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レポート

2019/9/24

第27回日本乳癌学会学術総会より

乳がん治療中のホットフラッシュにどう取り組むか

食品や薬に加え精神・心理的なサポートも重要に

森下紀代美=医学ライター

 ホルモン受容体陽性乳がんに対して行われる内分泌療法では、女性ホルモンであるエストロゲンの血中濃度を低下させるため、副作用として更年期障害のような症状が多く発生する。通常の更年期障害であればホルモン補充療法(HRT)が行われることが多いが、乳がんの内分泌療法中の患者では他の治療選択肢を考えなければならない。
 7月に東京都で開催された第27回日本乳癌学会学術総会の日本乳癌学会・日本産科婦人科学会合同パネルディスカッション「乳がん専門医と生殖医療者 HRTと乳がんリスク 妊娠期の乳がんの倫理的問題」では、乳がん患者における妊孕性温存、妊娠期乳がんの倫理的な問題、更年期症状への対策やホルモン補充療法(HRT)の影響について、エキスパートが講演した。その様子を4回にわたり連載で紹介する。
 第3回は、徳島大学産科婦人科学分野講師の加藤剛志氏の講演「ホットフラッシュなどの更年期症状への対策」から。


HRT以外の選択肢に大豆イソフラボンと漢方薬

 ホルモン受容体陽性乳がんに対し、さまざまな内分泌療法が行われている。「乳癌診療ガイドライン 治療編 2018年版」では、例えば術後内分泌療法は、閉経前の女性には選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)のタモキシフェンやLH-RHアゴニスト、LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬の併用、閉経後の女性にはアロマターゼ阻害薬やタモキシフェン、SERMのトレミフェンなどが推奨されている。これらの薬は、5年間から10年間の長期にわたって投与される。

 内分泌療法は、化学療法と比べると副作用は軽度であるが、エストロゲンを抑制するため、エストロゲン分泌の低下に関連する症状が観察される。LH-RHアゴニストではホットフラッシュや関節痛、タモキシフェンではホットフラッシュなど、アロマターゼ阻害薬では関節痛やホットフラッシュ、骨粗鬆症などが問題とされている。

 加藤氏は、特にホットフラッシュに焦点を当て、乳がん治療中の対策について解説した。

 自然閉経した日本人女性で観察される症状としては、肩こりが最も多く、疲労感、頭痛が続き、ホットフラッシュは4位、発汗は6位と報告されている(JSOG 1997;49:433-39)。これらの更年期障害の症状への対策については、さまざまなガイドラインが出されている。

 一方、「乳癌診療ガイドライン 治療編 2018年」には「内分泌療法によるホットフラッシュに対して、ホルモン補充療法は行うべきではない」と記載されている。代わりの治療法(代替療法)については、「選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)などの薬物療法の有用性については、さらなる研究の蓄積が期待される」などの記載がある。

 HRT以外の治療法として、自然閉経した女性を主な対象とする「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編 2017」に提示されているのは、漢方薬と、ホットフラッシュに対する大豆イソフラボンだ。漢方薬では、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸が挙げられている。ただし、推奨度はいずれもC(実施すること等が考慮される)と低い。

 また北米閉経学会(NAMS)が挙げている非ホルモン療法による対策では、薬物療法ではSSRIの他、てんかんの治療に使用されるガバペンチン、神経障害性疼痛に使用されるプレガバリン、高血圧に使用されるクロニジンなどが推奨されている。

 保険診療となることなども含め、日本の実地臨床での使用の可能性を考えると、大豆イソフラボンと漢方薬が中心となる。

 このうち大豆イソフラボンの成分が食品として製品化されている(商品名:エクオール)。これは、大豆食品に含まれる大豆イソフラボンの成分、ダイゼインが腸内細菌によって代謝されたもの。エクオールの摂取量の目安は1日あたり10mgとされる。「エストロゲンと構造が非常に似ているため、類する効果が期待されている」と加藤氏は説明した。

 閉経後でホットフラッシュが1日1回以上ある女性160人を対象に、エクオールとプラセボを比較した日本のランダム化比較試験では、エクオールの摂取期間中はホットフラッシュの回数が有意に抑えられ、首や肩のこりも軽減したことが報告されている(J Womens Health 2012;21:92-100)。

