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2020/03/10

医療者がリードする患者力向上ワークショップより

「患者力」はチーム医療につづくがん医療の柱

患者が主体的に治療に向き合うための「患者力」を医療者が引き出す

八倉巻尚子=医学ライター

 患者を中心としたチーム医療を実現するには、患者自身が病気や治療について理解し、医療者任せにしない姿勢が大切だ。それには医療者と話し合えるコミュニケーション能力や、さまざま情報を吟味し、また自分の想いを伝えられるスキルも必要になる。そういった「患者力」を引き出し、養うためにはどのようにしたらいいのだろうか。



 一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクト(理事長 福岡正博氏)が主催する「第1回医療者がリードする患者力向上ワークショップ」が2020年1月に開催された。テキサス大学MD Anderson Cancer Center教授の上野直人氏や福島県立医科大学白河総合診療アカデミー准教授の東光久氏を中心とした“Patient Empowerment Program (PEP)”という新しいプロジェクトとして、患者力を引き出すためのスキルを学ぶ初めての試みだ。2日間のワークショップにはがん医療に携わる医師や看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、臨床心理士、管理栄養士が参加し、講義やグループワークを行った。ここでは1日目のワークショップの様子を紹介する。

患者力の低さはがん医療の進歩の遅れにつながる

 「患者力」とは、「自分の病気を医療者任せにせず、自分事として受け止め、いろいろな知識を習得したり、医療者と十分なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、人生を前向きに生きようとする患者の姿勢」であると、東氏は説明した。そして「患者が患者力を自主的に発揮できるように、医療者が援助すること」がPatient Empowermentであり、PEPでは「Patient Empowermentを合言葉に、医療者が患者力向上に必要な知識・スキルを学び、深化させる場を提供する」ことを目指し、今回のワークショップを開催したことを説明した。

上野直人 氏

 「よりよい医療とは、患者にとって納得のいく医療を受けながら、自分らしく生活ができることだろう」と上野氏は言う。そのために「医療者もメディアも患者さんにたくさんの情報を与えてきたが、現実にはよりよい医療になかなかシフトしない」。その原因の1つは、医療従事者が患者力を高めるためのスキルを体系的に構築し、それを学んで広げる活動が欧米も含めてないためではないかと話した。

 患者力の低さは、質の低い医療や医療過誤の一因にもなるという。「おかしな医療を受けていても、おかしいと感じることができない。あるいはおかしいと思ったときに、なんで?と質問できないのでは、医療従事者の間違いにストップをかけられないという問題がある」(上野氏)。また低い患者力は、経口薬におけるコンプライアンスの低さとなり、治療のアウトカムに影響したり、インターネット等でのフェイクな情報を患者自身が広げる可能性が高いなどの弊害を生むという。患者自身が医療を良くしようとしなければ、臨床試験の参加が減少し、研究費の低下、研究クオリティの低下をもたらし、がん医療の進歩が遅れる可能性があるとも述べた。

 また上野氏は自身ががん患者として治療を受けた経験から、「がん医療をマラソンに例えると、患者は孤独のランナーという感じ」だという。ただがん医療とマラソンの大きな違いはゴールがないこと。病気が治ったとしても、再発するのではないかという怖れがあり、副作用の問題もあって、「一生走っている感覚がある」と話した。マラソンを続けるには上手にペースをとる必要がある。「立ち止まっても困るし、早く走りすぎても困る」。ペースをとって走り続けるにはやはり自分自身の患者力が重要で、そこでPatient empowermentプロセスが大事になる」と言う。ただ「僕は、医療従事者として一定レベルの医療は提供できるという自信は持っているが、患者としては最低レベルだったかもしれない」と振り返る。感情やストレスがあり、「どうやって患者力を持たせるかはがん専門医の僕自身でも難しいと感じている」と語った。

患者力の3つのスキルを養成するには

 医療従事者のこれまでの役割は、「1つは治療を施すこと、2つめに医療を改善しながらより良い医療を提供することだったが、3つめに患者力を養うというスキルを持たないといけない。普段の医療行為の中で、それをどのように導入するかを考える時期にきている」と上野氏。ではどうやって患者力を養成するのか。「私なりに考えたアプローチだが」、患者力を“スキル”(教養や訓練を通して獲得した能力)とすると、1つはコミュニケーションのスキル、2つめは情報を吟味するスキル、3つめは患者が想いを伝え自己主張できるスキルが重要で、医療従事者はこれらのスキルを患者に与えてほしいとした。

 コミュニケーションができるスキルには、あせらないこと、医師の話した内容を取得すること、質問上手になることが患者には必要であるという。それらを実践するには、医療従事者は急がせる態度をとらないことが求められる。「せかせる態度は患者さんに簡単に伝わってしまう。患者さんにどう向き合うか、医療従事者の表情が患者力を低下させている可能性もある」。

