このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2019/9/17

第27回日本乳癌学会学術総会より

女性ホルモン補充療法は本当に乳がんリスクを上げるのか?

リスクは生活習慣や肥満、アルコール摂取と同等またはそれ以下

森下紀代美=医学ライター

 女性ホルモン補充療法(HRT)は、卵胞ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下した女性に対し、症状の緩和や疾患の予防のためにエストロゲンを補充する治療法である。更年期障害や骨粗鬆症などに対する効果が知られている一方で、乳がんのリスクへの懸念が長年持たれていた。しかし、これまでの研究から、HRTによる乳がんのリスクは低いことが明らかになってきており、悪影響を及ぼさないための新たな方法も登場している。
 7月に東京都で開催された第27回日本乳癌学会学術総会の日本乳癌学会・日本産科婦人科学会合同パネルディスカッション「乳がん専門医と生殖医療者 HRTと乳がんリスク 妊娠期の乳がんの倫理的問題」では、乳がん患者における妊孕性温存、妊娠期乳がんの倫理的な問題、更年期症状への対策やホルモン補充療法(HRT)の影響について、エキスパートが講演した。その様子を4回にわたり連載で紹介する。
 第2回は、東京歯科大学市川総合病院産婦人科教授の髙松潔氏の講演「女性ホルモン補充療法が乳がんリスクへ与える影響に関する誤解と真実」から。


HRTのさまざまな効果、死亡率低下の報告も

 HRTは、欧米では閉経期ホルモン療法(MHT)とも呼ばれ、子宮を摘出した女性にはエストロゲンのみ、子宮がある女性にはエストロゲンと黄体ホルモンを併用して投与する。エストロゲンは、ほぼ全身に分布する受容体と結合して作用する。

 HRTは、更年期障害、脂質異常症や骨粗鬆症、生活の質(QOL)の向上、さらにはコラーゲンの生成などにも関与することから、アンチエイジングにも効果があることが知られている。死亡のリスクを下げる効果についても報告があり、19のランダム化比較試験(RCT)の解析ではハザード比が0.73(95%CI:0.52-0.96)、さらに8の観察研究を加えた解析ではハザード比が0.72(95%CI:0.62-0.82)となり、死亡率が約3割低下することが示されている(Am J Med 2009;122:1016-22)。

 日本では、日本産科婦人科学会と日本女性医学学会が合同で「ホルモン補充療法ガイドライン」を作成し、2009年の発刊から改訂を重ね、現在2017年版があり、HRTの有用性と有害事象、HRTの実際などがまとめられている。現在日本では、経口剤、経皮剤(貼付剤とゲル剤)、経腟剤が使用できる。

HRTによる乳がんのリスクはフライドポテトと変わらない?

 効果の一方で、エストロゲンによるがんのリスクが懸念され、健常人を対象として検討が行われてきた。特に乳がんについては、米国の大規模前向き研究であるWomen’s Health Initiative(WHI)研究の中間解析の結果から、HRTの施行により、発生のリスクが高まると印象づけられることになった。この研究では、閉経後の子宮がある女性を対象に、エストロゲンと黄体ホルモンを投与したところ、大腸がんのリスクの低下や大腿骨頸部骨折の減少などの効果があった反面、乳がんのハザード比は1.26(95%信頼区間:1.00-1.59)となり、リスクが26%上昇する結果となった(JAMA 2002;288:321-33)。しかし、実は結果に影響を与える背景因子を調整すると、HRTによる乳がんのリスクの上昇に有意差はないことが明らかになっている。

 WHI研究では、子宮を摘出した女性に対するエストロゲン単独療法の検討も行われた。乳がんのハザード比は0.77(95%信頼区間:0.59-1.01)となり、リスクは23%低下した。ただし、有意差はなかった(JAMA 2004;291:1701-12)。

 一方、さまざまな因子が乳がんに与える影響も検討されている。米国の検討では、HRTによる乳がんのリスクは、フライドポテトを食べることと変わらず、夜勤、客室乗務員、長期間の電気毛布の使用などよりも低かった(Cancer J 2009;15:93-104)。また日本のJPHC研究では、アルコールを週に150g以上摂取した場合、乳がんのリスクのハザード比は1.75(95%信頼区間:1.16-2.65)となり、有意にリスクが上昇することが示された(Int J Cancer 2010;127:685-95)。アルコール150gはビールなら大びん5本に相当する。

 そうした中、2016年に、国際閉経学会(IMS)や北米閉経学会(NAMS)など、7つの国際的な学会が作成したコンセンサスの改訂版が発表された。「乳がんリスクに及ぼすHRTの影響はとても小さい」とするもので、1000人の女性に1年間HRTを行っても、乳がんが増加するのは1人未満で、生活習慣、肥満、アルコール摂取などの一般的な要因によるリスクの上昇と同等かそれ以下と明記している(Climacteric 2016;19:313-5)。

