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レポート

2020/04/21

膵臓・胆管がんのロボット手術Vol.1

膵臓の高難度手術にもロボット手術が保険で可能に

森下紀代美=医学ライター

 2020年4月、ロボット手術が新たに膵頭十二指腸切除術に保険適用となった。

 内視鏡下手術用支援ロボット(ダヴィンチ)を用いて行う腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術、すなわちロボット支援下内視鏡手術(通称:ロボット手術)は、2018年4月に状況が大きく変化した。すでに保険適用されていた前立腺がんや腎がんに加え、食道がんや胃がんなどの消化器がんや肺がんの手術を含む12術式のロボット手術が保険適用となったのだ。そして今回適用となった膵頭十二指腸切除術は、膵頭部やその周囲に発生した腫瘍に対して行われる根治手術で、消化器疾患の手術の中でも特に難易度が高いとされる。

 膵頭十二指腸切除術にロボット手術が導入された背景と現状、今後の課題などを、2017年2月からロボット支援下膵頭十二指腸切除術に取り組んできた上尾中央総合病院肝胆膵疾患先進治療センター長・消化器外科科長の若林剛氏に聞いた1回目は、この手術の特徴と保険適用となった背景について。


消化器の手術の中でも高難度の膵頭十二指腸切除術

 膵頭十二指腸切除術の対象となる疾患には、膵頭部がん、胆管がん、十二指腸がんなどの悪性腫瘍、膵頭部の膵管内乳頭部粘液性腫瘍などの低悪性度の腫瘍、良性腫瘍が含まれる。

 膵臓は、膵頭部、膵体部、膵尾部からなる。膵頭部は胆管や十二指腸とつながっているため、膵頭十二指腸切除術では膵頭部だけでなく、胆管、胆嚢、十二指腸、胃と空腸の一部も切除しなければならない。さらに悪性腫瘍では、周囲のリンパ節を切除するとともに、血管も一緒に切除する場合がある。切り離した臓器はつなぎ合わせる(再建)必要があり、膵臓と空腸、胆管と空腸、胃と空腸をそれぞれ縫い合わせる(吻合)。

 このように膵頭十二指腸切除術は切除範囲が大きく複雑な手術で、消化器疾患の手術の中でも難易度が高いとされる。合併症の発生も少なくなく、重大な合併症の1つが、膵臓の中を通る膵管と空腸を吻合(膵管粘膜空腸吻合)した部分から膵液が漏れる「膵液漏」だ。膵液には蛋白質や脂肪を分解する酵素が含まれるため、膵液が漏れると周囲の組織を溶かし、近くにある動脈を溶かして出血を起こすこともあり、命に関わる場合もある。膵液漏は、外科医がどんなに慎重に丁寧に吻合しても起こりうる合併症で、開腹手術での膵頭十二指腸切除術における発生率は、一般的に10%から20%前後とされる。

 また膵がんでは膵管が拡張することが多いが、胆管がんや十二指腸がんでは膵管は拡張しないことが多く、その直径は約3mmと細いうえ、膵臓も軟らかいため、膵管粘膜空腸吻合の難易度はより高まる。

ロボット手術でより精度の高い手術が可能に

 膵臓の腫瘍にロボット手術が導入される以前は、腹腔鏡下手術が保険適用となっていた。腹腔鏡下手術は、開腹手術と比べて傷口が小さく、術後の痛みが少ない、術後早期に歩行可能となるため合併症のリスクが低下する、術後の入院期間が短縮するなど、多くのメリットがある。一方で、使用する手術機器に柔軟性がなく、動きが直線的であるなどのデメリットもあり、腹腔鏡下手術には高い技術力が必要になる。若林氏は腹腔鏡下手術のエキスパートだが、それでも腹腔鏡下手術による膵頭十二指腸切除術(腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術)で膵液漏が発生した例を経験しており、「腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術は難しい」と話す。

 ダヴィンチを用いて行うロボット手術は、患者の腹部に数カ所の小さな孔を開け、そこから内視鏡カメラや鉗子などの手術器具を入れるところまでは従来の腹腔鏡下手術と同じだが、通常の腹腔鏡の鉗子が5自由度(関節が5個)であるのに対し、ダヴィンチの鉗子は7自由度と可動範囲が大きく、540度まで回転させることができる。そのため、腹腔内のような狭い空間でも、腹腔鏡下手術よりも繊細で正確な動きができる。

 ダヴィンチには、人間の手の動きを縮小するモーションスケーリング機能もある。例えば3対1で設定した場合、手術を行う医師(術者)の手が3cm動くと、鉗子は1cm動く。人間の手の震えを防止する機能も備えている。またダヴィンチでは、高画質の3次元立体画像を見ながら手術をすることができ、カメラで視野を5~15倍まで拡大することが可能だ。

 このような特徴から、若林氏は「ロボット手術の導入で、より安全に、より精密に膵頭十二指腸切除術を行うことができ、膵液漏を減らすことができるのではないか」と考え、2017年2月からこの手術を行ってきた。保険適用となる前のロボット支援下膵頭十二指腸切除術は、日本では各施設で倫理委員会の承認を得て、臨床試験、自由診療の形で行われてきた。

 ダヴィンチを用いたロボット手術では、術者は患者がいる手術台から数メートル離れた「サージョンコンソール」(写真1)で画像を見ながら操作する。術者の手の動きは、サージョンコンソールから、患者の腹腔内に入れる手術器具が装着された「ペイシェントカート」のアームと呼ばれる部分を通して伝わり、手術台の近くにいる助手がモニター画面で術者と同じ画像を見ながらサポートする(写真2)。

写真1 サージョンコンソールと術者(提供:若林氏)

写真2 ペイシェントカート(提供:若林氏)

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