 また医師の話した内容を取得させるためには、医師の説明を録音したり録画することを勧め、一緒に話を聞く人を連れてくることを推奨する。そして質問上手にするには、質問を予め準備するように患者に言い、あるいは外来とは別の時間を設定することを提案する。さらに上野氏は20個もの質問を用意してきた患者には、質問内容を見て、重複や言い換えが多いなど、「患者さんの質問を評価する。質問をするならばまとめることも重要だよと患者さんには言うべきだと思う。面倒な質問があって困るねと心の中でつぶやくのではなく、現場でフィードバックをすることが重要で、そういったコミュニケーションが納得の医療の第一歩だと思っている」と話した。

 次に、情報の吟味には、医療の質を判断できる能力やメディカルリテラシーが不可欠であるという。メディカルリテラシーとは、科学的根拠があるのかないのかを見極める力や良いものを見つける力であると、上野氏は説明する。「車を買ったり電子レンジを買うときはインターネットなどでかなり調べると思うが、医療になると調べなくなる。調べたとしても、車ならば質の良い車かどうかがわかるのに、医療になるとおかしなサイトに引っかかってしまうこともある。患者が消費者であるという観点に立つと、車業界はいろいろな形で情報発信しているが、医療の情報は一方通行であるため、患者には理解しにくいのだろう」。

 情報を吟味できるスキルのためには、まず医師の話す内容をわかりやすくし、話した内容を消化させること。専門用語を使わずに、ただしキーワードは専門用語と一般名の両方を伝える。これは患者がインターネットで検索するときに、疾患の一般名と専門用語では出てくる情報が全く違うためだ。説明するときは図を使って理解しやすくする。また次の受診時に前回は何を話したかを患者に尋ね、医師の話した内容を本当に消化しているのかを確認する。「その確認作業は医療従事者に与えられた義務だと考えている」と上野氏は言う。さらに標準療法なのかそうでないかを理解させることも重要で、標準外であるならば、その理由を説明する。

 「そうすることで、医療におけるリスクとベネフィットの理解ができる」。エビデンスには質が高いものと低いものがあり、何を高い質として捉え標準としているかを教える。たとえばランダム化比較試験やその統合解析は質が高いエビデンスであることは理解しているが、症例報告や専門家の意見はエビデンスが低いことを理解していないことが多いという。

 「しかし一挙に教えると、消化不良になるので、いかに時間をかけて、メディカルリテラシーを普段の医療の中で、散りばめるかというスキルがPEPの重要なポイントになってくる」と説明した。患者には優良サイトの情報を提供したり、患者が得たサイト情報をプリントアウトして持ってきてもらうなどして医療従事者と共有することを上野氏は勧める。「情報の共有をして、これがいい、こう考えるべきなど、ネット情報の吟味の教育を普段の外来や入院中に行うことができる」と話した。

 3つめの想いを表現するスキルは、患者が自分で治療法を選択し納得した医療を受けるために非常に重要になる。医療従事者は、選択肢を提示するだけでなく、それぞれの良い点、悪い点がわかるようにし、優先順位も話すと上野氏は説明した。また患者が自分の希望を伝えるときに、医療従事者は患者の価値観や職歴、趣味を知る努力をすることが必要だという。ただし価値観や希望は治療の経過や状況によって変わるため、「ランダムに、システマティックに希望を聞くようにしている」。

 また上野氏は患者としての経験から、その日の気分によって詳しく知りたいときと知りたくない時がある。患者には、「今日はこういうことを説明する予定だが、詳しく説明が聞きたいか、それとも大まかなことでいいか」を尋ねるようにしていると話した。さらに治療においてチャレンジする気持ちを持ってもらうために、臨床試験というオプションを提示するとともに、臨床試験と標準治療の違いがどこにあるかを伝える。「標準治療との違いを理解すると、より臨床試験への参加につながるのではないかと思う」。

 医療現場において患者力が求められる場面は増えている。例えば、ゲノム医療で、患者のリテラシーがないと、遺伝子異常の検査をしても情報過多になって患者を不安に陥れる可能性がある。反対に検査をして遺伝子異常が見つかると素晴らしいことができると患者は過度に期待してしまう。「患者力とのバランスがあってこそ、ゲノム医療はよりよく受け入れられる」と上野氏は言う。また免疫療法を受けたときに、副作用について理解し、おかしな症状が出てきたときに、自分自身のことを効率良くタイミングよく語れるかによって、早く発見し副作用を避けることができる。医療従事者の副作用モニタリングだけでなく、まさに患者力でその差が出てくるという。

 コミュニケーション、情報の吟味、想いの表現といったスキルを持った患者は医療チームと対等な関係を築くことができ、患者はチームの一員になれると上野氏は考える。患者力を引き出し、養うには医療従事者のエンパワーメントが必要で、医療者はエンパワーメントをスキルとして捉えて、積極的に取り組むことが重要であるとした。

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