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レポート

2019/08/20

第27回日本乳癌学会学術総会より

新たな分子標的薬の登場で変わるホルモン受容体陽性乳がんの治療

高い効果を示したCDK4/6阻害薬、PARP阻害薬が使用可能に

森下紀代美=医学ライター

 転移・再発乳がんの治療法が進歩し、新規薬剤が次々に登場したことにより、予後の改善が期待できるようになった。そうした薬剤の1つが分子標的薬である。
 7月に東京都で開催された第27回日本乳癌学会学術総会の教育セミナーでは、国立がん研究センター東病院先端医療科/乳腺・腫瘍内科の内藤陽一氏が「乳がんの薬物療法―分子標的薬」と題して講演した。内藤氏は「乳癌診療ガイドライン治療編2018年版」の作成委員を務めており、現時点でのガイドラインの推奨とエビデンスとなったデータを紹介した。
 なおガイドラインは現在改訂作業中で、改訂された内容は今後、日本乳癌学会のホームページに掲載される。
 講演の様子を前回に続いて紹介する。今回はホルモン受容体陽性乳がんの治療について。


閉経前のホルモン受容体陽性転移・再発乳がんでは2次治療から分子標的薬

 ホルモン受容体陽性乳がんに対しても、転移・再発の治療には分子標的薬が使用される。最近多く使用されるようになってきたのがCDK4/6阻害薬で、日本ではパルボシクリブとアベマシクリブの2剤が使用できる。もう1剤のribociclibは日本では承認されていない。

 ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに対する1次治療として、さまざまな分子標的薬の臨床試験が行われてきた。なお、1次治療でCDK4/6阻害薬の追加を検討した第III相試験の対象は、ribociclibのMONALEESA-7試験を除き、基本的には閉経後の患者である。

 まず、閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに対する1次治療。閉経前の患者では、LH-RHアゴニストや両側卵巣摘出術で卵巣機能を抑制し、タモキシフェンを併用することが強く推奨されている。分子標的薬の推奨はまだない。

 閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに分子標的薬を使用するのは2次治療からで、LH-RHアゴニスト+パルボシクリブの併用療法が弱く推奨されている。内藤氏によると、ガイドラインのこの部分は、パルボシクリブ限定ではなく、CDK4/6阻害薬と今後改訂される可能性がある。

閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんの1次治療では3つの強い推奨

 次に、閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに対する1次治療である。推奨は3つで、いずれも強い推奨として、アロマターゼ阻害薬単剤、アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬、選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーターのフルベストラント単剤が並ぶ。

 1次治療におけるCDK4/6阻害薬のエビデンスの1つとなったのは、アロマターゼ阻害薬のレトロゾールにパルボシクリブを加え、レトロゾール+プラセボと比較するPALOMA-2試験である。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)は、中央値がレトロゾール+パルボシクリブで24.8カ月、レトロゾール+プラセボで14.5カ月、ハザード比0.58(95%信頼区間:0.46-0.72、p<0.001)となり、パルボシクリブの追加で大きな差が開いた。レトロゾール+パルボシクリブの主な有害事象は好中球減少症で、脱毛、疲労、口内炎なども観察されたが、パルボシクリブを追加してもQOL(生活の質)は変わらないことが確認されている(N Engl J Med. 2016;375:1925-36)。

 もう1つのCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブについては、アロマターゼ阻害薬(アナストロゾールまたはレトロゾール)にアベマシクリブを加え、アロマターゼ阻害薬+プラセボと比較したMONARCH 3試験がエビデンスとなった。主要評価項目のPFSは、中央値がアロマターゼ阻害薬+アベマシクリブで未到達、アロマターゼ阻害薬+プラセボで14.7カ月、ハザード比0.54(95%信頼区間:0.41-0.71、p=0.000021)となり、アベマシクリブの追加により大きく延長した。アロマターゼ阻害薬+アベマシクリブの主な有害事象は下痢で、好中球減少症もみられたがパルボシクリブと比べると比較的少なく、疲労はやや増加した(J Clin Oncol 2017;35(32):3638-46)。

 また、分子標的薬ではないが、1次治療ではフルベストラントも強く推奨されている。エビデンスとなったのが、フルベストラントとアナストロゾールを比較したFALCON試験である。主要評価項目のPFSは、中央値がフルベストラントで16.6カ月、アナストロゾールで13.8カ月、ハザード比0.797(95%信頼区間:0.637-0.999、p=0.0486)となった(Lancet 2016;388(10063):2997-3005)。

 内藤氏は、「CDK4/6阻害薬はアロマターゼ阻害薬への上乗せで大きな有意差を示したが、フルベストラントは1対1の直接比較で有意差を示したこと」にも注意すべきとした。これらの試験の結果から、現在の閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに対する1次治療は、3つの推奨となっている。

閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんの2次治療

 閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに対する2次治療には、複数の選択肢があり、強く推奨されているのは、フルベストラント+CDK4/6阻害薬、フルベストラント単剤で、アロマターゼ阻害薬のエキセメスタンとエベロリムスの併用は弱く推奨されている。

 2次治療におけるCDK4/6阻害薬のエビデンスの1つは、フルベストラントとパルボシクリブの併用をフルベストラント+プラセボと比較したPALOMA-3試験である。対象は、1次治療で内分泌療法としてアロマターゼ阻害薬やタモキシフェンを投与し、CDK4/6阻害薬は使用していない患者だった。主要評価項目のPFSは、中央値がフルベストラント+パルボシクリブで11.2カ月、フルベストラント+プラセボで4.6カ月、ハザード比0.497(95%信頼区間:0.398-0.620、p<0.000001)となり、パルボシクリブの追加により大きく延長した(N Engl J Med 2015;373(3):209-19)。この試験では、2次治療でパルボシクリブを使用することにより、QOLが改善したことも確認されている。