 また、イソフラボンはエストロゲンと類似の作用があるとされるが、日本人の閉経後の女性を対象としたパイロット試験では、エクオールを摂取しても、血中のエストラジオール(エストロゲンの一種)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の濃度に大きな変化はみられず、乳がんの予後に影響しない可能性が示された(Menopause 2011;18:563-74)。

 「乳癌診療ガイドライン 疫学・診断編 2018年版」には、「大豆食品、大豆食品に含まれるイソフラボンの摂取が乳癌発症リスクを減少させる可能性がある」とする記載もある。ただし、イソフラボンにはエストロゲン作用があり、推奨される摂取量の上限が定められていることに留意する必要がある。加藤氏は「効かないからと倍量に増やしたりせず、通常量を摂取するよう、患者さんには指導しておく必要がある」と話した。

環境の変化によるストレスも症状に大きく影響

 また、加藤氏は「通常の更年期障害では、閉経によるホルモンの減少や消失に加え、その人の個性、周辺の環境因子によるストレスなどが複合し、さまざまな症状を起こしていると考えられる」と話した。

 50歳前後の女性は、子どもが巣立った喪失感、両親の介護、夫の状況の変化など、周辺を取り巻くさまざまなストレスがかかり、こうした要素も症状に影響する可能性がある。乳がん患者であれば、自分ががんになり、生命が脅かされる恐怖、家族や仕事、将来に与える影響や不安といった環境の変化が大きなウエートを占めると考えられる。

 自然閉経した日本人女性で観察される症状として、不眠やいらいら、抑うつ気分などは上位7位から11位の間にある(JSOG 1997;49:433-39)。

 加藤氏らの施設で行った検討では、HRTにより、ホットフラッシュや外陰部の掻痒感、乾燥などは約8割の患者で効果が得られたが、腰痛などの整形学的な症状への効果は2割未満、不眠やいらいら、抑うつ気分といった精神・心理学的な症状への効果は4割程度にとどまっていた。「HRTが全てに効くというわけではなく、症状の訴えの中には女性ホルモン値の低下とは異なる因子が多々含まれていると考えられる」と加藤氏は説明。HRTが効かなかったホットフラッシュの2割の患者にも、精神・心理学的なサポートが必要な可能性がある。

 精神・心理学的な症状に対し、漢方薬で効果が得られる可能性が示唆されている。「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編 2017」で提示されている3つの漢方薬のうち、加味逍遙散について、富山大学からの報告がある。この検討では、HRTで効果が得られない、または十分な改善が得られない女性45人に加味逍遙散を投与したところ、心理学的な症状や、頭痛やめまいなどの血管運動性症状が有意に改善した。効果が得られた患者では、投与前と比べて不眠や抑うつ症状が有意に改善したことがわかった(J Obstet Gynaecol Res 2013;39:223-28)。

 また動物実験では、卵巣を摘出して閉経の状態にしたマウスの恐怖に対する行動を観察し、一定濃度の加味逍遙散を投与することにより、恐怖に対する行動が有意に減少したことが示されている(J Pharmacol Sci. 2016;131:279-83)。

 加藤氏は「漢方薬は全般的にエビデンスが乏しい」とした上で、「何かを選ぶとしたら、これらの報告を拠り所として、加味逍遙散を選ぶこともよい選択かもしれない」とした。過去1カ月間の抑うつ症状から処方を考える、簡単なスクリーニングなども発表されている。

 今後、精神・心理学的なサポートに関する検討が進めば、SSRIも十分な根拠がある選択肢となる可能性がある。SSRIの中では、乳がんの治療に使用されるタモキシフェンの効果への影響が少ない可能性が示されているエスシタロプラムについて、ホットフラッシュの強さや頻度が減弱したとする報告がある(JAMA 2011;305:267-74)。他の選択肢も含め、治療の幅が広がることが期待される。

 さらにNAMSでは催眠療法なども示しているが、内容についての把握は困難で、日本ではほとんど行われていないとみられる。

 加藤氏は「何らかの精神的な拠り所があれば、症状が改善する可能性はある。診療の中で信頼関係を築き、話をするだけでも満足して帰っていただける患者さんもいる。その中で、エクオール、漢方薬、SSRIなどを試してみる価値があるのではないかと考える」と話した。

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