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レポート

2019/08/13

第27回日本乳癌学会学術総会より

抗HER2薬でHER2陽性乳がんの予後はどう変わるのか?

周術期から3次治療までエビデンスにより使い分ける

森下紀代美=医学ライター

 転移・再発乳がんの治療法が進歩し、新規薬剤が次々に登場したことにより、予後の改善が期待できるようになった。そうした薬剤の1つが分子標的薬である。
 7月に東京都で開催された第27回日本乳癌学会学術総会の教育セミナーでは、国立がん研究センター東病院先端医療科/乳腺・腫瘍内科の内藤陽一氏が「乳がんの薬物療法―分子標的薬」と題して講演した。内藤氏は「乳癌診療ガイドライン 治療編 2018年版」の作成委員を務めており、現時点でのガイドラインの推奨とエビデンスとなったデータを紹介した。
 なおガイドラインは現在改訂作業中で、改訂された内容は今後、日本乳癌学会のホームページに掲載される。
 講演の様子を2回にわたり紹介する。今回はHER2陽性乳がんに対する分子標的治療について。


HER2陽性乳がんに使用されるのは4剤

 乳がんに使用される代表的な分子標的薬の1つが抗HER2薬である。現在日本では、抗体治療薬のトラスツズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)、小分子化合物のラパチニブの計4剤がHER2陽性乳がんに使用できる。いずれも転移・再発乳がんに使用されるが、トラスツズマブとペルツズマブは早期乳がんの術前・術後の治療(周術期治療)でも使用される。

 まず、抗HER2薬による周術期治療について。手術可能なHER2陽性の浸潤性乳がんに対して、術前化学療法にトラスツズマブを併用することが強く推奨されている。根拠は病理学的完全奏効(pCR)率が上昇することで、4つのランダム化比較試験(RCT)と、これらの試験をまとめて解析したメタアナリシスでも、トラスツズマブの併用により有意にpCR率が改善することが示された。

 トラスツズマブは、HER2陽性原発乳がんに対する術後化学療法との併用も強く推奨されている。数千例規模の大規模なRCTから小規模試験まで、複数の検討が行われ、メタアナリシスで全生存期間(OS)を延長することが示された。

 重要な課題として注目されているのが、「HER2陽性乳がんの周術期治療として、化学療法+トラスツズマブにペルツズマブを併用することが推奨されるか」だ。ガイドラインではフューチャーリサーチクエスション(FQ)1)ではあるが、再発リスクの高い症例でペルツズマブ併用療法の有用性が示された。ただし、OSの延長効果は現時点では明らかになっていない。

 ペルツズマブの術前治療については、ガイドラインにはpCR率の改善が期待できるとコメントされている。一方、術後治療については、第III相のRCTであるAPHINITY試験で検証された。対象は、HER2陽性の再発リスクが高い早期乳がん患者で、具体的にはリンパ節転移陽性、またはリンパ節転移陰性で腫瘍径が1cmを超える場合、腫瘍径が1cm未満で組織学的/核グレードが3点、ホルモン受容体陰性、35歳未満のうち1つ以上を満たす場合とされた。

 主要評価項目である浸潤性疾患のない生存期間(IDFS)は、化学療法+トラスツズマブにペルツズマブを併用する群(ペルツズマブ群)はプラセボを併用する群と比べて、ハザード比0.81(95%信頼区間:0.66-1.00、p=0.045)となり、有意に改善した(N Engl J Med. 2017;377:122-31)。この結果に基づき、ペルツズマブは転移・再発乳がんだけでなく、HER2陽性乳がん全体に適応が拡大された。ただし再発リスクの低い患者では、有効性と安全性が確立していないため対象とはならない。

1)FQ:クリニカルクエスチョン(CQ)として取り上げるにはデータが不足しているが、今後の重要な課題と考えられるCQについて、現状の考え方を説明している。(乳癌診療ガイドライン 治療編 2018年版)

HER2陽性転移・再発乳がんに対する1次治療、推奨は3つ

 次に、HER2陽性の転移・再発乳がんに対する1次治療である。現在の推奨は3つで、強く推奨されているのがトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルの3剤併用療法、弱く推奨されているのがトラスツズマブ+化学療法、トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)だ。

