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レポート

2020/02/11

日本放射線腫瘍学会第32回学術大会より 4

保険収載で増加した前立腺がんの陽子線治療

効果は高精度X線治療と変わらないが直腸や膀胱への影響は少ない

八倉巻尚子=医学ライター

 がんが前立腺の中にとどまっている限局性前立腺がんの治療には手術療法や放射線療法が行われる。手術では手術支援ロボットを使った内視鏡手術が増え、放射線療法では放射線を正確にかつ集中して照射できる技術が進み、がんの制御だけでなく、排尿機能や男性機能への影響も少なくなってきた。
 11月に名古屋で行われた日本放射線腫瘍学会第32回学術大会のシンポジウム「前立腺癌各種治療法の特徴」では、手術療法と各種の放射線療法の現状について紹介された。第4回は、放射線療法の1つである陽子線治療について、筑波大学医学医療系放射線腫瘍学の石川仁氏の講演内容を紹介する。


 放射線療法は照射線量が多いほど再発抑制効果は高く、総線量が60-80Gyでは非再発率は直線的に上昇する。しかし線量が上がると、直腸出血などのリスクも上がる。そのため「前立腺がんに対する放射線療法の成功には、安全な線量増加が重要である」と石川氏は話した。

 放射線治療に使われる放射線には光子線(X線、ガンマ線)や粒子線(陽子線、炭素線)がある。陽子線や炭素線は、エネルギーが高いほど体内に入ってからの距離が長くなる。また止まる直前に急激に線量が増大し、その後、急激に減少するという性質がある。そのためX線を用いた治療と比べて、陽子線を用いた治療は「腫瘍の奥で止まり、止まる周辺で最大のエネルギーを与える」。つまり線量集中性が高いのが特徴だ。

 陽子線治療施設は世界で89施設あり、最近の10年間に65施設が建設された。また現在40施設以上が建設中あるいは建設計画中で、北米やアジア地域に多いという。国内には18施設あり、この3年間で7施設が開設された。

 陽子線治療は1979年から2018年までに2万8000人に行われている。このうち前立腺がんが3割強を占める。2018年4月からは限局性および局所進行性で転移がない前立腺がんに対して、陽子線治療は公的医療保険の適用となっている。

 石川氏は「私が考える陽子線治療の適応は」と前置きして、肝臓がんなどの大型の腫瘍や抗がん剤を併用して広い照射をする食道がんや膀胱がん、進行肺がんなどが陽子線治療の良い適応ではないかと話した。一方、前立腺がんは小型の腫瘍であり、「X線でも十分に治療ができる」ため、陽子線治療によるメリットは他のがんに比べて小さいのではないかとした。

 ただ副作用を比べると、陽子線治療のほうが少ない。肺がん治療において、グレード3以上の肺障害がX線治療(SBRT)に比べて陽子線治療のほうが頻度は低く、また施設によるばらつきも陽子線治療のほうが少ない。最近のメタ解析でも、肺がんに対するX線治療に比べて、副作用である肺臓炎の頻度は陽子線治療では3分の1に、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)も有意に良好だった。前立腺がんにおいても、陽子線治療では低線量や中線量の領域が狭いため、正常臓器への影響が少なく、前立腺の近くにある直腸への影響もX線治療に比べて陽子線治療のほうが低い。

 効果についても「1990年から2000年は陽子線治療のほうが若干良い成績だった」。しかし高精度のX線治療であるIMRT(強度変調放射線治療)が出てきたことで、「差がなくなってきている」と石川氏は説明した。実際、2014年以降のデータを比較すると、治療成績はあまり変わらない。それでも有害事象を比較すると、グレード2の直腸障害はIMRTでは4-14%で施設によるばらつきがあるが、陽子線治療では2-4%と少なく、グレード2の尿路系障害はIMRTでは6-29%、陽子線治療では2-6%といった違いはある。

 粒子線治療は2015年に大きな転換期を迎えた。2015年9月の厚生労働省の先進医療会議において、粒子線治療は先進医療技術としての見直しが求められ、治療体制の整備が進められたためだ。適切な文献収集による比較を行うこと(システマティックレビュー)や、キャンサーボードにおいて客観的な適応の判定を行うこと等が条件とされ、全例前向き登録や施設間差をなくすための施設条件の整備、さらに統一したプロトコルで治療することとなった。

 こうした体制整備の一環として、国内7施設の陽子線治療のデータがまとめられた(JROSG2016-R12)(Iwata et al. Cancer Med. 2017)。前立腺がん患者1291人において、グレード2の直腸障害は4%、グレード2の尿路系障害も4%だった。5年の生化学的非再発率は低リスク群で97.0%、中リスク群で91.0%、高リスク群で83.2%となった。またシステマティックレビューを実施し(Ishikawa H, et al. Int J Urol 2019; 26:971-979)、2018年4月には前立腺がんに対する陽子線治療が保険収載されるに至った。

 陽子線治療の臨床試験は現在、中リスク前立腺がんに焦点を絞って進められている。中リスク前立腺がん(T1c-T2cN0M0、PSA 10-20ng/mLまたはグリソンスコア7)患者200人を対象に、陽子線治療(63Gy/21回/5週)とホルモン治療(4-8カ月)を行い、PSA上昇で示される生化学的再発を評価する試験だ(PC001-01試験)。また「各治療法と比較する基礎のデータを作る」ため、前向きの試験として、全リスクの患者を対象にIMRTを施行した群(1000人)と、中リスクは陽子線治療との比較、高リスクは重粒子線治療との比較、あるいは小線源治療や外科療法との比較も計画されている。

 生活の質(QOL)については、IMRTよりも陽子線治療のほうが良いとする報告もあれば、変わらないとする報告もある。たとえばIMRTと陽子線治療における2年間のQOLを比較したところ、3カ月時は陽子線治療のQOLが良好だが、12カ月と24カ月では差がなかった(Gray PJ, et al. Cancer 2013)。そこで現在、IMRTと陽子線治療におけるQOLを比較する臨床試験(PARTIQoL試験)が行われている。低リスク・中リスク前立腺がん400人を対象に米国11施設で実施され、結果は2021年に報告される見込みだ。

 また有害事象を減らす試みとして、直腸と前立腺の間に「ハイドロゲルスペーサー」を留置して、直腸への照射を低減する方法が実施されている。IMRTでは「明らかに直腸障害を減らせる」ことが報告され(Karsh L, et al. Urology 2018など)、陽子線照射でも直腸への照射は半減することが確認されたことから、有害事象の高リスクの患者に限ってスペーサーを用いていると石川氏は話した。

 2018年の保険収載以降、前立腺がんに対する陽子線治療が増加している中、新たに陽子線治療を実施する施設との知識や技術の共有などの連携、さらに実地医療体制の整備としてインフォームドコンセントのマニュアル化やDVDの作成などを進めているとした。またこれまで米国からの報告が多かったが、日本放射線腫瘍学会(JASTRO)全体でOne Teamとしてエビデンスを発信していきたいと思っていると話した。


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