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レポート

2019/12/03

日本放射線腫瘍学会第32回学術大会より

手術支援ロボットでPSA再発が減った前立腺がんの手術

術後の困りごとの尿失禁もより軽減

八倉巻尚子=医学ライター

 がんが前立腺の中にとどまっている限局性前立腺がんの治療には、手術療法や放射線療法が行われる。手術では手術支援ロボットを使った内視鏡手術が増え、放射線療法では放射線を正確にかつ集中して照射できる技術が進み、がんの制御だけでなく、排尿機能や男性機能への影響も少なくなってきた。
 11月に名古屋で行われた日本放射線腫瘍学会第32回学術大会のシンポジウム「前立腺癌各種治療法の特徴」では、手術療法と各種の放射線療法の現状について紹介された。
 第1回は、手術療法について、自治医科大学医学部腎泌尿器外科学講座泌尿器科学部門の藤村哲也氏の講演内容を紹介する。


 前立腺は膀胱と尿道の間に位置する臓器で、前立腺がんの手術(前立腺全摘除術)では前立腺と精嚢を取り、膀胱と尿道をつなぎ合わせる。前立腺の周囲には血管が多く走っているため出血しやすく、難しい手術の1つといわれていた。実際にこれまでの開腹手術や腹腔鏡下手術では大量の出血となる場合もあったと藤村氏は言う。

 2012年に「ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術」が保険診療として認められ、前立腺がんの手術に手術支援ロボット(ダヴィンチ)が導入された。手術支援ロボットは、「手ぶれがなく、拡大視野で見ることができる」(藤村氏)。さらに人間の手よりも広い可動域を持ち、540度回転する。そのため、確実に膀胱と尿道の吻合ができ、陰茎海綿体神経を温存して男性機能も維持できるという。

 海外では前立腺がんの治療において、がん制御、尿禁制、勃起機能維持という3つの目標があり、さらに切除断端陰性(切除の端にがん細胞が残っていない状態)と合併症なしを加えた5つの目標もある。症例数の多い海外の施設のデータでは3つの目標に対して8割、5つの目標に7割は到達しており、国内でもそれに「遜色ない結果が得られるようになっている」と藤村氏は話した。

 藤村氏らは、開腹手術による根治的前立腺摘除術(RRP)を行った490人とロボット支援前立腺全摘除術(RARP)を行った418人を比較した。その結果、切除の端にがん細胞が残っている割合(切除断端陽性率)がRRP群は44%、RARP群は21%で(Fujimura T, et al. BMC Cancer 2017;17:454)、「RARPによって切除断端陽性率が半分になった」。ステージ別では限局がん(pT2c)や被膜浸潤がん(pT3a)でも切除断端陽性率が有意に低くなっている。また前立腺は膀胱側から底部、中間部、尖部の3つに分けられるが、がんが起こりやすい尖部でも切除断端陽性率はRARPでは低くなった。

 がんがしっかり取れるようになったことで、RARP群ではPSA値が上昇した患者の割合(PSA再発率)が有意に減少した。単変量解析および多変量解析でも「PSA再発に関して、RARPはRRPに比べて有意に貢献していることが示された」。

 手術療法と放射線療法とを比較した研究も紹介された。2005年から2012年に治療を行った臨床病期T1-4N0M0の前立腺がん891人について、前立腺全摘除術の569人と放射線療法(外照射)の322人が比較された(Taguchi S, et al. PLoS One 2015; 10:e0141123)。手術療法は開腹手術、腹腔鏡下手術、RARPが実施された。放射線療法では、CT画像などを使ってがんの形や大きさに合わせて照射する三次元原体照射(3D-CRT)と、その進化版でがんに集中的に放射線を当てることができる強度変調放射線治療(IMRT)が行われた。

 患者背景を比較すると、放射線療法群のほうが年齢やPSA値の中央値が高かった。またPSAとグリーソンスコア、TNM分類を組み合わせたリスク分類(D’Amico分類)では高リスクの患者が放射線療法群で多く、ホルモン療法を受けた患者も放射線療法群で多かった。

 解析の結果、PSA再発は手術群が17.2%、放射線療法群が6.5%で、再発後はホルモン療法や手術群では放射線療法も行われていた。なおPSA再発は、手術群ではPSA値が0.2ng/mL以上、放射線療法群ではPSA最低値から2.0ng/mL以上の上昇と定義されている。全生存期間とがん特異的生存期間は、全体として手術群のほうが放射線療法群よりも良好で、特に「高リスクの患者では従来法の放射線療法群と比較して、手術療法群のがん特異的生存率が良好だった」。多変量解析でがん特異的生存に影響のある因子を調べた結果、治療手段(手術と外照射)で有意に異なることが示された。

 またIMRTの一種である強度変調回転放射線治療(VMAT)とRARPを比較した研究も存在する(Taguchi S, et al. Radiother Oncol. 2019; 140:62-67)。VMATを行った360人とRARPを行った500人において、放射線療法であるVMAT群のほうがD’Amicoリスク分類で高リスクの患者が多かった。またホルモン療法を受けた患者はRARP群では5%だが、VMAT群では62%と多かった。

 解析の結果、上述のPSA再発の定義に基づくと、PSA非再発生存期間はVMAT群のほうが良好だった。一方、画像上の無再発期間(rRFS)はRARP群のほうが良好だったが、単変量解析と多変量解析では治療手段による有意な違いは示されなかった。また全生存期間はRARP群のほうが良かったが、これは「放射線療法を行った患者では合併症のある人が多いため」であり、実際にVMAT群では癌ではなく他の原因での死亡が多かった。

 したがって手術療法と放射線療法の比較は、患者背景が異なるため、どちらが有効かは明らかでないが、手術は比較的若く高リスクの人に勧めることが多く、高齢者は放射線療法を行うことが多いという。なお、手術で起こりやすい副作用の1つである尿失禁について、RARPによる尿禁制(尿取りパッド20g、1日1枚以内)は、半数の人は術後2カ月で達成し、1年以降もパッド1日2枚以上の失禁が続く人は約1割だった(Fujimura T, et al. Neurourology Urodyn. 2019; 38:1067)。

 日常診療においては、限局性前立腺癌と診断された患者さんに、IMRTなどの放射線療法とRARPについて、治療内容や効果、副作用を説明し、入院の有無や排尿機能、男性機能への影響も記した一覧表を見せながら、患者さんに治療法を選択してもらっていると藤村氏は話した。

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