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レポート

2020/03/24

日本がん・生殖医療学会市民公開講座より

がん治療後に子どもをもつ選択肢、「特別養子縁組」と「里親」

福島安紀=医療ライター

 小児・AYA世代(10代から30代)のがん患者の妊孕性を温存するがん生殖医療が、全国に広がってきている。その体制整備を進めてきた日本がん・生殖医療学会が2月15日、埼玉県さいたま市で「がん・生殖医療と福祉の協働」をテーマに、がんのサバイバーが子どもをもつ選択肢として里親・養親を考える市民公開講座を開催した。内閣官房参与で産婦人科医の吉村泰典氏の基調講演と、「がん経験のある人が里親・養親になることから見えるもの」と題した静岡大学人文社会科学部社会学科教授で全国養子縁組団体協議会代表理事の白井千晶氏の講演を中心に、リポートする。


 「小児・AYA世代のがんの患者さんの妊孕性(妊娠可能性)を温存する方法には、治療前に女性の場合は卵子、受精卵、卵巣、男性の場合には精子を凍結保存する方法があります。ただ、すべてのがん患者さんが妊孕性を温存できるわけではありません。子どもをもつ選択肢として、特別養子縁組、里親ということを考えてもよいのでないでしょうか」

 内閣官房参与の吉村泰典氏は、「子どもをもつということ―がん・生殖医療を考える」と題した基調講演で、そう問題提起した。そして賛否両論あるものの、第三者からの卵子や精子の提供、代理懐胎の選択肢も、医療者は提示した方がいいのではないかと言及した。

特別養子縁組は養子を実子として育てられる制度

 特別養子縁組は、一般的な養子縁組とは異なり、子どもの福祉を最優先し、生みの親との親族関係を終了し、実の子と同等の法的地位を与える制度だ。中高生など予期せぬ妊娠をした女性や虐待など事情があって実親が育てられない子を、新生児から特別養子として育てる人もいる。現在は、原則として6歳未満の子を対象にしているが、昨年、民法が改正され、今年4月から、特別養子になる対象者の年齢が15歳未満に引き上げられる。

 一方、里親は、基本的には養子縁組を行わず、虐待や経済的な理由で実の親と一緒に暮らせない子どもたちを家庭で養育する制度だ。一定期間家庭に受け入れる「養育里親」、虐待を受けた、障害があるなど専門的に援助を必要とする子を養育する「専門里親」がある。言葉が紛らわしいが、特別養子縁組あるいは普通養子縁組を前提に受託する里親は、「養子縁組里親」と呼ばれる。

里親・特別養子縁組制度の認知度を上げ多様な家族を受け入れる社会に

 続いて、「がん経験のある人が里親・養親になることから見えるもの」をテーマに講演した静岡大学人文社会科学部社会学科教授で全国養子縁組団体協議会代表理事の白井千晶氏は、20代でがんになった女性の例を示した。

白井千晶 氏

 その女性は、抗がん薬治療後、妊娠・出産ができなくなるリスクがあったが、当時、主治医からそのことは説明されなかった。しかし、夫がそのリスクを知らされていたことから、自分たちで生殖医療機関を探し受精卵を凍結保存した。受精卵の写真は、闘病の心の支えになったそうだ。がんの治療がすべて終了し寛解して一定の期間が経ってからその受精卵を移植したが、妊娠には至らなかった。そこで、養親や里親になることを考え児童相談所に相談したものの、対応が冷たいと感じたそうだ。

 「数年前の話で地域によるかもしれませんが、彼女は、『相談したり、適切な情報をくれたりする人がいなかった。第三者からの卵子提供や里親、養子縁組についても自分で情報を集めた。がんになってあきらめることは少ない方がいい』と話していました。がんの治療などによって妊娠・出産ができなくなって、その代わりとして里親や養子縁組を知るのではなく、すべての人が、当たり前のように、多様な家族の形態があることを知っておく必要があるのではないでしょうか」と白井氏は強調した。

 例えば、米国では、小中学校のクラスに何人も養子縁組をしている子どもがいたり、生まれたときの国籍が親とは異なる子どもも少なくない。ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが養子3人を実子と共に育てているのは有名な話だ。日本でも、元宝塚歌劇団のトップスターで女優の瀬奈じゅんさんが、特別養子縁組で母になったことを公表しているものの、特別養子縁組や里親制度について知らない人が多いのが現状だ。

 白井氏は、多様な家族のあり方への理解を深める絵本として、『かぞくって なあに?』(文化出版局)、『いろいろ いろんな かぞくのほん』(少年写真新聞社)を紹介した。そして、がんの体験者が子どもをもつ選択肢として、特別養子縁組、普通養子縁組、里親になることを考える土台を作るためにも、医療機関の中で、各地域の里親会や児童相談所が、養子縁組・里親制度に関する出前講座を開催することを提案した。

 「一般の患者さん・市民向けの講座だけではなく、医療スタッフ対象の勉強会や研修会があってもいいのではないでしょうか。都道府県ごとに里親会が病医院へ出向いて出前講座をするとか、実際に養親や里親になられている方による養育体験発表会が病医院の中で開催されると、お互いに理解が進むのではないかと思います」

がん経験者の健康状態をどう評価するかが課題

 がんの体験者が、特別養子縁組や里親になるにあたっては、健康状態をどう評価するかといった課題もある。特に、特別養子縁組は子どもの福祉のための制度であるため、あっせん事業者が養子縁組あっせん法(民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律)に基づいて、健康状態や年齢など養親の適格性を判断するからだ。子育てには体力が必要であるため、特別養子縁組をする場合の親と子の年齢差は40~45歳以内を目安にしている自治体もある。

 「あっせん事業者の中には医療機関ではないところもあり、がんに罹患したことがあるという事実を養親の適格性としてどう判断するのか苦慮する場合があります。医師が、がんが20年間再発しませんとか、このお子さんが大きくなるまで大丈夫ですという診断書が書けないことは承知しています。それでも、がんの体験者の健康状態の確認をどういうふうに捉えるか、医療者とあっせん団体が情報交換しつつ、具体的に健康診断書や意見書で何を確認すればよいのか話し合っていかないと、委託が進んでいかないのではないでしょうか。精神疾患の既往がある方や、障害を持った方も養親になっていますから、これまでの経験や考え方がある程度援用できると思います」

 そう話す白井氏によると、昨年11月に開催された、埼玉県里親会と同県内でがん生殖医療に取り組む医師たちとの勉強会では、「がんになった経験がある親が養親になることについて、子どもの視点からも考える必要がある」との指摘があった。一方で、「親が病気になる、亡くなるという出来事はないほうがいいが、児童養護施設と違って、介護や生死があるのが家庭の特徴だ。病気を取り除くとか、病気がありそうなところには委託しないとか、すべてをそぎ落としていくような形ではなくて、何もかも一緒に経験できるのが家族」という意見も出たという。

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