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レポート

2019/12/24

かながわ血液がんフォーラム 2

劇的に生存率が改善した多発性骨髄腫の治療法

福島安紀=医療ライター

 多発性骨髄腫は、私たちの体を守る働きをする形質細胞ががん化する病気。M蛋白という役に立たない物質が体内のさまざまな場所で増殖し、骨がもろくなって骨折したり、貧血や腎障害などの臓器障害を引き起こしたりする。どの年代でも発症するが60歳以上の高齢者に多く、近年、患者が増加している。
 NPO法人キャンサーネットジャパンが11月に、神奈川県横浜市で開催した「かながわ血液がんフォーラム」では、横浜市民病院血液内科診療科長の仲里朝周氏が移植非適用の患者の治療、神奈川県立がんセンター血液・腫瘍内科医長の高橋寛行氏が移植適用のある多発性骨髄腫の最新治療について講演した。その内容を紹介する。


移植非適用の患者も多剤併用療法で長期生存目指す

 多発性骨髄腫では、3剤か2剤併用導入化学療法を行った後、大量化学療法と自家末梢血幹細胞移植(以下、自家移植)を行うのが標準治療。ただし、一般的に、自家移植が受けられるのは、65歳未満で重篤な合併症がなく、心肺機能が正常な人だ。高齢者に多い病気であるため、65歳以上の移植非適用の患者が圧倒的に多い。

 「私が医師になった1990年代半ばには、多発性骨髄腫は不治の病でしたが、自家移植が受けられない移植非適用の患者さんでも、ボルテゾミブなどのプロテアーム阻害薬、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミドといった免疫抑制薬といった新規薬剤の登場で生存率が劇的に改善しています。高齢者の場合、年齢、合併疾患の有無、ADL(日常生活動作)によって薬の量を調整しつつ、ボルテゾミブやレナリドミドなどの新規薬剤を含む3剤、あるいは2剤併用薬物療法を行い、長期生存を目指します」。横浜市民病院血液内科診療科長の仲里朝周氏はこう解説した。

 症状が出ない段階で診断されることもあるが、多発性骨髄腫の場合、治療を始めるのは、高カルシウム血症(Hypercalcemia)、腎障害(Renal insufficiency)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion、)といったCRAB(クラブ)症状が出たときだ。典型的な4つの症状の頭文字(高カルシウム血症はCalcemiaのC)を取って、CRAB症状と呼ぶ。近年、下に示したような、進行するリスクが高いバイオマーカーに1つでも当てはまる場合には、2年以内に症候性骨髄腫に進行する可能性が高いため、治療の開始を検討するようになっている。

 ●進行するリスクが高い多発性骨髄腫のバイオマーカー

  1. 骨髄中の形質細胞比率が60%以上
  2. 血清遊離軽鎖(FLC、フリーライトチェーン)比が100以上
  3. MRIで2カ所以上の5mm以上の巣状骨病変あり



リスクの高い染色体異常の有無、心身の状態に合わせた個別化治療を

 『造血器腫瘍診療ガイドライン2018』(日本血液学会編)では、移植非適用の人の標準治療は、MPB(メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ)療法などの3剤併用療法かLd(レナリドミド+デキサメタゾン)などの2剤併用療法が推奨されている。

 「染色体検査で、17番染色体の欠失か、本来別々であるはずの14番と4番、あるいは、14番と16番がくっついている(転座)染色体異常があると、予後が悪いことが分かっているので治療を工夫する必要があります。高齢者の場合は、年齢、脆弱性、合併症のあるなしでだいぶ治療が変わってきます。一人ひとりの患者さんに合わせた個別化治療が重要です」

 仲里氏はそう強調し、80歳で骨髄腫の骨病変のために胸椎に圧迫骨折があり車椅子になっていた患者のケースを紹介した。圧迫骨折がある高齢者の場合、一般的には2剤併用療法を選択するが、その患者は病気になる前は1日平均5000歩くらい歩いており、既往症と認知機能低下はなかった。そこで、少し薬の量を減らしてボルテゾミブを含む3剤併用療法を4サイクル実施したという。治療によって骨髄腫による症状も改善し、歩けるようになったので、さらにサリドマイドを含む3剤併用療法を続けたところ完全奏効(CR)になり、5年以上経った現在も元気に過ごしているそうだ。

 近年、免疫調整薬のポマリドミド、プロテアソーム阻害薬のカルフィルゾミブやイキサゾミブ、抗体薬のダラツムマブ、HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害薬のパノビノスタットなど、多発性骨髄腫を適応症とする新しい薬が続々と承認されている。再発する度に、新しい薬による治療を受け、これまで通りの生活を続ける患者もいるという。

 ボルテゾミブは、発売当初は静脈注射で、手足のしびれなどの末梢神経障害の副作用が出やすかったが、皮下注射に変更されてからは副作用が減り使いやすくなった。サリドマイドとレナリドミドなどは血栓症を起こすリスクが高まるので、予防のために抗血小板薬や抗凝固薬を服用する。

