN3+罹患率が報告されたコホート研究(Cosette Wheeler, et al. Int J Cancer 2014;135:624-34)から、細胞診を2年間隔で良いとした場合、HPV検査は5年間隔が推奨される。

導入への課題は国内統一版のアルゴリズムの作成と普及、フォローアップ体制の整備

 最後に中山氏は、HPV検査を用いた検診を現実社会に導入するにあたっての課題を挙げた。1つは、HPV検査陽性者に対する診断アルゴリズムの標準化である。

 子宮頸がん検診の対象の中心となる30歳代の女性は転居率が高く、県内他市町村または他県への転居率は、30-34歳で約3割、35-39歳で約2割となる(平成27年国税調査 移動人口の男女・年齢等集計結果)。中山氏は「地域や医療機関によって診断アルゴリズムが異なることは適切ではなく、混乱のもととなる。国内統一版のアルゴリズムの作成が必須」と指摘した。

 もう1つの課題は、HPV検査陽性者が長期のフォローアップをきちんと受け、診断までたどり着いてくれるかという点である。

 中山氏は、欧州のRCTの1つで、細胞診と細胞診・HPV検査併用法を比較したオランダのPOBASCAM試験から、細胞診・HPV検査併用法を用いた検診の検査結果毎の人数とCIN3+病変の発見数をもとに、フォローアップ順守率の変動により、感度がどの程度変動するかを仮想的に計算した複数のシナリオを示した。

 POBASCAM試験では検診を受けた人の100%近くがフォローアップを順守し、診断に結びつけているが、現実社会ではこれだけ高いフォローアップ順守率の確保は難しい。シナリオのうち、細胞診・HPV検査併用法で得られた各検査結果について、70%の人しかフォローアップを受診しないとするシナリオでは、がんを発見する感度も約70%となる。検診でなにがしかの異常ありというカテゴリーの中で、細胞診で正常細胞(NILM)、HPV検査陽性という判定結果が最も大きな人数を占め、かつ診断までに年数がかかる。この集団が全くフォローアップされていないとするシナリオでは、感度は56.1%まで低下してしまう。こうした状況では、感度での細胞診に対するHPV検査の優位性が損なわれ、細胞診単独法より悪くなる可能性もある。

 HPV検査を用いた検診の最大のメリットは、検診間隔を開大できることと考えられる。中山氏は「NTCC研究のような実験的な環境では、HPV検査は細胞診を上回る効果を示す可能性があるが、現実社会の環境で十分なフォローアップができない場合は細胞診を下回る可能性もある。現実社会で用いるとすれば、国内統一版のアルゴリズムの作成と普及、フォローアップ体制の整備が必須と考える」と結んだ。


日本の子宮頸がん検診で考えるHPV検査の位置づけVol.1
細胞診とHPV検査を併用する検診で病変発見率はどう変わるか

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