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レポート

2020/06/02

日本の子宮頸がん検診で考えるHPV検査の位置づけVol.1

細胞診とHPV検査を併用する検診で病変発見率はどう変わるか

森下紀代美=医学ライター

 日本の子宮頸がん検診は、各自治体が行う対策型検診として行われ、現在の検診方法は「細胞診」である。細胞診は、子宮頸部の細胞を採取し、標本を作り、顕微鏡で異常細胞の有無を判定する方法で、子宮頸がんの死亡率を低下させることが科学的に証明されている。

 一方、海外から、より感度が高いとされるヒトパピローマウイルス(HPV)検査を用いた検診の有効性が示されている。HPV検査では、子宮頸部の細胞を採取し、高リスクとされる13-14種類のHPVを中心に、ウイルスのDNAの有無を調べる。日本でも対策型検診にHPV検査を導入することが検討されているが、海外と同様の効果が得られるかどうかは不明で、他にも検討が必要な課題は多い。

 4月23日から28日までWEBで開催された第72回日本産科婦人科学会学術講演会の「子宮頸がん検診事業を考えるワークショップ~HPV検査のがん検診手法としての位置づけ~」では、HPV検査を子宮頸がん検診事業に実際に導入する際のさまざまな課題について、エキスパートが講演した。その様子を2回にわたって紹介する。

 1回目は、細胞診とHPV検査を併用する検診(HPV検査併用検診)を導入した自治体の現状について。鳥取大学医学部附属病院婦人科腫瘍科長の大石徹郎氏が講演した。


日本の実状に合った検診法の模索が必要

 子宮頸がん検診にHPV検査を導入すべきかどうか、数年にわたって議論が続けられている。しかし、海外と同様に日本でも有用であるかどうか、結論は得られていない。

 海外のガイドラインでは、子宮頸がん検診の推奨として、米国(米国がん協会[ACS]、米国予防医学専門委員会[USPSTF])では細胞診・HPV検査併用法(細胞診単独法の選択肢もある)、欧州ではHPV検査単独法が記載されている。USPSTFのガイドラインは2018年に改訂され、細胞診・HPV検査併用法に加え、HPV検査単独法が並記された。

 大石氏は「検診、特に対策型検診では、その国の社会制度や医療システムにより結果が異なってしまうため、抗がん剤や分子標的治療薬のように臨床試験の結果1つでがんの治療が大きく変わるといった簡単な話ではない。検診受診率もワクチン接種率も低い日本の実状に合った、より良い検診法を模索する必要がある」と話した。

 日本の「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン 2009年版」(国立がん研究センター作成)では、細胞診(従来法、液状検体法)の推奨グレードはB、「子宮頸がん死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、細胞診による子宮頸がん検診を実施することを勧める」とされている。一方、HPV検査(HPV検査単独法、細胞診・HPV検査併用法)の推奨グレードはI、「子宮頸がん死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない」とされた。

 現在、日本ではガイドラインの改訂作業が進められている。 2018年秋に一時公開されたドラフトでは、細胞診単独法と並び、HPV検査単独法、細胞診・HPV検査併用法がともに推奨グレードBとされたが、精度管理体制の構築、検診結果毎のアルゴリズムの構築とその適切な運用の担保が課題として指摘され、HPV検査を含む検診については条件付きの推奨となっている。不利益の指標として偽陽性率を用いた検討も行われ、細胞診・HPV検査併用法はHPV検査単独法よりも偽陽性が多く、「利益はあるが、不利益は中等度」と評価された。

 またこのドラフトでは、子宮頸がん検診のアウトカム指標として、「子宮頸がん死亡率」「浸潤がん罹患率」が直接的証拠、「検査精度」「検査の不利益」が間接的証拠とされている。細胞診とHPV検査を併用する利点は、以前から、前がん病変(CIN2[中等度異形成]以上)の発見精度の向上と受診間隔の延長とされてきた。発見精度の向上は間接的証拠であり、受診間隔の延長はむしろ検診の不利益の最小化という意味で理解する必要がある。

*従来法:直接塗抹法。専用の器具で細胞を採取し、スライドガラスに塗り付けて固定・染色して、標本にする方法。
†液状検体法:LBC(Liquid Base Cytology)法。採取した細胞を専用の保存液に回収して保存した後、標本にする方法。


HPV検査併用検診を導入した8地域の検診データを集積

 大石氏は「日本の実状に合ったより良い検診を考えるためには、日本国内で行われた研究が必要」と強調した。

 日本のガイドラインに採用されたエビデンスのほとんどは海外の研究によるもので、日本で行われた研究はきわめて少ない。現在、子宮頸がん検診における細胞診単独法と細胞診・HPV検査併用法の有用性を比較する大規模研究が国の検証事業として行われているが、結果が得られるのは数年先となる見込みだ。

