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2020/03/03

子供だって外見を気にする

チャーミングケアを知っていますか?

福原麻希=医療ジャーナリスト

 がん治療によって見た目が変化することは、体の痛みより苦痛につながると言われている。「大人のためのアピアランス(appearance:容貌・印象)ケア」は少しずつ広がってきたが、病気や障害を持つ子供の外見に配慮する「チャーミングケア」と呼ばれる取り組みも始まっている。


俺にだって、イヤな恰好はあんねん

 大阪府池田市在住の石嶋瑞穂さんの長男(当時7歳)が急性リンパ性白血病と診断されたのは、4年前(2016年)のことだった。長男は、当時、手足にアザを作ってくることが多く、よく整形外科で診てもらっていた。しばらくすると、たびたび「体がだるい」と言うようになった。ある日、学校で授業を受けていたが、体がだるくて保健室へ。保健室の教員から「微熱が続いているのは気になる」と病院へ行くように勧められ、検査を受けた結果、すぐ入院が必要と診断された。

 入院6日目、長男は点滴や抗がん剤等の治療をするためのCV(中心動脈)カテーテルを鎖骨下に埋め込むことになった。だが、子供はCVカテーテルからぶらりと出ているチューブが気になり、触ったり抜いてしまったりすることがある。触ることで感染症に罹患するリスクも出てくる。そこで、病院はチューブが子供の目に入らないよう、首から小さな布袋(CVカテーテルケース)を下げて、その中に収納することを推奨している。

 石嶋さんも長男のCVカテーテル留置手術の前日、病院の看護師から「CVカテーテルケースを作ってください」と言われた。入院初日から長男のベッドサイドに24時間付き添い、睡眠不足と心労でフラフラになっていたときで、とても困ったという。当時、市販品はなかった。

 翌日、CVカテーテル留置手術からベッドに戻ってきた長男は、か細い声でこう言った。「痛くて動かれへん。病気が治るまで、ずっとこんなんなんかな」。次の日には「これ…邪魔やわ。すごい嫌やねんけど」とかすれ声で訴えてきた。CVカテーテルがぶら下がっていることを気にしていた。

 そこで、石嶋さんが同じ体験を持つ友人に、CVカテーテルケースをどう作ればいいか相談をしたところ、その友人は洋裁が得意だったため、翌日、ブランド品のようなケースを作ってくれた。使いやすいように工夫もしてあった。長男は前述の様子から一転して、嬉しそうな表情で看護師に見せるようになったという。

石嶋さんの長男が入院中、友人がつくってくれたCVカテーテルケース。ケースを開くと、チューブを止めるマジックテープや堅めのベルトが付いている。

 長男が1年間、入院していた中、こんなこともあった。ある検査日の朝、看護師が長男に検査着を着せた。長男は検査の前と後で、病棟の反対側の院内学級へ行こうとしていた。検査着は機能を追求しているだけなので、率直に言って「ダサい」。足のすねが見えるほど、丈も短かった。長男は小さな声で言った。「これはいやや。検査のときだけだったらいいけど、この格好で一日過ごすのはいやや」。

 検査の前後にベッドで着替えさせることは手間になる。看護師は「院内学級はすぐそこなんだし、いいやん」と軽く声をかけた。すると、長男はこう訴えた。
「ほんなら、看護師さん、この格好で寮から病院へ来られる?俺にそうしろって言ってるんやで」
「俺にだって、いやな恰好はあんねん。検査のとき、この検査着が必要なことはわかってるけど、一日中、これで過ごすなんて……」
「俺にとって、院内学級は別のところなんや。ここから院内学級へ行くとき、人にも会うし、この格好であっちゃこっちゃ行くのはいやなんや」

 石嶋さんはこう振り返る。「息子は自分の意見をハッキリ言うタイプではありませんでした。でも、入院しているうちに検査や治療について疑問を抱くことが多くなり、それでも何となく『聞いたらあかん』と思って、気を遣っていたそうです。そのうち、看護師さんに『あっち、行け』と暴言を吐いたり、物を投げたりするようになってきました」

 長男にとって、突然の入院は毎日、検査や治療を受けるだけでなく、学校へ行けない、運動もできない、とできないことばかり増えていく。口には出さなかったが、明らかにストレスが積み重なっていた。