リスクとの関連は合成黄体ホルモンと長期施行で大きい

 乳がんのリスクへの影響は、エストロゲンよりも、子宮がある女性に併用される合成黄体ホルモンで大きく、施行期間も関係することがわかってきている。実際に、子宮を摘出した女性に行われるエストロゲン単独療法では、リスクの有意な上昇はないことがメタ解析から示されている(Gynecol Endocrinol 2017;33:87-92)。

 ただし、エストロゲン単独療法でも、使用期間が長期になるとリスクは上昇する。米国の看護師を対象とした前向き研究Nurses’ Health Studyでは、20年を超えて使用した場合に初めてリスクが有意に上昇した(Arch Intern Med 2006;166:1027-32)。ただし、実際には20年を超えてエストロゲンが使われることはあまりない。

 また、HRTを行ってリスクが上がったとしても、中止すれば元に戻ることもわかっている。英国の大規模コホート研究では、HRTの中止後2年間はまだリスクが高いが、その後はHRTを行っていない女性と同様のリスクに戻ることが示された(J Natl Caner Inst 2011;103:296-305)。髙松氏は「目の前にHRTを考えている方がいて、でも乳がんが心配だという場合に、中止すれば元に戻りますよと言える、背中を押す良いデータと考えている」と話した。

 ただし、これらの検討はいずれも健常人で行われたもので、乳がんサバイバーを対象としたものではないことに注意が必要だ。乳がんサバイバーでは、原則としてHRTは禁忌とされている。

 HRTと乳がんリスクの検討は、日本人の対象でも行われてきた。2008年に発表された症例対照研究(Int J Clin 2008;13:8-11)では、乳がんの起こりやすさを示すオッズ比は0.432(95%信頼区間:0.352-0.53)となり、リスクが有意に低下したことが示された。その他の日本のコホート研究でも、HRTにより乳がんのリスクが上昇するというデータは出ていない。

 これらの結果から、ホルモン補充療法ガイドラインの2017年版においても、「乳癌リスクに及ぼすHRTの影響は小さい」と記載されている。日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン 疫学・診断編 2018年版」でも、「有子宮女性への合成黄体ホルモンを用いたエストロゲン+黄体ホルモン併用療法では、長期投与により乳癌発症リスクを増加させる」、「子宮摘出後女性へのエストロゲン単独療法では、短期投与においては乳癌発症リスクは増加しない」とされている。

 さらに、乳がんのリスクが高いとされるBRCA遺伝子変異陽性の女性においても、予防的卵管卵巣摘出術(RRSO)を行った後にHRTを行った女性を対象としたメタ解析から、乳がんのリスクの有意な上昇はないことが示されている。

乳がんリスクを減らすためのHRTの新たな方法も導入

 最近では、乳がんのリスクを下げる、またはリスクを上げないHRTの方法も考案されている。1つは、エストロゲンの種類を考慮することである。結合型エストロゲンは妊娠した馬の尿から作られており、代謝物が多く含まれるため、発がん物質も含まれる可能性が指摘されている。結合型エストロゲンに替えて、体内に存在し、エストロゲン活性が最も高い17β-エストラジオール(17β-E2)製剤も臨床導入されている。

 スウェーデンの前向きコホート研究では、乳がんのオッズ比は結合型エストロゲンで4.47(95%信頼区間:2.67-7.48)、17β-E2で1.12(95%信頼区間:1.04-1.20)となり、結合型エストロゲンで有意なリスクの上昇が示唆されている(Ann Oncol 2018;29:1771-76)

 また、経口剤よりも経皮剤のほうがリスクは低いと考えられる報告もある。経口剤は吸収された後、肝臓で代謝され、代謝物が影響すると考えられるためである。ただし、経皮剤のデータは17β-E2のみであるのに対し、経口剤のデータには結合型エストロゲンのデータが含まれていることも考慮する必要がある。

 さらに従来の合成黄体ホルモンで上昇するリスクが、天然型プロゲステロンでは認められないことから、欧米では天然型プロゲステロンが多く用いられている。日本では天然型プロゲステロンがいまだ承認されておらず、現在治験が進行中であるため、立体異性体であるジドロゲステロンの使用が増えている。

 黄体ホルモンの代わりに、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)を使う方法も行われ始めている。乳がんの内分泌療法で使用されるタモキシフェンもSERMの1つである。エストロゲンとSERMを組み合わせることにより、それぞれの利点を高め、欠点を補うことが期待されている。この併用による乳がんのリスクの上昇はないことも報告されている。

 エストロゲンの低下は女性の心身にさまざまな変化をもたらす。それに対し、最も有効な方法がHRTである。髙松氏は「HRTは乳がんのリスクが懸念されてきたが、そのリスクは生活習慣や肥満、アルコールの摂取と変わらないか、それよりも低いことが明らかになっている。乳がんのリスクを上げない新たな方法も導入されてきていることも理解し、遠慮なく婦人科医に相談していただきたい」と話した。

この記事を友達に伝える印刷用ページ