 骨髄腫に対する治療自体がCRAB症状の改善につながるが、骨病変や高カルシウム血症の治療のために、ビスホスホネート製剤ゾレドロン酸の投与など、症状を軽減するための治療も重要になる。

移植が可能な患者は導入療法後、大量化学療法+自家移植が標準治療

 一方、65歳未満で併存疾患のない患者の場合は、BCD(ボルテゾミブ+シクロホスファミド+デキサメタゾン)療法など3剤併用か、レナリドミド+デキサメタゾンなどの2剤併用の導入療法の後、メルファラン大量化学療法+自家移植を行うのが標準治療だ。

 「移植適応骨髄腫の現状、課題、そして未来」と題して講演した神奈川県立がんセンター血液・腫瘍内科医長の高橋寛行氏は、大量化学療法+自家移植について、こう説明した。「限界を超えて大量の抗がん剤を投与することで骨髄をからっぽにし、あらかじめ採取し凍結しておいた患者さん自身の末梢血幹細胞を移植することによって骨髄機能を回復させる治療です。末梢血幹細胞移植は点滴で行います。移植をして、10~14日間くらいで骨髄機能が回復します」

 自家移植の後、地固め療法、あるいは維持療法と呼ばれる追加の治療をするかは、病院や医師によって意見が分かれるところだ。十分なデータがないため、原則として臨床試験で行うべき治療になっている。

 「骨髄腫は、現時点では治るとはお伝えできない病気です。そのため、ほとんどの患者さんが再発を経験します。再発するなら、一番いい治療は後に取っておきたいと考える人もいるかもしれませんが、再発したときの体の状態によっては強い治療ができなくなっていることもあり得ますから、最初に、その時点で最善の治療をすることが大切です。新規薬剤を組み合わせた治療をすることで、再発しても、長く自分らしい生活が送れるようになってきています」と高橋氏。

 再発治療は、高カルシウム血症の悪化、腎機能の異常、貧血の進行、新たな骨病変の出現、などCRAB症状が出てきた「臨床的再発」時点で開始されるのが一般的だ。ただし、最近では、2カ月以内の間隔で2回検査を行い、血液中や尿中のM蛋白が基準値より増え始めた「M蛋白再発」のうちから治療の開始を検討するようになってきている。

 すぐに再発したときには最初の治療とは別の薬を使った治療を行うが、10~12カ月経ってから再発した場合には、以前と同じ治療を繰り返す場合もある。18カ月以上経ってからの再発には、再度自家移植が検討される。最初に末梢血幹細胞の採取をするときには、できるだけ2回分の末梢血を採取して保存しておく。再発した際、ドナーの造血幹細胞を移植する同種移植が検討されることもあるが、骨髄腫の同種移植は死亡率が高いこともあり、研究的治療になっている。

免疫形質的完全奏効になれば治療を休止できるかは今後の課題

 高橋氏が、最近のトピックとして挙げたのが、免疫形質的完全奏効だ。感度の高い次世代フローサイトメトリーを使ってより深い奏効である免疫形質的完全奏効を測る検査が本年から保険適用になっている。フローサイトメトリーとは、細胞を一列に並べてレーザーの前を通過させ、細胞の大きさや構造、表面のたんぱくの有無を調べ、異常な細胞がどのくらい存在するかを細かいレベルで測定する検査だ。

 「これまで完全奏効とされていた段階では、発症時に1兆(10の12乗)個あった骨髄腫細胞が、1億(10の8乗)個になったくらいなので、治療をやめると再発してしまいます。免疫形質的完全奏効は1万(10の4乗)個以下とさらに深いレベルまで減っている状態です。今後は、慢性骨髄性白血病(CML)のように骨髄腫でも、フローサイトメトリーの検査で微小残病変(MRD)陰性になったら、治療を休止する期間が作れるのではないかということが期待されています」(高橋氏)

 現時点では、再発後は薬物療法を続けることになるが、患者の治療負担を軽減しQOLを改善しようとする動きもある。カルフィルゾミブは週2回連続投与だったが、1回の投与量を増やして週1回でも効果が変わらないことが米国の臨床試験で分かった。また、高橋氏によると、これまで1回あたり7~8時間かかっていたダラツムマブの皮下投与が、5分程度で済むようになった。

 「骨髄腫の治療と療養環境の整備については、医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士などがチームであなたをサポートします。仕事、家族、経済的なことも含めて生活全般の悩みを解決していくことが大事です。今後、現在再発・難治の骨髄腫が対象の新規薬剤が初期治療に使えるようになったり、現在治験中の薬が承認されるなど、さらに治療の選択肢が増えることが期待されます。骨髄腫になっても、一般の方と変わらない平均余命が期待できるようなところを我々としては目指していきたいです」と高橋氏は強調し、講演を締めくくった。


 このセッションでは、横浜を中心に活動する多発性骨髄腫患者・家族の交流会「はまっこ」の松浦典子氏が司会を務め、同会の紹介も行った。毎年5月には散歩&ランチ会、11月には多発性骨髄腫に対する理解を深めるためのセミナーを開催している。「仲間を作り、気持ちを分かち合うのが何よりの力になります」と松浦氏は語った。

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