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2019/2/26

がん患者が幸せを感じられるきっかけとは

福原麻希=医療ジャーナリスト

幸せは他愛ない雑談から始まる

 トークショーでは「幸せの見つけ方のヒント」の話題も出た。

 広瀬さんは闘病中の気持ちをこう話す。「がんと診断されると、どうしても死と向き合わなくてはいけなくて、死ぬのが怖かったです。さらに、その後の10年間、身内に不幸が続きものすごく苦しい時期が続きましたが、それらのできごとを乗り越え、自分自身のレジリエンスを養ったことで幸せを見つけることができました。それは新しい世界でした」

 守田医師は「人は闘病の時期を、長い人生のほんの少しの時間と言うが、当人にとってはものすごくつらい時間ですよね」と言いながら、次のように続ける。
 
 「病気の人は、下を向いて小さな一歩が踏み出せただけで幸せかもしれない。そういう人が、前野先生の幸せになるヒント『大股で胸を張って歩くと、幸せを感じやすい』ようになるためには、最初の一歩を踏み出せたことを大事にしたいものです」

マギーズ東京の常勤看護師 岩城典子さん

 その意見に大きくうなずいたのは、岩城さんだった。マギーズ東京に来訪する患者は「出口の見えないトンネルの中にいるよう」と話される方が多いという。「漠然とした不安を抱える中、患者さんは『マギーズに行こう!』と決断されますが、到着して椅子に座ると、最初は沈黙したままで……。そんなとき、日常生活の他愛もない話をしているうちに『あぁ、私はこんなことが好きだったなぁ』と思い出し、だんだん目の前の風景が見え始めて色がついてくる。患者さんの自分らしさがフツフツ沸いてくるイメージを、日々、感じています」

 広瀬さんもキャンサーフィットネスでは、教室の前後の雑談を大切にしている。「がんの話でなく、日常の取り留めのない話をしながら大笑いすることで、心がほぐれていきますよね。そういう小さなことからほっこりした気持ちや幸せを感じます」

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 前野隆司 教授

 前野教授は幸福学の観点から、雑談をするときは目の前の悩みやできごとでなく、夢や目標を語り合うことが幸せにつながると言う。「今日のことでなく、妄想であっても広く大きな視点の話をすることが楽観性や幸せにつながります。目の前の1つのことにとらわれると視野が狭くなります。雑談のよさは、目の前の気になる事柄から離れられることですね」とアドバイスする。

 岩城さんは前野教授が講演で話した「幸福学」や「幸せの4因子」について、「自分を客観的に見られる内容で、自分がこれからどうしたらいいかを考えるきっかけとなりそう」と言う。さらに、医療者自身も幸せな気持ちを持つことの必要性について「自分が幸せだからこそ、目の前の人のつらさや苦しみを受けとめられ、相手の方の幸せを一緒に喜べます。自分が不幸なときは相手に共感できない。この幸福学は医療者にも必要ですね」と笑顔で話した。

 そんな話を受けて、鈴木さんは「幸せの基準は、そのときどきで変わる」と言う。「療養中は生きられることが幸せ、闘病から社会に復帰できたあとは周囲に感謝されること、必要とされることが幸せと感じた。恋愛難民だったので、結婚や出産以外のことでも幸せと思うためには社会に尽くそうと考え行動してきた。周囲が喜んでくれるときに幸せを感じます」

 昨年、鈴木さんは結婚したばかりということもあり、「いまは愛される、愛することも幸せと気付きました」と言葉を加えた。

どんなことがあっても幸せを感じられる社会へ

 トークショーは「がん闘病の経験を社会で活かそう」の話題でも盛り上がった。広瀬さんはキャンサーフィットネスのイベント開催時、協賛を募るときの企業側の反応が以前と比べて良くなり、がんという病気やがん患者の置かれている状況に対する理解度が上がったことを感じているという。だが、それは「個人レベルのことに過ぎず、会社全体、さらに社会全体としての理解とまでは至っていない。まだ他人ごとと思ってしまう人が多いので、もっと社会を巻き込む必要性があります」と発言する。

マギーズ東京共同代表 鈴木美穂さん

 その意見に対して、鈴木さんは「がんという病気のイメージが悪すぎる。これはメディアの責任でもある」と言い、こう続けた。「確かに、がんは死を身近に感じさせる病気です。でも、そもそも人は死ぬもので、がんになったことは人生における死ぬまでの過程の1つの経験に過ぎません。私たちはいろいろな困難や課題と向き合いながら生きていくもので、ある人にとっては、がんになるより、大失恋のほうが余程、死を意識するほどショックなことかもしれない。でも、こういういろいろなことが起こらなかったら、人生は平坦で色のないものになってしまうだろう」

 こんな鈴木さんにとって、がんになった経験は「2年間、大学院へ行った」というほど学びが大きかったと振り返る。がんから学んだことを社会にどう活かすか。鈴木さんには夢がある。「がんになっても『だから、どうしたの?』『がんになる人、多いよね』と誰も動揺しない、『大丈夫』と言える、そんな社会を作りたいです」

 いま、がんに新たに罹患する人は約100万人1)。それに対して、日本人の出生数は97万人2)で、がんに罹患する人のほうが多い時代となった。

 「がんになると、『どうして自分だけ』と感じてしまうが、そんなことはない。100万人もいます。決して一人ではなく、仲間が大勢います。企業も年間100万人のマーケットと考えれば、大きなチャンスではないか。がんは解決のしがいのある問題が山積され、他の疾患にも展開していける可能性もある」と鈴木さんは指摘する。

 さらにこう続ける。「だからこそ、がんになった人が生き生きと活躍できる社会をつくっていきたい。患者と家族と医療者だけでなく、社会全体でダイバーシティの形で語り合っていきたい」

 こんな鈴木さんの提案に守田医師も「医療者はどうしても内輪で話すことが多いが、医療者だけで医療を動かすことはできない。いろいろな職種の意見やアドバイスを聞くことで大きなヒントが転がっているかもしれない」と前向きな姿勢を示した。

 登壇者の熱のこもった発言を聞きながら、前野教授は「気持ちの動きの激しい経験をされ、成長されたからこそ出てくる、すばらしい内容の話です。つらい経験の後には、必ず大きな成長があるもの。それが新しい幸せにつながるんですね」と最後を締めくくった。


[参考文献]
1)国立がん研究センターがん情報サービス・全国がん登録(2016年)
2)厚生労働省「人口動態統計」(2016年)


キャンサーフィットネス http://cancerfitness.jp/
マギーズ東京 https://maggiestokyo.org

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