 これまでに複数の地域において、自治体独自の取り組みとして細胞診・HPV検査併用法を用いた検診(HPV検査併用検診)が実施され、その成績が個別に発表されつつある。そこで大石氏らは、日本におけるHPV検査併用検診の効果と課題を知るため、北海道、栃木県、千葉県、福井県、鳥取県、島根県、佐賀県、宮崎県の8地域から、細胞診単独法による検診(細胞診単独検診)を比較対照として、細胞診単独検診の実施時とHPV検査併用検診導入後の検診データを集積し、検討することとした。

 今回は横断的な検討のため、直接的証拠の死亡率や浸潤がん罹患率をみることはできず、間接的証拠の検査精度と検査の不利益をみている。検討項目は要精検率とCIN1(軽度異形成)発見率で、これらは検診の不利益の代替指標となると考えられた。さらに、CIN2以上(CIN2+)発見率、CIN3(高度異形成・上皮内がん)以上(CIN3+)発見率、浸潤がん発見率も算出した。

HPV検査併用検診で病変発見率が上昇、検診の不利益を回避する対策も必要

 8地域全体で、細胞診単独検診は18万2697人に行われ、実施時期は2008年から2016年、細胞診の方法はいずれも直接塗抹法であった。一方、HPV検査併用検診は11万5273人に行われ、実施時期は2012年から2017年、細胞診の方法は地域により直接塗抹法とLBC法に分かれ、HPV検査の方法も、高リスクとされる13種類のHPVを一括して調べる液相ハイブリダイゼーション法のハイブリッドキャプチャー2(HC2)と、16型と18型を個別に検出可能でその他12種類のHPVを一括して調べる遺伝子増幅法(PCR法)のコバスが混在していた。

 解析の結果、要精検率は、いずれの地域においても、細胞診単独検診と比べてHPV検査併用検診で高値となった。ただし、要精検率の数値や細胞診単独検診との差は、地域により大きなばらつきがみられた。

 CIN1発見率も同様で、地域による違いが大きく、対象人口の年齢分布の違いなど、要因として考えられる項目を精査する必要性が示唆された。CIN2+発見率、CIN3+発見率でもHPV検査併用検診が高値となったが、CIN1発見率と比べて、細胞診単独検診とHPV検査併用検診の差が縮小する傾向がみられた。

 全地域を合わせると、要精検率は、細胞診単独検診の1.50%に対し、HPV検査併用検診では3.10%と統計学的に有意に高値を示した(p<0.0001)。病変発見率(CIN1、CIN2+、CIN3+)もHPV検査併用検診で有意に高かったが、病変の進行に伴いその差は縮小した。

 浸潤がん発見率は、浸潤がん全体および扁平上皮がんでは、細胞診単独検診とHPV検査併用検診に差はみられず、腺がんのみでHPV検査併用検診の発見率が有意に高かった。

 またHPV検査併用検診では、細胞診単独検診と比べて細胞診異常が高頻度に認められた。LBC法が寄与した可能性が考えられたが、直接塗抹法とLBC法を分けた解析では差はみられなかった。

 これらの成績を年齢階級別に検討すると、CIN1発見率は、すべての年齢階級において、HPV検査併用検診が細胞診単独検診と比べて有意に高値となった。これに対し、CIN2+発見率は25-49歳で、CIN3+発見率は30-49歳で、それぞれHPV検査併用検診が細胞診単独検診と比べて有意に高値だった。

 これらの結果から、大石氏は「HPV検査併用検診では病変発見率が高いことが明らかになり、CIN2+の発見を目的とするのであれば25-49歳、CIN3+であれば30-49歳を対象とすることで、検診の不利益を最小化できる可能性が示唆された」と話した。さらに今後の検討項目として、HPV検査併用検診の有効性を評価するためには「NILM(正常細胞)/HPV陽性例を追跡し、病変の累積罹患率を算出する必要がある」とした。

 最後に大石氏は、HPV検査を用いた検診の課題と対策を挙げた。課題の1つは、たびたび指摘される「不利益の増加」だ。これを最小化するための対策として、対象年齢の工夫(少なくとも20代前半は除外)、HPV16型/18型タイピングによるリスクの層別化、低リスク者の受診間隔延長などが考えられる。

 もう1つの課題は「アルゴリズム」(受診間隔の異なる集団の管理)である。特にHPV検査併用検診では、その複雑さから行政が対応できない可能性が指摘されている。対策として、検診レジストリの整備に加え、「精度管理を担保できる自治体に限定して実施するという条件を課すべきと考える」と大石氏は話した。

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