外見のケアがメンタルにも影響

 そんな入院生活での対話から、石嶋さんは「子供は病気になっても、外見を気にする」と気付いた。さらに、「病気の子供の外見のケアはメンタルにいい影響をもたらす」とも考えた。それは、長男だけではなかったからだ。

 同時期に入院していた幼稚園に通う女児はベッドサイドを出るとき、必ず保護者が手作りした帽子をかぶっていた。抗がん剤で髪の毛が抜けることを気にするだけでなく、いろいろな種類の手作り帽子から「選ぶ」ということが病院生活の楽しみにつながっていたのだろう。
 
 大人のがん患者のための治療による外見の変化や症状の相談に乗っている「アピアランス支援(appearance:容貌、印象)」は、すでに全国の病院等で取り組まれている。
「身体の痛みより、外見の変化のほうが患者に苦痛をもたらす」ことは調査結果からも指摘されている(関連記事)。だが、これまで子供の外見のケアについて話題になったことはなかった。

 「病気と闘う子供のために、親はどんなことができるか。治療以外の部分に、もう少しスポットライトを当てることができないか」。石嶋さんがそう考えながら、インターネットで調べてみると、子供の闘病を応援するため、いろいろな活動をしている人たちがいると知り、横のつながりができた。

 そこで石嶋さんは、ひよこ屋(ユニバーサルデザインの子供服サイト販売)やpalette ibu(パレットイブ、病児服と医療用生活雑貨販売)などの団体と連携し、病気の子供のかわいらしさ、かっこよさをもっと追求していくためのグッズをネットで販売することにした。

 さらに、障害児や医療的ケア児の外見のケア、子供たちのメンタルケア、その保護者にも寄り添う方向を含めて、それらの活動を「チャーミングケア」と呼ぼうと言葉をつくった。2018年、一般社団法人チャーミングケア(大阪府池田市)を設立し、石嶋さんが代表を務める。

みんなのチャーミングケアラボラトリー

闘病中の「あったらいいな」を販売

 チャーミングケアでは、病気や障害のある子どもたちや家族のためのショッピングモールとして、マミーズアワーズショップ と、チャーミングケアモールの2店舗でチャーミングケアグッズをネットで販売している。

 きっかけは、冒頭でエピソードとして紹介したCVカテーテルケースだった。このとき、石嶋さんは「市販品があれば、どれだけありがたいか」と思ったことから、長男が闘病中、病院で付き添っている時間にチャーミングケアモールの前身となる小児がん専門のサイト「マミーズアワーズショップ」を立ち上げた。そこで、ベッドサイドでもCVカテーテルケースを手縫いできるように「手作りのキット(生地、紐、ベルト、マジックテープ、ループ)」を販売した。このCVカテーテルケースは消耗品で、汚れると感染症の感染源にもなる。石嶋さんはメーカーに量産を求めたが、対象者が少ないと断られてしまった。

 このほかにも、小児がん患者が抗がん剤治療を受ける場合は、どうしても髪が抜けてしまう。室内にいるとき、あるいは、ちょっとした外泊ですぐ被れる帽子は便利だ。そこで、マミーズアワーズショップではバンダナキャップや女性用のリボン付きのヘアキャップも取り揃える。子供たちが自分の好きなプリント柄や素材を選べるように、生地や色などが異なる多種類を画面に並べる。

 商品を購入したAさん(大阪府在住)は、「急に子供が病気になったとき、ネットで病気を調べていたら、マミーズアワーズショップでCVカテーテルケースを見つけました。闘病中でも毎日を笑顔で過ごそうと決めていたので、オシャレな感覚がいいなと思って購入しました」と話す。

 今年からは障害者向けの総合サービス企業「ゼネラルパートナーズ」から出資を受ける形で「チャーミングケアモール」を立ち上げた。ゼネラルパートナーズは「病気や障害に関する社会問題をビジネスで解決する」をビジョンに掲げている。企業がこのジャンルを牽引し、社会で「チャーミングケア」を広めていこうという試みという。

 石嶋さんは「当社のサイトで扱うほとんどの商品は入院中に『あったらいいな』と思ったものです。子供に付き添いながらの看病は身体的にも精神的にも、本当に大変な時間でした。このようなグッズが生活の中にあることで、楽しい一日に変わっていければと考えています」と話している。

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