 トラスツズマブ+化学療法が化学療法よりもOSを有意に延長することは、2001年に最初に報告された。(N Engl J Med. 2001;344:783-92)。トラスツズマブ+ドセタキセルにペルツズマブを加えて評価したCLEOPATRA試験では、予後がさらに延長し、OS中央値はペルツズマブを追加した群で56.5カ月、トラスツズマブ+ドセタキセルの群で40.8カ月、ハザード比0.68(95%信頼区間:0.56-0.84、p<0.001)となった(N Engl J Med. 2015 ;372(8):724-34)。この結果に基づき、3剤併用療法が1次治療として最も強い推奨となっている。

 もう1つの推奨であるT-DM1については、MARIANNE試験において、対照をトラスツズマブ+ドセタキセルとして、T-DM1+プラセボ、T-DM1+ペルツズマブの3群を比較した。T-DM1+プラセボは、対照と比べて無増悪生存期間(PFS)のハザード比が0.91(95%信頼区間:0.73-1.33)となり、劣らないことが証明された。一方、T-DM1+ペルツズマブは、対照であるT-DM1単剤を有意に上回ることができなかった。これらの結果から、T-DM1はHER2の転移・再発乳がんに対する1次治療では弱い推奨となった(J Clin Oncol. 2017;35(2):141-8)。

HER2陽性転移・再発乳がんの2次治療ではT-DM1を強く推奨

 続いて、HER2陽性転移・再発乳がんに対する2次治療である。トラスツズマブ投与中または投与後に病勢進行となった患者に対し、最も強く推奨されているのがT-DM1、弱く推奨されているのがトラスツズマブ+化学療法である。一方、ラパチニブ+カペシタビンは、行わないことを弱く推奨されている。

 T-DM1を強く推奨し、ラパチニブ+カペシタビンを行わないことを弱く推奨するエビデンスとなったのが、EMILIA試験だ。この試験では、トラスツズマブ+タキサン系薬剤で治療した進行・再発乳がん患者を対象に、T-DM1とラパチニブ+カペシタビンを比較した。

 OS中央値はT-DM1で30.9カ月、ラパチニブ+カペシタビンで25.1カ月、ハザード比0.682(95%信頼区間:0.548-0.849、p=0.0006)となり、T-DM1で有意に延長した(N Engl J Med. 2012;367:1783-91)。

HER2陽性転移・再発乳がんの3次治療は?

 2次治療が終わった後の3次治療をどうするかも課題である。2次治療でT-DM1が使用されていない場合はT-DM1が弱く推奨され、それ以外の場合はトラスツズマブやラパチニブなどの抗HER2薬を継続することが弱く推奨されている。

 T-DM1については、進行乳がんに対し2種類以上の治療を行った患者を対象に、担当医が選択した治療と比較したTH3RESA試験がある。中間解析では、OS中央値はT-DM1で評価不能(NE)、医師が選択した治療で14.9カ月、ハザード比は0.552(95%信頼区間:0.369-0.826、p<0.0034)となり、T-DM1で有意な延長が示された(Lancet Oncol. 2014;15(7):689-99)。この試験では、T-DM1を投与していない患者が対象であったため、そうした対象には3次治療以降でT-DM1を使用することが推奨されることとなった。

 抗HER2薬の継続については、3次治療で検討した試験が複数ある。ただし、ペルツズマブのエビデンスは1次治療のみで、2次治療以降のエビデンスはないことに注意が必要だ。

化学療法の適応とならない場合の治療は?

 最後に、化学療法の適応とならないホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳がん、すなわちトリプルポジティブ乳がんの患者に対し、内分泌療法単独か、抗HER2療法と内分泌療法を併用するかである。

 内藤氏は「ガイドラインとしては、化学療法が行える場合は抗HER2薬+化学療法の併用療法が基本」としたうえで、化学療法の適応とならない場合に限り、抗HER2薬と内分泌療法の併用を行うことが弱く推奨されるとした。一方、内分泌療法単独は行わないことが弱く推奨されている。

 エビデンスとなったのは、ホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳がんの閉経後の女性を対象とした複数の臨床試験で、内分泌療法単独と比べて、抗HER2薬+内分泌療法でPFSが良好であった。また、ペルツズマブ+トラスツズマブ+アロマターゼ阻害薬を評価したPERTAIN試験では、良好なPFSが報告されたが、対象の約6割が導入化学療法を受けているため、解釈には注意が必要になる。

 内藤氏は「2015年版のガイドラインでは、内分泌療法単独を考慮してもよいとされていたが、2018年版ではエビデンスに基づいて行うべきではないと改訂された」と説明。現在のガイドラインでは、ホルモン受容体陽性・HER2陽性転移・再発乳がんの患者には、内分泌療法単独は適切な治療ではないと位置づけられたことになる。

 後編では、CDK4/6阻害薬について紹介する。

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