経口抗がん薬についての病院から薬局への3点セット
自宅で服用できる経口抗がん薬は、処方された用量を投与スケジュールどおりに内服することが、薬の効果を生かすために重要だ。こうしたアドヒアランスを高めるには、「患者さんを支援する体制の充実が必要と考えました」と矢野氏。一方で、神戸大学医学部附属病院は院外処方が95%と高い。そこで患者が処方箋を持って行く保険薬局と病院が連携して、副作用対策などの情報を共有するプロジェクトが始まった。
院内の腫瘍内科、消化器内科、肝胆膵外科、食道胃腸外科などで処方された経口抗がん薬が対象で、保険薬局との連携には、先ほどの副作用説明書とレジメン説明書、そして3つめのツールとして「服薬情報提供書」が使われる。病院で患者さんは保険薬局用にこの“3点セット”を受け取り、それを保険薬局に持って行く。
服薬情報提供書には、治療の概要、用法用量についての特記事項、病院での説明内容が記載されている。また保険薬局から病院へは「トレーシングレポート」を使って返信される仕組みだ。保険薬局から、経口抗がん薬の適正使用や処方内容、残薬調整に関すること、継続の必要性が乏しい薬剤についての提案、あるいは患者の服薬状況のお知らせなどが記載できるようになっている。以前は患者が薬局に行くたびにトレーシングレポートを病院に返していたが、2018年1月からは3コース目の1日目までは必ず保険薬局から返してもらい、それ以降は特に知らせる内容がある場合にのみ返してもらうように変更された。
実際のトレーシングレポートの記載内容は、副作用の確認が最も多く、指導内容の報告、理解度の確認、アドヒアランス評価が多かったという。また近隣の保険薬局にアンケート調査を行ったところ、「がん患者さんへの服薬指導は十分に行えていますか」という質問に対して、「そう思う」という回答が連携ツールの活用後は活用前に比べて有意に増えていた。
トレーシングレポートが有効だった1例が紹介された。大腸がん術後療法でカペシタビン単独療法が開始された女性で、治療開始時には院内で治療の意義と副作用対策が説明された。保険薬局には連携ツールの3点セットで情報提供が行われた。1コース目の14日目で、診察前に病院薬剤師が面談して、グレード2の手足症候群が認められた。ステロイド軟膏(very strong)の処方を提案して、患者にも説明したところ、よく理解していたため、病院薬剤師のフォローアップは一旦中止した。しかしその後、保険薬局から手足症候群がグレード2ではあるが徐々に増悪しているというトレーシングレポートが返ってきた。そのため次の受診日(3コース目の1日目)に診察前に病院薬剤師が面談をして、ステロイド軟膏(strongest)を提案し、スキンケアについてもう一度入念に説明した。それからは手足症候群の悪化はなく、術後療法を完遂することができたという。
また別のアンケート調査では、「3カ月間の治療継続ができた件数」の割合が有意差はないものの、病院薬剤部と保険薬局による薬薬連携による支援で10%ほど増加。「副作用により治療継続ができなくなった件数」の割合は、連携支援で4分の1程度まで減少した。「保険薬局で患者さんに十分に副作用について説明して、対処法や支持療法も説明しているため、自己判断でやめることがなく、適切に支援できた結果ではないかと考えています」と矢野氏は話した。
そしてチーム医療においては「病院薬剤師も保険薬局の薬剤師も、薬物療法に主体的に行動して、処方を点検する人から、“こういう薬を入れたほうがいいのではないか”など、処方を提案する人になってほしい」と矢野氏。それによって医薬品の適正使用が進み、最終的に患者のQOLの向上や治療効果、安全性が上がることが期待できるとした。