このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2019/03/19

愛知県がんセンター公開講座より

「再発リスク・サブタイプ・患者さんの状況」の3次元で考える乳がんの治療方針

早期発見と適切な標準治療が治療成績を向上させる

八倉巻尚子=医学ライター

 乳がんの治療は、腫瘍の大きさや広がり、がん細胞の性質によって、適切な治療方法が選ばれ行われる。また最近、遺伝子を調べた上で治療する新薬も登場し、治療の選択肢が広がってきた。愛知県がんセンター中央病院乳腺科部医長の澤木正孝氏が、2月23日に開催された同センターの公開講座「女性特有のがんの最新治療」の中で、「乳がん薬物療法の最前線―遺伝性疾患に対する治療を含めて―」と題し、乳がんの薬物療法について解説した。


再発リスクをもとに適切な治療を選択する

 乳腺(乳管・小葉)にできた原発性乳がんの治療には、手術、ホルモン療法、化学療法、分子標的治療、放射線療法があり、これらを組み合わせて治療が行われる。がんが乳管や小葉の中におさまっている非浸潤がんには局所治療(手術、放射線療法)が行われる。乳管や小葉の周りの組織にがんが広がっている浸潤がんでは、再発につながる微小転移を制御するため、手術に加えて化学療法による全身治療が行われることがある。また他の臓器に転移している場合は薬物療法が中心となる。

 手術後の全身治療は浸潤性乳がんの全員に行うのではなく、「手術だけでどのくらいの再発リスクがあるのかという“ベースラインリスク”をまず推定し、その上でなんらかの治療を行なった場合の副作用と効果のバランスを考えて、治療方針を立てていきます」と澤木氏は説明した。そのため「ベースラインリスクは非常に重要な情報」であり、ベースラインリスクが低い患者さんには全身治療は勧められていない。

 化学療法による全身治療では、3種類の薬剤を併用するCMF療法(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシル)や、アンスラサイクリン系薬剤が標準的に使われ、それに加えてタキサン系薬剤や分子標的薬のトラスツズマブも使われている。臨床試験のデータを用いたメタ解析で、CMF療法は手術のみを行なった場合に比べて、年間の再発率を24%軽減することが示されている(Lancet. 1998;352(9132):930-942)。またCMF療法に比べて、アンスラサイクリン系薬剤やタキサン系薬剤を用いた治療ではさらに再発率は低くなる。

 何らかの治療を行った場合のリスク軽減率を予測するモデルもいくつか開発されている。たとえば英語サイトの「predict」では、年齢や腫瘍の特徴などを入力すると、ホルモン療法や化学療法によってどのくらい生存率が改善されるかが推計され、治療効果の目安にはなる。

 愛知県がんセンターで手術のみが標準治療であった時代(1964年から1992年)に治療を受けた1835人のデータでは、非浸潤がんであるステージ0の術後10年時の生存率は97.4%だが、浸潤がんであるステージⅠ、II、IIIと進行するに従って生存率は下がり、ステージⅠでは83.1%、ステージIIAは76.0%、ステージIIIBでは28.5%だった(Onishi S, et al. Surg Today. 2019 Feb 7)。これらがベースラインリスクとなる。

 しかし術後に薬物療法が行われるようになって以降(2004年から2011年)の3617人では、術後10年時の生存率が「手術のみの時代に比べて非常に良好で」、ステージIIAでもおよそ90%であり、ステージIIIBは60.9%になっている。「早期発見が非常に大事ではありますが、適切な標準治療を行うことが治療成績を向上させるという証明につながっています」と澤木氏は話した。

がん細胞の性質からサブタイプに分ける

 乳がんと診断されると、腫瘍の大きさと広がり、リンパ節転移や他の臓器への転移から、病期(ステージ)分類がされる。また同じステージでもがん細胞の性質によって、再発のリスクが異なり、また有効な薬も異なる。がん細胞の性質は腫瘍組織を用いた遺伝子解析などによって調べられ、ホルモン受容体(HR)が陽性か陰性、HER2が陽性か陰性で、少なくとも4つのサブタイプに分けられる。これらはルミナル(HRは陽性でHER2は陰性)、ルミナル・HER2陽性、HER2陽性(HRは陰性)、トリプルネガティブ(HRもHER2も陰性)と呼ばれている。

 サブタイプによって予後は異なり、中でもルミナルタイプは予後良好である。薬物療法への感受性もサブタイプで違う。ルミナルタイプはホルモン療法が効きやすいが、化学療法の効果は限定的で、タキサン系薬剤(パクリタキセル)を投与した群と投与しなかった群で無病生存期間は変わらなかったというデータがある(N Engl J Med 2007; 357:1496-1506)。一方、「トリプルネガティブやHER2陽性タイプではタキサン系薬剤を加えることで再発を抑えることができます」(澤木氏)。

 手術前に行う術前化学療法に関する日本人の成績を見ても、サブタイプで効果は異なり、HER2陽性タイプでは化学療法の効果が高かった。化学療法でがんがほとんど消えた状態(完全奏効)になった人がルミナルタイプでは13%だったのに対し、HER2陽性タイプでは67%だった(Breast Cancer Res Treat 2008;110:531-539)。このためHER2陽性乳がんでは、手術の前に化学療法をすることによって腫瘍を小さくして、より負担の少ない手術を選択することも可能である。

 「サブタイプ分類はとても重要で、現在われわれの施設でも、乳がんの診断の時点でどんなタイプなのかを見た上で、手術にするのか、先に化学療法をするのかという選択をしています」と澤木氏は述べた。

患者さんの状況も考えて治療を計画する

 乳がんの治療方針を決めるにあたり、特に薬の選択に関しては、「患者さんの特殊な状況を考える必要があります」。若年者では、卵巣の機能を温存させて、将来的に出産に備えたいという希望があるかどうか、二次がんの発生など、長期の安全性を考慮した治療をしたいかどうか。高齢者では、心疾患や腎疾患、呼吸器疾患などの併存症や、認知機能も考慮する。また治療コストや通院時間、仕事や育児、介護など患者さんの家庭環境、あるいは遺伝性腫瘍の可能性も含めて考える必要があるとした。

 このような患者さんの状況と、再発リスクや病期分類、がんの性質を示すサブタイプといった3つの要素を組み合わせて、「3次元で治療を計画する時代になってきています」と澤木氏は話した。

  • 1
  • 2
この記事を友達に伝える印刷用ページ