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レポート

2020/05/05

膵臓・胆管がんのロボット手術Vol.2

ロボットを用いて膵臓の高難度手術での合併症減少を目指す

森下紀代美=医学ライター

 2020年4月、ロボット手術が新たに膵頭十二指腸切除術に保険適用となった。

 内視鏡下手術用支援ロボット(ダヴィンチ)を用いて行う腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術、すなわちロボット支援下内視鏡手術(通称:ロボット手術)は、2018年4月に状況が大きく変化した。すでに保険適用されていた前立腺がんや腎がんに加え、食道がんや胃がんなどの消化器がんや肺がんの手術を含む12術式のロボット手術が保険適用となったのだ。そして今回適用となった膵頭十二指腸切除術は、膵頭部やその周囲に発生した腫瘍に対して行われる根治手術で、消化器疾患の手術の中でも特に難易度が高いとされる。

 膵頭十二指腸切除術にロボット手術が導入された背景と現状、今後の課題などを、2017年2月からロボット支援下膵頭十二指腸切除術に取り組んできた上尾中央総合病院肝胆膵疾患先進治療センター長・消化器外科科長の若林剛氏に聞いた2回目は、この手術で示されたこれまでの成績や今後の課題について。


ロボット手術による膵液漏の減少に期待

 ダヴィンチを用いたロボット手術は、日本では2000年3月に初めて行われた。若林氏が慶應義塾大学病院で行った胆嚢摘出術で、アジアでも初のロボット手術となった。安全性を確認するための臨床試験が行われたが、当時の対象は胆嚢摘出術などで、ロボット手術のメリットが生かされたとは言えず、当時から若林氏は「これは膵頭十二指腸切除術に使うべきだ」と思っていたという。

 膵頭十二指腸切除術では、合併症の「膵液漏」が最も問題となる。膵液漏とは、膵臓の中を通る膵管と空腸を吻合(膵管粘膜空腸吻合)した部分から膵液が漏れる状態のこと。膵液には蛋白質や脂肪を分解する酵素が含まれるため、膵液が漏れると周囲の組織を溶かし、近くにある動脈を溶かして出血を起こすこともあり、命に関わる場合もある。膵液漏は、医師がどんなに慎重に手術を行っても起こりうる合併症で、開腹手術での膵頭十二指腸切除術における発生率は一般的に10%から20%前後とされる。

上尾中央総合病院肝胆膵疾患先進治療センター長・消化器外科科長の若林剛氏

 若林氏がロボット支援下膵頭十二指腸切除術を開始したのは2017年2月。初回の手術は、当時米国で最も多くこの手術を行っていたシカゴ大学のジュリアノッティ教授を招いて行われた。保険適用となる前のロボット支援下膵頭十二指腸切除術は、日本では各施設の倫理委員会で承認を得て、臨床試験、自由診療の形で行われ、若林氏らの施設でも自費診療として、150万円の負担があっても希望する患者にこの手術を行ってきた。

 これまでに若林氏は、20例の患者にロボット支援下膵頭十二指腸切除術を行っている。手術の対象には、ロボット手術のメリットを生かし、膵液漏を減らすことができると考えられる症例を選んでいる。膵管が拡張しておらずに細く、膵臓が軟らかい、胆管がんや十二指腸がんなどの患者だ。このような患者では、膵管粘膜空腸吻合がより難しく、膵液漏を起こしやすい。一方、膵管が拡張している膵がんの患者には、開腹手術で膵頭十二指腸切除術を行っている。ロボット支援下膵頭十二指腸切除術よりも先に保険適用となっていた腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術は、難易度の高さから膵液漏が懸念されるため、現在は行っていないという。

 その結果、20例のうち膵がんの患者は2例で、大多数は胆管がんの患者だった。膵液漏が発生したのは20例中1例のみで、現時点での発生率は5%となる。

 若林氏は「まだ症例数が少なく、結論することはできないが、開腹手術での膵頭十二指腸切除術よりも膵液漏を減らすことができるのではないか。保険適用下でロボット支援下膵頭十二指腸切除術が行えるようになったことは、患者さんにとって大きなメリットとなると考えている」と話した。

 ただし、膵頭十二指腸切除術をロボット手術で行うと、開腹手術の倍の手術時間がかかる。手術時間は、開腹手術で行うと5、6時間であるのに対し、ロボット手術では8、9時間、長い場合は10時間以上かかることもある。海外の報告から、症例を積み重ねていくことで手術時間は短縮できると考えられている。

手術の保険適用には安全性と普及性が必要

 ロボット支援下膵頭十二指腸切除術は、日本肝胆膵外科学会の提案を受け、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)を通して厚生労働省に要望が出され、医療技術として評価された結果、保険適用が認められた。

 手術などの医療技術に保険が適用されるのは、安全性と普及性が認められた場合である。今回の保険適用の申請でも、安全性を確認するため、国内の5施設(藤田医科大学、上尾中央総合病院、東京医科大学、九州大学、佐賀大学)で行われたロボット支援下膵頭十二指腸切除術50例の解析が行われた。比較のため、膵臓内視鏡外科研究会、日本肝胆膵外科学会、日本内視鏡外科学会が行っているレジストリシステムから、腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術216例の解析も行われた。

 解析の結果、ロボット支援下膵頭十二指腸切除術は、腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術と比べて、手術時間は延長するが、手術中に開腹手術に移行する割合が低く、合併症の発生率、特に膵液漏の発生率には差がないことがわかった。

 これらの結果から、ロボット支援下膵頭十二指腸切除術は安全に行われていると判断され、また5施設で行われていることから普及性もあると認められ、保険適用につながった。

 ロボット支援下膵頭十二指腸切除術を安全に普及させるため、日本肝胆膵外科学会と日本内視鏡外科学会が導入時の指針を提示している。手術を行う術者の条件には、「常勤の日本肝胆膵外科学会高度技能専門・指導医および日本内視鏡外科学会技術認定取得者の指導下でこの手術を行うこと」「開腹、腹腔鏡下、ロボット支援下にかかわらず、膵頭十二指腸切除術20例以上の術者としての経験を有していること」「腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(再建は含まず)5例以上の経験(うち3例以上が術者)を有すること」などが含まれている。

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