 もう1つのCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブについても、MONARCH 2試験でPFSの延長が示された。対象は、1次治療の内分泌療法で病勢進行を認めた患者。PFSは、中央値がフルベストラント+アベマシクリブで16.4カ月、フルベストラント+プラセボで9.3カ月、ハザード比0.553(95%信頼区間:0.449-0.681、p<0.001)となり、アベマシクリブの追加により大きく延長した(J Clin Oncol 2017;35(25):2875-84)。

 エキセメスタン+エベロリムスの併用療法については、BOLERO-2試験でエキセメスタン単剤との比較が行われ、PFSはエベロリムスを追加することで大きく延長したことが報告された。全生存期間(OS)はエベロリムスの追加で延長する傾向がみられたが、有意差はなく、また有害事象が考慮され、弱い推奨となった。

 なお、閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに対する3次治療は、1次治療と2次治療でCDK4/6阻害薬が使用されていない場合に、フルベストラント+CDK4/6阻害薬が弱く推奨されている。エキセメスタン+エベロリムスも弱く推奨となっている。

CDK4/6阻害薬の試験のOSを見る際は注意を

 ガイドラインに記載のない部分ではあるが、内藤氏はCDK4/6阻害薬のOSの考え方についても説明した。

 これまで紹介されたCDK4/6阻害薬のエビデンスとなった試験では、主要評価項目はPFSだった。2次治療でフルベストラント+パルボシクリブを評価したPALOMA-3試験ではOSが報告され、中央値は34.9カ月、フルベストラント+プラセボで28.0カ月となり、6.9カ月の差が開いたが、ハザード比は0.81(95%信頼区間:0.64-1.03、p=0.09)となり、有意差には至らなかった(N Engl J Med. 2018;379(20):1926-36)。ただし、この試験のプロトコールでは、PFSを検出するために症例数が設定されており、「OSが延長するかどうかをみるには検出力が不足していたと考えたほうがいい」と内藤氏は指摘した。

 1次治療としてのCDK4/6阻害薬のOSについては、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でribociclibを検討したMONALEESA-7試験から報告があった。

 ribociclibは日本では使用できないこと、閉経前の患者が対象、併用薬はタモキシフェンまたは非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(レトロゾールまたはアナストロゾール)であるなど、これまでの試験とは異なる点はあるものの、PFSでハザード比0.55(95%信頼区間:0.44-0.69、p<0.0001)と大きな差が得られた(Lancet Oncol. 2018;19(7):904-15)。さらにOS中央値は、タモキシフェン/非アロマターゼ阻害薬+ribociclibで評価不能(NE)、タモキシフェン/非アロマターゼ阻害薬+プラセボで40.9カ月、ハザード比0.71(95%信頼区間:0.54-0.95、p=0.00973)となり、ribociclibの追加により有意な延長が示された(N Engl J Med 2019;381:307-16)。

 内藤氏は統計の専門家の検討も紹介し(NPJ Breast Cancer. 2018;4:14)、CDK4/6阻害薬の試験で生存の改善が示されるかどうかは、各試験の検出力不足などが関与するため、薬剤ごとの効果の違いであるよりも、偶然によりばらつく可能性があることを指摘した。内藤氏は「今後、試験の結果が揃った時にメタアナリシスをして、その結果を参考にすべきと考える」と話した。

 日本では1次治療からCDK4/6阻害薬2剤が使用可能になり、その使い分けについて、内藤氏は「効果は同等と考えられることから、有害事象で考えて行っている」と話した。主な有害事象は、パルボシクリブでは好中球減少症、アベマシクリブは下痢や疲労などである。

PARP阻害薬のオラパリブも使用可能に

 乳がんの治療で使用される分子標的薬には、他にもベバシズマブがある。HER2陰性転移・再発乳がんに対する1次・2次治療として、化学療法にベバシズマブを併用することが弱く推奨されている。メタアナリシスから、PFSが延長することが示されたことが根拠となっているが、ベバシズマブの追加によるOSの延長は示されていない。

 最近新たに使用可能となったのが、PARP阻害薬のオラパリブだ。オラパリブは卵巣がんの治療ですでに使用されており、乳がんの治療では、BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんに対し、2018年7月に適応追加が承認された。なお、現在のガイドラインはオラパリブ承認前に作成されており、改訂で情報が更新される予定である。

 オラパリブのエビデンスとなったのが、医師の選択する化学療法と比較したOlympiAD試験である。対象は、生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異陽性、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性またはトリプルネガティブで、2レジメンまでの化学療法歴がある患者だった。主要評価項目のPFSは、中央値がオラパリブで7.0カ月、化学療法で4.2カ月、ハザード比0.58(95%信頼区間:0.43-0.80、p=0.0009)となり、オラパリブで有意に延長した(N Engl J Med. 2017;377:523-33)。

 内藤氏は「現在、HER2陽性乳がんには4つの薬剤、ホルモン受容体陽性乳がんには3つの薬剤、HER2陰性乳がんにはベバシズマブ、生殖細胞系列BRCA遺伝子変異陽性乳がんにはオラパリブが使用できる。乳癌診療ガイドラインは現在改訂中のため、最新の情報も必ず見ていただきたい」と話した。

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