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レポート

2019/5/21

第59回日本呼吸器学会学術講演会より

肺がんの標準治療を正しく理解してほしい

長期的な視点での治療の選択が重要に

森下紀代美=医学ライター

 肺がんの薬物療法は急速に進歩している。画期的な医薬品が次々に登場し、標準治療には複数の選択肢が並び、複雑化している。選択肢の中には、直接比較が行われておらず、どちらがその患者にとって良いのか、判断が難しいものもある。そうした状況の中で、医師は個々の患者に最適な治療を選択する努力をしている。

 4月に東京都で開催された第59回日本呼吸器学会学術講演会では、神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長の加藤晃史氏が「免疫チェックポイント阻害薬・分子標的治療薬のちから」と題した講演を行い、肺がんの現在の標準治療と今後の課題について解説した。


肺がん治療を大きく変えた分子標的薬

 現在、IV期の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療では、ドライバー遺伝子(発がんやがんの増殖に直接重要な役割を持つ遺伝子)変異を検査し、陽性の場合は分子標的薬を選択する。陰性の場合はPD-L1(がん細胞表面に発現している免疫に関係する分子)を検査する。PD-L1が陽性の細胞(PD-L1陽性細胞)が50%以上ある場合は、免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法、または化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法、PD-L1陽性細胞が50%未満の場合は、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が推奨されている。

 化学療法薬と分子標的薬ががん細胞を直接標的とするのに対し、免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞ではなくリンパ球に作用するという大きな違いがある。

 加藤氏はまず、分子標的薬について説明した。現在、主なドライバー遺伝子であるEGFR、ALK、ROS1、BRAFの変異に対し、それぞれにキナーゼ阻害薬(TKI)が承認されている。

 ドライバー遺伝子変異の中で、日本人に最も多いのはEGFR遺伝子変異で、50%を占めるとされる。その中でも、エクソン19の欠失変異とエクソン21のL858R点突然変異が最も多い(エクソンとは遺伝子を構成する部分のこと)。これらの変異に対する阻害薬(EGFR-TKI)として、第1世代のEGFR-TKIのゲフィチニブ、エルロチニブ、第2世代のアファチニブ、ダコミチニブ、第3世代のオシメルチニブがあり、それぞれ前の世代の問題を少しずつ改善した薬剤となっている。

 日本の肺がん治療に大きな影響を与えたのが、1次治療として、ゲフィチニブと標準治療であった化学療法を比較したNEJ002試験で、増悪のリスクはゲフィチニブで70%低下した(Maemondo:NEJM 2010)。化学療法で増悪した患者には、その後ゲフィチニブが投与されたため、全生存期間に差はなかったが、奏効率とQOLはゲフィチニブで高いことも示された(Oizumi:Oncologist 2012,Inoue:Ann Oncol 2013)。この結果から、多くの医師が化学療法よりもゲフィチニブを選ぶようになった。

分子標的薬では耐性の克服が最大の課題

 ただし、現時点では、ゲフィチニブを含むほぼ全ての分子標的薬で再発が起こり、完治できないことが大きな課題となっている。加藤氏は「いかにして耐性を防ぐ薬剤を作るか、耐性となった時にどのように次のステップに進むのか、評価する臨床試験が重要」と話した。

 EGFR-TKI使用後に耐性となるメカニズムのうち、半数はエクソン20のT790M遺伝子変異によることがわかっており、この獲得遺伝子を克服できれば、再発後の治療戦略が立てられるため、さまざまな研究が行われてきた。

 第2世代のEGFR-TKIは、第1世代よりもT790M遺伝子変異への効果が高い。ただし、第2世代のEGFR-TKIは粘膜や皮膚の有害事象が強かったため、これらを抑え、T790M遺伝子変異にも有効な薬剤として、第3世代が登場した。エビデンスが最も早く得られたのがオシメルチニブで、T790M遺伝子変異陽性の患者に対する2次治療として化学療法と比較し、増悪のリスクが70%低下するという画期的な効果が得られた(Mok:NEJM 2017)。完全奏効(病理組織的にがんが完全に消失すること)も報告されている(Janne:NEJM2015)。

 さらにオシメルチニブは、T790M遺伝子変異が発現していない1次治療でも有効なことが明らかになった。第1世代との比較で、オシメルチニブは増悪のリスクを54%低下させることが示された(Soria:NEJM 2017)。この差は生存期間にも反映されるとみられる。また従来のEGFR-TKIと比べて、オシメルチニブは脳転移への効果が高いことも報告されている。

 現在、EGFR遺伝子変異陽性肺がんの標準治療として、1次治療はオシメルチニブ、2次治療は化学療法が推奨されている。

 ただし、オシメルチニブでも耐性は起こる。1次治療または2次治療で使った後の再発のパターンがさまざまで、これまで知られていなかったC797S変異の発現や、EGFR以外の経路でがんが増殖することが認められている。これらに対する治療法は限られ、課題である。

 またEGFR遺伝子変異陽性肺がんでは、EGFR-TKIと血管新生阻害薬との併用や、主な遺伝子変異以外の希少な変異に対する治療薬の開発も行われている。

ALK遺伝子転座でも複数の治療選択肢

 ALK遺伝子転座には、第1世代のクリゾチニブが化学療法よりも優れることが示され、第2世代のアレクチニブではさらに高い効果が示された。

 EGFR遺伝子変異と異なるのは、耐性のメカニズムが多様で、単一の薬剤では初期治療の耐性をカバーしきれないことだ。第2世代のセリチニブはクリゾチニブの耐性化に有効とされたが、副作用が問題となっていた。そうした中で、第3世代のロルラチニブが登場し、クリゾチニブだけでなく、その他のALK-TKIの治療後にも効果が高いことがわかっている。ロルラチニブについては、1次治療として評価する臨床試験も開始されている。

 現在、ALK遺伝子転座陽性肺がんの1次治療には、アレクチニブ、クリゾチニブ、セリチニブがあり、アレクチニブは比較的副作用が少なく、全身状態が不良な場合も使用できる。

 また、全国から希少肺がんの患者を登録し、遺伝子スクリーニングを行って新薬の開発につなげることを目的とする産学連携全国ゲノムスクリーニング(LC-SCRUM Japan)では、対象からEGFR遺伝子変異を除いても、約70%の患者でさまざまな変異が検出されている。

 これらの患者を追跡調査したところ、ドライバー遺伝子変異が見つかって治療が受けられた患者は、ドライバー遺伝子変異が見つかっても治療が受けられなかった患者、ドライバー遺伝子変異がない患者と比べて、生存期間が20カ月以上延長することがわかった(Kato:JSMO 2018)。加藤氏は「ドライバー遺伝子変異陽性の場合は、その変異を見つけること、そして薬を届けることがとても重要なことが示された」とした。

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