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2019/2/19

「幸せの4因子」を知って、幸せになろう!

福原麻希=医療ジャーナリスト

 がん患者は誰でも「死」を意識し、不安定な心理状態を経験する。そんなときは、周りの人から励ましの言葉をかけられ前向きな気持ちを持とうとしても、なかなか、うまくいかない。がん患者が幸せになるためにはどう生きるべきか、何をすべきだろうか。それをを解き明かした「幸せの4因子」を紹介する。


講演中の前野隆司教授

 1月12日、横浜市の慶應義塾大学大学院で、公開講座「がん患者の幸福学」および「がん患者の幸せを考えるワークショップ」が開催された(一般社団法人キャンサーフィットネスと慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科ヒューマンラボの共催)。

 同大学大学院の前野隆司教授による「がん患者のための幸福学」の講演、医師・看護師・患者とメディアそれぞれの立場からのトークショー「がん患者の幸せを考える」に続いて、患者と一般の人がグループをつくり、「がん患者も家族も医療者も社会もしあわせになるために」をテーマにしたワークショップも行われた。

ロボットから幸せの研究に行きつくまで

 主催者であるキャンサーフィットネス代表理事の広瀬眞奈美さんは乳がんサバイバー(経験者)で、今年、術後10年目になる。手術のほか、抗がん剤投与・放射線治療・ホルモン療法を受け、つらい症状や治療の後遺症も経験した。退院後は「体の不調をいかに楽にするか」をいつも考えていたという。

 つらかった当時、広瀬さんは疲れない程度、少し息が弾む程度の軽い運動をして副作用や後遺症を軽減し、落ち込みがちな気持ちも高めていた。その経験から「キャンサーフィットネス」を設立し、いまは、がん患者やサバイバーの体力向上や健康管理を支援している。今回の講座を企画したきっかけは、運動教室の参加者から「体を動かして気持ちが明るくなった」「前向きになった」という意見が大変多いことに注目したからだった。そこで、広瀬さんは「まず、運動などで行動を変えると前向きな考え方となり、それは自分自身が幸福となる近道ではないか」と考え、「どんな行動が幸せな気持ちにつながるか、前野教授の話をぜひ参加者に伝えたい」と思ったという。

 前野教授は「幸福学」の研究者として知られる。これまで発表された「幸せの研究」結果を体系化し、「幸せのメカニズム」を学術的に明らかにした1)。20代の頃は機械工学や設計工学のエンジニアで、民間企業ではカメラのモーターやロボットハンド等を作った。慶応義塾大学理工学部の教員に転職してからは、13年間、ロボットの研究に没頭した。「人間社会を便利にするため」「人間を理解するため」、ロボットの身体と心を研究した。触覚などの感覚刺激に反応して笑うロボットも作った。

 「でも、ロボットは笑ったふりをしているだけで、本当にうれしいわけではない。偽物の幸福でした。ロボットを通して人間の幸せを考えようと思っていましたが、そうではなく、ダイレクトに『どうすれば人は幸せになれるか』のメカニズムを研究しようと考えました」と前野教授は振り返る。

 ロボットでの研究は物理学や数学を用いていたが、同時に哲学や心理学、倫理学、宗教学、脳神経科学も視野に入れていた。やがて「倫理学の科学版ができないか」と考えた。

 「倫理学というのは、どう生きるべきかの学問です。倫理学では、どんな生き方や考え方が不正や悪かを追求する研究が多いですが、私は幸せに生きるためには何をすべきかを科学的根拠をもとに解き明かしたかった」と前野教授は説明する。

どんな行動が幸せな気持ちにつながるか

 前野教授は世界各国の研究者が発表した論文を調査し、2013年に『幸せのメカニズム』(講談社、2013年)を出版した。その執筆時に整理したところ、48の文献から幸福に影響する可能性のある項目(因子)として、(1)年齢・性別・健康・宗教、(2)結婚・対人関係・社会的比較・感謝・親切、(3)性格・気質、(4)目標・教育・学習・成長、(5)収入・雇用・消費・生活・趣味、(6)政治・安全・文化他――の6グループが抽出できた。

 「幸せに関する研究論文は、毎年1000ぐらい発表されていますので、いまではもっと多くの文献による因子が出ていることでしょう」と前野教授は言う。

 例えば、イギリスの心理学者ダニエル・ネトルは「地位財(所得・社会的地位・物)は幸せが長続きしない」と述べている2)。前野教授はこう説明する。「地位財の特徴は他人と比較できる、欲にまつわることです。このため、財を獲得できてもキリがなく、もっと欲しくなってしまいます。別の研究からは『収入がある金額を超えると、感情的幸福は比例しなくなる3)』という知見もあります」

 一方、ネトルは論文の中でその逆の「非地位財(環境・健康・心のいい状態=自主性や社会への帰属意識)は幸福感が長続きする」とも述べている。その理由について前野教授は、「非地位財は個人の安心・安全の生活のために重要なものです。また、利他的(自分にとってのデメリットを考えず、他の人のメリットを考えて行動すること)な人のほうが幸せをより感じることもわかっています」と説明する。

 そして、「地位財は外的要因で自分だけでは変えられないか、変えることが難しいことが多いが、非地位財は自分でコントロールできる」とも言う。

  そこで前野教授の研究室では、非地位財の中から特に「心のいい状態」を選び、幸せが長続きする人の心のありよう(心の持ち方)を探るため、約1500人の日本人にアンケート調査を実施した。代表的な先行研究を参考に、「私は自分と他人の行動をあまり比較しない」「いまの自分は『本当になりたかった自分』である」など29項目87の質問を用意し、「まったく当てはまらない」から「非常によく当てはまる」まで7段階で回答してもらった。

 回答を集計後、その結果を統計解析したところ「4つの因子」が求まった。それぞれの計算結果と構造をながめて因子に名前をつけたところ、次のように表現できた。

(1)自己実現と成長(やってみよう因子)
 夢や目標を叶えた人、夢や目標を持っている人、努力し成長している人は幸福感が高い。

(2)つながりと感謝(ありがとう因子)
 いろいろなことに感謝する人、親切で利他的な人、多様な友人を持っている人は幸福感が高い。

(3)前向きと楽観の因子(なんとかなる因子)
 自己肯定感が高い、楽観的でポジティブ、細かいことを気にしない人は幸せ。

(4)独立と自分らしさ(ありのままに因子)
 人の目を気にしすぎない、自分らしさを持っている、自分のペースを守る人は幸せ。

 前野教授はこれらを「幸せの4つの因子」として、「4つ揃っている人のほうが、そうでない人より幸せ」と言う。いろいろな方法で統計解析したところ、4つの因子のうち、どれが欠けても幸福度が下がるという結果だったからだ。

 「4つの因子の中には、得意なこと、苦手なこともあるでしょう。また、つらいときは『やってみる気もしない、自分らしさも出せない』と思うでしょう。そういうときは、(2)の人とつながるところから始めるといい。誰かと話してみると、いろいろなヒントが見つかります。みんなで話して考えていくと、必ず答えは出てくる。一人で悩まないことです」と前野教授は話す。

 講演の最後に「まず、幸せになる決断をする。そして、何かをやってみる。新しいことにチャレンジしてみる。料理でも化粧でもいい。友達を作り、感謝する。感謝はだれでもすぐできることで、口に出すといいです。言う人も言われる人も、損する人はいません。簡単な幸せ法は、外側から幸せの形をつくることです」と前野教授は参加者を激励した。

講演とトークショーの合間には、主催者のキャンサーフィットネスらしく体を動かす時間も

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