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レポート

2020/03/31

CancerX Summit 2020より

AIの活用で患者にも企業にも恩恵のある持続的なプレシジョン医療に

福原麻希=医療ジャーナリスト

 がん領域におけるプレシジョン医療を実践するための「がん遺伝子パネル検査」が2019年6月に公的医療保険の適用になった。「プレシジョン医療」とは、患者のがんの遺伝子変異を調べることで、一人ひとりに適切な治療法を選択・提供することを目指す。個別化医療、オーダーメード医療とも呼ばれる。
 一般社団法人CancerXが2月に東京で開催したCancerX Summit 2020では、「Cancer×AI」と題したセッションで、プレシジョン医療にAIがどのように活用されていくのかを議論した。



 大阪ガスに勤務し、働く世代のがんサバイバーが運営する「ダカラコソクリエイト」の発起人でもある谷島雄一郎氏は、2012年に胃や小腸など消化管の壁に肉腫ができる希少がん、GIST(消化管間質腫瘍)と診断された。4回の手術、3回のラジオ波焼灼療法、治験も含めて4種類の抗がん薬治療を受けた。がん遺伝子パネル検査も、2016年と2019年の2回受けたことがある。
 
 1回目は国立がん研究センターが立ち上げた臨床試験「TOP-GEARプロジェクト」への参加だった。「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」が保険承認される基礎となった試験だ。谷島氏が参加したきっかけは、2015年にオバマ大統領(当時)の「これからプレシジョンメディシンを推進する」という演説を聞いたことだった。「僕のGISTは治療が難しいため、治療法のカードを用意しておきたい」と谷島氏は医師に検査を希望した。2回目は再発転移が見つかった時、転移巣のがん遺伝子を解析した。

 1回目と2回目の検査結果には若干の違いが見られたが、傾向は同じだった。医師は2回目の結果について「いまは有効な治療法はない」と判断した。それでも谷島氏は「検査を受けてよかった」と思っている。谷島氏は「ゲノム解析の結果を知っておくことで、治療選択に優先順位をつけやすくなります。また、今後、解析結果に見合う治療法や治療薬が出てくる可能性はあり、治療戦略を立てる上では有効です」と説明する。
 
 現在、公的医療保険でがん遺伝子パネル検査を受けるためには3つの条件がある。(1)固形がん(血液のがんでないこと)、(2)全身状態が良好(抗がん薬治療を受けられる)、(3)標準治療がないか終了している(あるいは終了する見込み)。

 そして検査が受けられても、「その結果から、すでに承認された薬がなければ、効果の可能性がある薬剤の治験にアプローチすることになります。でも、タイミングよく自分の遺伝子変異に合った治験が見つかるかどうかだけでなく、エントリー(申し込み)してから時間がかかるため、なかなか希望通りの条件とスケジュールになりません。患者としては改善を強く望みます」と谷島氏は指摘する。

 また遺伝子変異が見つかった時、例えばGISTでは保険適用になっていないが、他の臓器の治療薬が有効な可能性はある。これは「適応外使用」と呼ばれ、適応のない疾患に薬剤が使用された場合、保険償還の対象にはならず、関連する治療も含めて自由診療となる。

 この問題をクリアするために国立がん研究センター中央病院は、がん遺伝子パネル検査で治療候補となり得る遺伝子異常が見つかった場合に、患者申出療養制度の下で既承認薬を適応外使用し、その治療効果を検討する臨床研究を昨年10月から開始した。患者申出療養制度とは、患者の申出をもとに、臨床研究中核病院が臨床研究を立案し、患者の希望する療養を実施する制度。適応外薬の費用と研究を適正にするための費用(約40万円)は原則患者の負担となるが、その他の検査や治療等は保険診療と併用することができる。また薬剤に関して、ノバルティスファーマと中外製薬は国立がん研究センターと「医薬品無償提供協力」の契約を結んでいる。

AIは予防・検診・治療・投薬すべてに活用できる

 保険適用されたもう1つのがん遺伝子パネル検査「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」を販売する中外製薬ファウンデーションメディシンユニット長の渡邉稔氏は、個別化医療をこう説明した。「従来の医療は同じ診断名であれば、病態が不均一であっても同じ治療、同じ薬を投与されていました。このため、治療効果が低く、副作用も(一定の頻度で)高くなりました。一方、個別化医療は同じ病気でもバイオマーカーによって特徴ごとにグループ分け(層別化)できるため、効果が高く副作用が少ない分子標的薬による治療を受けられます」。

 さらに、個別化医療が進んだ形の「プレシジョン医療」について、私見と前置きしたうえで、その特徴を「包括的に細胞を遺伝子レベルで分析することで、患者個別に最適な治療の全体戦略を立てることができます」と話した。

 検査データは患者の同意のもと、すべて国立がん研究センターが運営するがんゲノム情報管理センター(C-CAT)に提出される。同センターで検査データは、がんゲノム情報やがんゲノム医療を推進するための仕組みづくりに利活用される。遺伝子パネル検査のデータを集積して、AI(人工知能)を用いて分析していく動きもある。

 ディスカッションは、慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット特任助教の加藤容崇氏が「AIを用いることで、医療費や治療薬の開発費を下げることは可能でしょうか?」と質問することから始まった。

 人工知能の研究に20年余り携わってきたヒューマノーム研究所代表取締役社長 の瀬々潤氏は「AIは予防・検診・治療・投薬すべてで活用できる技術です」と言い切る。ただし、「一般的な検診・治療・投薬と、希少がんのそれらは課題設定が異なるため分けて考える必要があります」と言う。さらに瀬々氏は、「創薬の場合、どの遺伝子変異をターゲットとするか、どの化学構造を見ればいいか等は、AIが得意なところで開発コストの削減につながると考えます。トライアルを繰り返すといいでしょう」と話した。

 がん領域に約30年携わってきたシスメックスLSビジネスユニット担当の久保田守氏は、がん領域のAI研究に関する3点の課題を提起した。
(1)類似の患者グループの検査データを蓄積し、AIを用いて比較することで、個人の検査の信頼性を高められないか。
(2)検査データと臨床有用性との関連性をAIで解析することで、検査の種類の優先付けや検査フローを最適化して検査コストを減少できないか。
(3)蓄積された検査データと臨床有用性データをAIで解析することで、その時点でのピンポイントな治療薬や治験薬を選べないか。
 
 米国で医師として働くテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの上野直人氏は、アメリカのがんゲノム医療の現状について「すでに通常診療でがんゲノム解析によるプレシジョン医療を実施しています。それは同時に1300の臨床試験が走っていることからこそできます。今後は『さらに、AIを活用して膨大な知識を活用することが必要』と医師は感じています」と話した。

 ただし、瀬々氏が患者に対して「AIは魔術ではないため、過度な期待はしないように」と釘を刺す場面もあった。

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