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レポート

2020/02/18

日本放射線腫瘍学会第32回学術大会より 5

前立腺がんをピンポイントで狙う重粒子線治療

リスクとベネフィットのバランスが優れた治療法

八倉巻尚子=医学ライター

 がんが前立腺の中にとどまっている限局性前立腺がんの治療には手術療法や放射線療法が行われる。手術では手術支援ロボットを使った内視鏡手術が増え、放射線療法では放射線を正確にかつ集中して照射できる技術が進み、がんの制御だけでなく、排尿機能や男性機能への影響も少なくなってきた。
 11月に名古屋で行われた日本放射線腫瘍学会第32回学術大会のシンポジウム「前立腺癌各種治療法の特徴」では、手術療法と各種の放射線療法の現状について紹介された。第5回は、放射線療法の1つである重粒子線治療について、九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野放射線医療情報・ネットワーク講座の塩山善之氏の講演内容を紹介する。


 放射線療法には光子線(X線、ガンマ線)や粒子線(陽子線、炭素線)が使われている。X線やガンマ線は体表近くで線量が最大になるが、粒子線は腫瘍の周辺で線量が最大になるため、ピンポイント照射が可能で、正常組織へのダメージが少ない。粒子線治療の1つである重粒子線治療は、質量が大きい粒子(主に炭素)を用いて、大型加速器でエネルギーを高め、腫瘍の大きさや形に合わせて照射する。

 重粒子線は、「粒子の質量が大きいため側方散乱が少なく、陽子線と比べてもシャープに腫瘍に照射できる」と塩山氏は説明した。そのため直腸や膀胱といった近接する正常臓器への線量が低減され、また重粒子線では発がんリスクも低いといわれている。大規模コホート研究によれば、前立腺がん治療後の続発がんの頻度は、X線に比べて重粒子線では有意に少なかった(Mohamad O, et al. Lancet Oncol 2019; 20:674-85)。

 さらに、細胞が分裂する過程(細胞周期)において放射線感受性は変わるのだが、重粒子線では細胞周期による感受性の差が小さいため、安定した効果が得られるといわれている。局所進行膵がんなど、放射線に抵抗性の腫瘍に対しても重粒子線は効果が示されている。

 国内の重粒子線治療施設は6施設あり、また山形県に1施設が建設中で2020年の開設が予定されている。現在、5施設で前立腺がんに対する重粒子線治療が行われている。2018年4月には限局性・局所進行性前立腺がんの重粒子線治療が保険適用となった。

 前立腺がんに対する重粒子線治療は、低リスク群には重粒子線治療のみだが、中リスク群には重粒子線治療を行う前に6カ月ほどホルモン治療を行う。高リスク群には重粒子線治療の前に6カ月ほどホルモン治療を行った上で、重粒子線治療後も1-2年程度ホルモン治療を行うことが一般的だ。

 重粒子線治療で使われる線量は、現在は国内すべての施設で統一されており、51.6Gy(RBE)を12回に分けて3週間で実施されている。照射方法には、従来からのパッシブ照射法(ブロードビーム法)と、新しい照射技術であるスキャニング照射法がある。パッシブ照射法は、細い重粒子ビームを各種フィルタを通して広げてから、腫瘍の大きさや形に合わせて調整して照射する方法。スキャニング照射法は鉛筆のような細いビームを動かして、腫瘍の形に合わせて照射する方法だ。

高リスク前立腺がんでも良好な成績と少ない有害事象

 重粒子線施設3施設の2157人を対象とした後ろ向き観察研究(J-CROS)で、PSA上昇で示される生化学的再発が評価された。低リスク群の5年生化学的非再発生存率は92%、中リスク群で89%、高リスク群で92%と、「良好な成績が示されている」(Nomiya et al. Radiother Oncol 2016)。有害事象は、グレード2以上の直腸障害は5年で0.4%、尿路系障害は4.6%だった。

 また「治療法の異なる試験を単純に比較していけないが」(塩山氏)、高精度のX線治療であるIMRT(強度変調放射線治療)や陽子線治療と比べて、重粒子線治療は高リスク群でも良好な成績が得られており、有害事象も少ないことから、「リスクとベネフィットのバランスが優れた治療モダリティだと考えている」と話した。

 陽子線と重粒子線を比較した試験でも、急性期の消化器障害と尿路系障害は重粒子線のほうが若干少なかったことが報告されている(Hable et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2016)。

 塩山氏らの前向き観察研究(HIMAT1331)も紹介された。九州国際重粒子線がん治療センター(SAGA-HIMAT)で重粒子線治療を行った135人を対象とした中間解析(観察期間中央値は49カ月)で、4年時点の生化学的非再発生存率は95.4%で、再発リスク別には低リスク群95.7%、中リスク群は98.1%、高リスク群は91.7%だった。晩期有害事象として、グレード2の消化管障害は1.5%、尿路系障害は3.7%で、グレード3以上はなかった(泌尿器外科 32(8): 1013-1015, 2019)。

 さらに観察期間中央値61.2カ月の成績でも、生化学的非再発生存率は95.2%、5年生存率は98.4%で、死亡はすべてほかのがんによる死亡だったという。これらのことから、「重粒子線治療では、国内の各施設で安定した、再現性のある結果が出ている」と話した。

 重粒子線治療後の生活の質(QOL)についても、国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOL質問票のEPICを用いた前向き調査で、「治療中は若干QOLは落ちるが、すぐに回復するのが特徴」で、排尿機能や排便機能も維持されていることが示された(Toyama S, et al. ASTRO 2018; 102)。またホルモン治療の影響を取り除くため、ホルモン治療を行っていない患者で検討した結果、性機能への影響は少ないことが示された。

 現在は多施設共同前向き研究として、統一した治療方針で治療した前立腺がんの登録が行われており、年間1000人程度が登録されている状況だという(全国症例登録)。また重粒子線治療の臨床試験として、高リスクの局所限局性前立腺がんを対象に、5年生化学的非再発生存率や晩期有害事象が評価されている。2019年7月に登録が終了し、5年後に結果が報告される見込みだ。さらに今後はスキャニング照射法を用いることで、照射可能範囲が広がってリンパ節転移陽性症例などに対する照射が容易になり、また再発病変への再照射や、照射回数が少ない寡分割化も安全に行える可能性があるという。

 シンポジウムの最後に、座長の一人、山形大学医学部放射線腫瘍学の根本建二氏は、「日進月歩の治療分野であり、患者さんにアップデートの情報を提供して、患者さんに選んでもらう体制を、泌尿器科と放射線科の先生みんなで構築していくことが大切である。そしてそれが今後この分野の発展に寄与するのではないか」と話した。


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