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レポート

2019/04/30

つらくないがんの療養を目指して

医療用麻薬は決して最後の手段ではありません

医療用の麻薬を正しく知ってがんの痛みを取る(1)

八倉巻尚子=医学ライター

 「麻薬」というと違法な薬が連想され、「こわい」「使い始めたらやめられなくなる」「寿命を縮める」という印象がある。しかし医師が処方する医療用麻薬はがんの痛みを減らし、生活をしやすくする。
 3月に東京と大阪で市民向けシンポジウム「がんの痛みは正しい知識で取る~医療用麻薬はどんな薬でどう使われるのか?」(主催:厚生労働省、共催:日本緩和医療薬学会)が開催された。シンポジウムの内容を3回に分けてお伝えする。第1回は、医療用麻薬と違法麻薬の違いについて。


医療用麻薬と違法麻薬は何が違うのか

 星薬科大学薬物依存研究室特任教授の鈴木勉氏が、医療用麻薬と違法麻薬の違いや、医療用麻薬の特徴について解説した。

 麻薬とは、薬物の中でも「麻薬及び向精神薬取締法」で指定されたものを指し、この法律で取り締まりの対象となっているのが違法麻薬である。一方、医療用麻薬は、「医薬品の基準に従って国が審査をし、有効性と安全性が確認され、医薬品として製造・販売が承認されているもの」で、「医療用麻薬と違法麻薬は全く違うものです」と鈴木氏は説明した。

 麻薬には興奮作用や幻覚作用、中枢の抑制作用があり、「繰り返し使いたい」といった気持ちになる依存性薬物でもある。違法麻薬には、MDMAやマジックマッシュルーム、LSDなどがあるが、これらは有効性も安全性も確認されておらず、違法な流通によって乱用され、有害な作用を引き起こす。「必要のない薬ですから、違法な流通を阻止して、乱用を抑えることがとても重要になっています」。

 医療用麻薬としては、モルヒネやフェンタニル、オキシコドンなどがあり、鎮痛薬として非常に有効で、がんの強い痛みの治療に現在6剤が使われている。「これらはがん疼痛治療に必要不可欠な薬で、適正に使用されることが必要です」。

がんの痛み治療でトータルペインを取り除く

 がんの痛み治療について、1986年に世界保健機構(WHO)が「がんの痛みからの解放」(Cancer Pain Relief)を発表し、具体的な治療法も提示した。これは「WHO 方式がん疼痛治療法」として知られている。「通常は身体の痛みを考えますが、それだけでなく心理的な痛みや社会的な痛み、あるいはスピリチュアル(霊的)な痛みも含めた、トータルペインを取り除いていかなければいけないという考え方」がその中で記されている。

 トータルペインを取り除くには、治療目標を設定することが大切であるという。第1段階として、痛みで眠れないということがないように、痛みをコントロールすることが挙げられている。痛みに妨げられることなく夜間の睡眠時間が確保できるようになったら、第2段階として、安静にしているときに痛みが抑えられるようにする。第3段階は、動いた時も痛みが抑えられるようにする。こういった治療の目標を立てて、徐々に痛みをコントロールしていく。

 鎮痛薬を使うときには5つの原則がある。(1)「経口的に」薬を飲むこと、(2)痛みが出ないように「時刻を決めて規則正しく」飲むこと、(3) 鎮痛薬は痛みの強さに合わせた3段階の「徐痛ラダーに沿って効力の順に飲むこと」、 (4)「患者ごとに個別的な量で」飲むこと。さらに副作用対策など、(5)「その上で細かい配慮を」することとなっている。徐痛ラダーでは、第1段階の弱い痛みには、非ステロイド性抗炎症薬(アスピリン等)やアセトアミノフェン(非オピオイド)、第2段階の中等度の痛みにはコデイン(弱オピオイド)、第3段階の強い痛みにはモルヒネやフェンタニル、オキシコドンなど(強オピオイド)が使われる。

 なお2018年にWHOのがん疼痛に関するガイドラインが改訂され、この5原則が4原則になっている。3番目の原則である「ラダーに沿って効力の順に」は、4番目の「患者ごとに個別的な量で」に組み込まれるようになった。「3段階の徐痛ラダーが注目されてきましたが、本来は患者さんをよく見て決めていくべきであり、患者ごとに個別な量でというところにもっと注力してほしいという背景があります」と鈴木氏は説明した。

世界各国に比べて医療用麻薬の消費量が少ない日本

 各国の医療用麻薬の消費量を比べると、先進諸国で日本の消費量は非常に少ない。また、日本のがん患者数や手術件数などから算出した医療用麻薬の“必要量”と比べても消費量は低く、必要量の15.54%しか使われていないという。「日本では痛みを我慢している患者さんが多いのではないかと思います」と鈴木氏。反対に、カナダやアメリカ、ドイツでは必要量よりも消費量が多く、「過量投与による死亡の問題がクローズアップされています」。

 日本で消費量が少ないのは、医療用麻薬に対する印象が原因の1つになっているようだ。「がん対策に関する世論調査」(内閣府政府広報室、平成29年発表)の中で、「医療用麻薬についてどのような印象を持っていますか」という質問がある。半数は「正しく使用すればがんの痛みに効果的だと思う」という回答をしたが、「最後の手段だと思う」や「だんだん効かなくなると思う」と回答した人が3割を占めた(複数回答)。「一旦使用し始めたらやめられなくなると思う」と回答した人は約15%で、依存性を心配していることが伺われる。また「寿命を縮めると思う」という人は11%だった。医療用麻薬には「非常にネガティブな、マイナスのイメージを持っておられる方が結構いるのです」。

 「もし、がんのために痛みが生じ、医師から医療用麻薬の使用を提案された場合、あなたは医療用麻薬を使用しますか」という質問には、「使いたい」「どちらかといえば使いたい」が7割を占めた。しかし年代別に見ると、高齢の人よりも40歳代以下の若い年代ほど、「使いたくない」「どちらかといえば使いたくない」という人が多く、医療用麻薬への抵抗感が強かった。これについて鈴木氏は、1987年から薬物乱用防止の「ダメ。ゼッタイ。」運動が始まり、学校でも薬物乱用防止についての教育がなされ、意識が高まったことが反映しているのではないかとした。しかし薬物乱用防止だけでなく、学校でのがん教育の中に「がんの時には医療用麻薬を使って痛みをとることの重要性も入れていく必要性があるのではないか」と鈴木氏は話した。

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