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レポート

2019/7/2

愛知県がんセンター公開講座より

食道がん手術を乗り越えるために

早い回復のために体を動かすことが大切

八倉巻尚子=医学ライター

 食道は首から胸、腹部までつながる消化管であり、食道がんの手術はほかのがんの手術と比べても体への負担は大きいといわれる。その手術を乗り越えて、日常生活に早く戻るためには、手術前から、そして手術後も体を動かすことが大切だ。
 5月に開催された愛知県がんセンター公開講座「もっと知ってほしいがんロコモ!」で、愛知県がんセンター消化器外科の檜垣栄治氏が食道がん手術前後のリハビリテーションの重要性を、リハビリテーション部の伊藤敬太氏が実際のリハビリテーションについて紹介した。


檜垣栄治 氏

 「食道がんの手術は、頸部、胸部、腹部の3領域と、周囲のリンパ節を切除する大きな手術です」と檜垣氏は説明する。食道の切除に加え、胃や腸を使って消化管を再建するため手術時間も長い。また「残念ながら食道がん手術を受けても自宅に帰れない人もいます」。食道がんで食道切除が行われた713病院5354人の日本人データで、在院死亡率は3.4%だった(Annals of Surgery 2014)。

 では手術後にどのようなことが起こるのか。多いのは感染性の合併症で、その場合の死亡率も高いという。愛知県がんセンターのデータ(508人)では、食道がん手術の合併症として肺炎は2割に起こっていた。また手術時間は8時間弱に及んでいた。

 このような大きな手術である食道がん手術を乗り越えるために、手術前後のリハビリテーション(以下、リハビリ)は重要で、術後早期から動くことができるように、傷を小さくする手術と、薬による痛みのコントロールも大切だという。

手術前後のリハビリテーションの重要性

 まず手術前のリハビリに関連して、手術前の日常生活での活動量と手術後の呼吸器合併症との関係を調べた研究がある。それによると、呼吸器合併症が起こらなかった患者は、起こった患者に比べ、軽い運動や早歩き程度の中等度の運動をしている時間が長かった(Diseases of the Esophagus 2011)。「体を動かしてきた人は、食道がんになったとしても合併症なく乗り越えることが多いのではないかというデータです」と檜垣氏は言う。

 また食道がんの診断を受けてから手術までの間にリハビリをした人は、リハビリをしなかった人に比べて、手術直前の6分間の歩行距離は長く、運動能力が上がっていた(JAMA Surgery 2018)。術後の運動能力も、リハビリをしなかった人は大きく低下したが、リハビリをした人ではあまり下がっていなかった。しかもリハビリをした人は術後合併症も少なかった。術前のリハビリは週に3-4回、エアロビクスや歩行、ジョギング、サイクリング、さらに食事指導が行われていた。

 手術後の早期回復のため、「イーラス(ERAS:Enhanced recovery after surgery)」と呼ばれる国際的なガイドラインがある(World Journal of Surgery 2019)。このガイドラインは「理論的に有効性が証明されたもののみで構成され」、この中で術前のリハビリは、メリットがある可能性があるとされている(推奨度は中)。手術後のリハビリに関しては、術後はできるだけ早期に動くことが強く推奨され(推奨度は強)、毎日の目標を設定して、決められた通りに動くことが勧められている。

 同センターでは、手術の前後に理学療法士によるリハビリを行なっている。術前に複式呼吸や万歩計を使っての運動指導、手術の翌日から歩行を開始し、回復してきた6日目以降はトレッドミルという歩行訓練器具を使って動くようにする。食道がん手術を受ける患者さんには「日めくりパス」という冊子を渡す。冊子には朝6時から夜寝るまで、毎日その日にやるべきことが書かれているという。

 「毎日目標を持ってやることが大事で、手術後の頑張りが結果に結びつきます」と檜垣氏。「食道がん手術はとても大変な手術です。傷が大きいのですが、手術前から手術翌日、さらに社会復帰まで継続して体を動かすということが重要です」と檜垣氏は話した。

小さい傷の胸腔鏡手術と薬による痛みのコントロール

 術後早期に動けるようにするために、「小さい傷ですむような努力もしています」と檜垣氏は言う。食道がんの手術は、がんの場所によって手術方法は違うが、胸を大きく切開する手術が標準的に行われる。しかし最近では早期がんに対して「1.5cmくらいの穴を6個開けるだけの」胸腔鏡手術が行われることが多くなってきた。同センターのデータでは、出血量は開胸手術の半分ですみ、在院日数は3日ほど短縮した。重症肺炎の割合も半分になり、「小さい傷にすることで呼吸器管理を必要とする重症肺炎が抑えられているのではないかと考えています」。

 食道がん手術は首、胸、腹の3領域に傷ができるため、術後の痛みも強い。その痛みを取るために同センターでは、相乗的な鎮痛作用を期待して作用機序が異なる3種類の薬剤を併用する。脊髄の神経に作用する硬膜外麻酔と、点滴の痛み止め(1日4回のアセトアミノフェン)、麻薬性鎮痛薬の持続静注(フェンタニル)を退院まで行う。患者さんが痛いかどうかは看護師が常に確認し、痛みの強さに合わせて医師が薬の量を調整する。痛みの強さは、痛みなしを0、耐えられない痛みを100としたスケール表を使って評価する。「3剤併用の痛み管理によって、ある程度痛みを抑えることで、リハビリを積極的に行うことができます」と檜垣氏は話した。

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