このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2019/3/19

愛知県がんセンター公開講座より

「再発リスク・サブタイプ・患者さんの状況」の3次元で考える乳がんの治療方針

早期発見と適切な標準治療が治療成績を向上させる

八倉巻尚子=医学ライター

遺伝的ながんへの対応

 がんの発症には、親から受け継いだ遺伝子が関わっていることがある。遺伝的に乳がんや卵巣がんになりやすいがんは「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれている。HBOCの診断には遺伝子を調べる遺伝学的検査が行われる。乳がんのある人で見られる遺伝性腫瘍としては、HBOCのほか、カウデン病やリ・フラウメニ症候群、ポイツ・イェガース、遺伝性びまん性胃がんがある。

 「乳がんの診察では必ず家族歴を聞いて、必要に応じて、遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリング(自費)を選択肢として提示します」と澤木氏。遺伝カウンセリングでは、遺伝学的検査を受ける前に、HBOCの原因遺伝子がBRCA1とBRCA2であることや、検査の結果でHBOCと診断されたときに乳房全摘術を受けるかどうかなどが説明される。またHBOCの場合は早い時期から、婦人科と連携して卵巣がんの診察も行っていくという。

 HBOC以外の遺伝性腫瘍も、治療選択に深く関わってくる。たとえばリ・フラウメニ症候群の場合、放射線によって二次がんのリスクが高くなる。乳房温存手術を行った後は通常、放射線療法が行われるため、「リ・フラウメニ症候群とわかっているのであれば、できる限り乳房全摘術を選択したほうがいいでしょう」と澤木氏は話した。

遺伝子変異と関連する効果的な薬剤

 特定の遺伝子変異があると、高い効果が期待できる薬剤もわかってきた。先ほどのBRCA1とBRCA2の遺伝子変異がある乳がんには、プラチナ系薬剤(カルボプラチン)と、昨年乳がんで承認されたPARP阻害薬オラパリブが有効である。オラパリブは、がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌を対象としている。

 また化学療法後に増悪した進行・再発の固形がんで、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有するがんに対し、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブの適応拡大が昨年承認された。MSI-Highは、マイクロサテライトという、DNAを構成する塩基の繰り返し配列の部分が正常の細胞と異なり、DNAの複製エラーが修復されないために、がん化が起こりやすい状態のこと。この固形がんには乳がんも含まれる。

 こういった薬を使うためには、薬剤の効果を予測するためのコンパニオン診断として遺伝子を検査する必要がある。現在でも、分子標的薬のトラスツズマブを使うときにはがん細胞のHER2タンパクの過剰発現やHER2遺伝子の増幅を調べている。しかしPARP阻害薬の場合は、生殖細胞系にある「持って生まれた遺伝子」のBRCA1,2遺伝子を調べなければならない。

 生殖細胞系の遺伝子変異を調べることは、「薬剤に効果が期待できる一方で、遺伝子変異が見つかった際の自分や家族への影響(益と害)を考える必要があります」と澤木氏。効果的な薬剤を選択でき、予防的治療の介入ができる。さらに卵巣がんなど、関連する他の臓器のがんの早期発見につながるといった利点はあるが、その反面、「偏見や差別、心の葛藤など」も考えられる。そのため「知る権利はありますが、知らない権利もあり得るのです」。澤木氏は遺伝子を調べるときは遺伝医療と深く連携していく必要があるとした。

 講演の最後に澤木氏は、「乳がんの多くは進行がゆるやかで、早期発見・標準治療により助かることの多い病気です」。乳がんの進行度やサブタイプによって勧められる治療は個々に異なり、遺伝的な要素を含めた治療の選択肢もあるので「慌てずに主治医の先生と相談してください」と話した。

この記事を友達に伝える印刷用ページ