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レポート

2019/1/29

第15回がんサバイバーシップ・オープンセミナーより

がんサバイバーの心臓を守る

がん治療医と循環器医が連携して心血管疾患を予防する

八倉巻尚子=医学ライター

腫瘍循環器学(Cardio-Oncology)の重要性

 腫瘍循環器学の重要性が認識され、米国で動きが出始めたのは2000年頃のこと。米国MD Anderson Cancer Centerに循環器科が2000年にできたのを皮切りに、Cardio-Oncology部門が全米に広がっていったという。

 2013年には米国の国立衛生研究所(NIH)で、がん治療関連の心血管疾患について、疫学、基礎研究、臨床研究のワークショップが開催され(J Natl Cancer Inst. 2014;106(9) : dju232)、米国医薬食品局(FDA)も2016年にワークショプを開催した。「それまでは消化器がんや乳がん、肺がんの医師がそれぞれの基準で循環器科に相談していたが、こういったワークショップによって、どういったバイオマーカーを使うべきか、画像診断はいつすべきかなど、研究テーマがまとまり、研究論文の数も一気に増えていった」。

 2012年には国際腫瘍循環器学会(GCOS; Global Cardio-Oncology Summit)が設立された。「有名な医学雑誌にCardio-Oncologyに関する総説が掲載されるようになり、この学問領域は世界中で発展していかないといけないことが認識されていった」。

 しかしがん医療で使われる用語と循環器科で使われる用語、さらにその定義が異なっていたため、「循環器医には、がんの雑誌はわかりづらかった」。そこで欧州心臓病学会(ESC)は、がん治療に関連して起こる不整脈や高血圧、血栓症などの心血管疾患の現状と課題を、循環器医がわかる形で示した(Eur Heart J. 2016;37(36):2768-2801)。また腫瘍循環器学に関する教科書も次々に出版され、「従来は過剰な循環器系の検査によりがん治療の中止・中断を余儀なくすることが懸念されていたが、がんの医師と循環器の医師が一緒に教科書を作ることで、患者中心のチーム医療として、がん治療の完遂という目標を共有した上で心不全を早期診断・治療するという方法論が確認され、やっとお互いの言葉が通じるようになっていった」という。

 たとえば、循環器医にとって、心不全は、むくみや息切れなどの症状が出てから(心不全ステージC)では手遅れとなることが多いため、高血圧や糖尿病など、心不全のリスクがあるとわかったとき(ステージA)、あるいは心臓のエコー検査やBNPの採血結果で心不全の指標が低下したとき(ステージB)から心不全の治療介入を始める。しかし、がん専門医は心不全の症状が出てから(CTCAEグレード3)対応することがほとんどであった。そのため従来はがん関連学会の診療ガイドラインと循環器の学会の診療ガイドラインでは、心血管疾患に対する対応に相違点があった(Lancet Oncol. 2017; 18:e445-456)。

がん治療医と循環器医の連携に向けて

 こうした状況に対し、小児がんではいち早く、2015年に国際的にガイドラインの整合化が図られた(Lancet Oncol. 2015 ;16(3):e123-36)。がんの学会である米国臨床腫瘍学会(ASCO)も、循環器専門医と共同で成人がんサバイバーにおける心不全の予防についてガイドラインを掲載し(J Clin Oncol. 2017; 35:893-911)、がん治療前・治療中・治療後において、心血管疾患の既往歴や治療の種類、放射線治療の有無などから、高リスク患者の同定を勧めている。またがん治療中は高リスク患者への一次予防と管理を行い、治療後も定期的な検査を推奨している。

 循環器の学会も、ASCOの新しいガイドラインを踏まえて、乳がん患者に対する検査や治療の新しい指針を発表した(Circulation 2018; 137:e30-e66)。がん治療前には心臓のエコー検査を実施し、アントラサイクリン系抗がん剤による治療では、蓄積投与量が240mg/m2を超える場合は、50mg/m2を追加する前に検査することを推奨。また「アントラサイクリン系抗がん剤による治療を受けたすべての人で、晩期心毒性が出るわけではない」が、がん治療後に蓄積投与量が240mg/m2未満であっても、治療完了時と6カ月後に心エコー検査を行うことを勧めた。さらにトラスツズマブなどのHER2標的療法では、がん治療中は3カ月ごとに、治療後は無症状の場合は定期的な検査は不要としているが、アントラサイクリン系抗がん剤の後にHER2標的療法を受けた場合は、治療6カ月後の検査を推奨している。

 ただ、最新の新薬については、アントラサイクリンやHER2標的療法と比較すると、心不全の症状が出ることがどのガイドラインでも記載されるようになったが、症状が出る前にどのような検査をしたらいいかは、データが十分でなく (JACC Heart failure 2018; 6:87-95)、コンセンサスが得られていない。「小児がんでできたようなガイドラインを、成人がんでも作る努力が始まったところである」と佐瀬氏は話した。

 日本では、日本循環器病学会や日本臨床腫瘍学会の学術集会でCardio-Oncology(あるいはOnco-Cardiology)のシンポジウムが行われるようになり、日本腫瘍循環器病学会が新たに設立され、第1回学術集会が「腫瘍専門医と循環器専門医のチームワークを作ろう」をテーマに2018年11月に558人の参加者を集めて開催された(http://www.c-linkage.co.jp/onco-cardiology2018/index.html)。

 「がん治療で予後が良くなってきたからこそ、心臓により優しい治療が考えられるようになった」。これからの課題は、院内でチーム医療が行われているように、地域においてもがん専門病院とかかりつけ医とが協力して、循環器ケアができるような体制を整える必要があると佐瀬氏は話した。

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