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レポート

2019/1/29

第15回がんサバイバーシップ・オープンセミナーより

がんサバイバーの心臓を守る

がん治療医と循環器医が連携して心血管疾患を予防する

八倉巻尚子=医学ライター

 がん治療の進歩で生存率は向上し、がんを経験した「がんサバイバー」が増えている。しかしその一方で、がん治療の影響で心臓に障害が起きるケースがある。従来からの抗がん剤や放射線治療だけでなく、最近登場した分子標的薬や免疫療法薬でも心臓への影響が報告されている。そうした状況に対して、がんサバイバーの心臓を守ろうという動きが日本でも始まっている。

 国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバーシップ支援部が主催する「がんサバイバーシップ・オープンセミナー」で、順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学の佐瀬一洋氏が、「がんサバイバーに対する循環器サポートの必要性~Cardio-Oncologyの現状と今後への課題」と題し、腫瘍循環器学(Cardio-Oncology)について紹介した。


長期生存者の研究で明らかになった心血管疾患の問題

 日本人の死因の3分の1はがんであるが、がん治療が進展して、がん死亡率は低下傾向にある。それに伴い、がんサバイバーの数は増加している。米国では1500万人に達し、2025年までに2500万人になると見込まれ、「サバイバーシップケアが国をあげての大きな課題になっている」と佐瀬氏は話した。

 中でも小児がんでは、がん治療における心血管疾患についての研究が進んでいる。小児がんの長期生存者の研究(Childhood cancer survivor study; CCSS)では、1970年代、80年代、90年代と経年的に全死亡率は下がり、がん死亡率も下がっているが、がん以外での死亡率はそれほど変わっていなかった(N Engl J Med 2016; 374:833-842)。「がんは良くなってきたが、がん以外のところをなんとかしなければいけないことがわかり、それが研究の大きなモチベーションになった」という。がん治療を受けた小児がん患者と、その兄弟を比較した研究では、小児がんの長期サバイバーで心不全や心筋梗塞の発症リスクが高いことが示され(J Clin Oncol. 2014;32:1218-27)、心血管疾患の問題が浮き彫りになった。

 成人では、まず乳がんで心血管疾患の問題が注目された。乳がん患者の生存率は向上しているが、心血管疾患による死亡の割合は高く、乳がんの診断から10年以降では心血管疾患による死亡が乳がんによる死亡の割合を超えることが米国のデータで示されている(Breast Cancer Res 2011;13:R64)。さらに、乳がん診断時の年齢が予後に大きく影響することもわかってきた(JAMA Cardiol. 2017 ;2(1):88-93)。乳がん診断時に66歳未満の場合は乳がんによる死亡が多いが、66歳以上では心血管疾患で死亡する人が多かった。また診断時に心血管疾患がある人では、乳がんによる死亡よりも心血管疾患で死亡する割合が高いことも示されている。

がん治療における心血管疾患の実際

 がん治療の影響で起こる心血管疾患は、がん治療関連心血管疾患(CTRCD)と呼ばれる。古くから知られているのは、アントラサイクリン系抗がん剤による心毒性で、蓄積投与量が増えるにつれて心不全のリスクが高くなる(Eur J Cancer 2006; 42(18):3191-8)。放射線治療でも、照射の総線量が多いほど、心不全や心筋梗塞、末梢動脈疾患(PAD)の発症率が増加する(J Natl Cancer Inst. 2012; 104:357-370)。

 分子標的薬と心毒性の関連性も示されている(Circ J. 2010; 74: 1779-1786)。分子標的薬は、がん細胞表面のタンパク質や遺伝子変異など、がん細胞の増殖や転移にかかわる特定の分子を標的とし、その機能を阻害する。HER2陽性乳がんでは分子標的薬であるトラスツズマブによって生存率は明らかに改善したが、トラスツズマブ治療による心不全や左室機能障害が報告されている。特に、アントラサイクリン系抗がん剤とトラスツズマブを同時に投与すると、相乗的に心不全の発症率が高くなることがわかり(J Natl Cancer Inst. 2012; 104:1293-1305)、「いまでは投与時期をずらし、更に投与前および投与中に心機能やバイオマーカーのチェックが推奨されるようになっている」。

 大腸癌などの治療薬であるベバシズマブでは高血圧や血栓塞栓症が報告されている。
ベバシズマブは血管新生阻害薬といわれ、「血管の中で血液が固まらないようにしている内皮細胞の働きを阻害する」ため、血管や心臓に影響が出やすい。

 また血液がんである慢性骨髄性白血病に対して、分子標的薬のイマチニブなどが使われているが、新薬であるポナチニブは、効果は高い一方で、心筋梗塞や脳卒中につながる重篤な動脈血栓塞栓症がおよそ1割に起こることが報告されている(N Engl J Med. 2013; 369:1783-96)。

 昨年のノーベル医学生理学賞の授賞で注目された免疫チェックポイント阻害薬においても、まれながら致死性の劇症心筋炎が起こり、イピリムマブとニボルマブの併用療法では当初その頻度は0.27%(N Engl J Med. 2016; 375:1749-1755)、最近の研究では約1%程度(LancetOncol.2018:19:e447-458)とされている。

 「こういった新しいタイプの薬でも心血管系の合併症を伴うことがわかってきた。症状が出てから循環器内科が呼ばれるという体制ではなく、心血管疾患のリスクが高い治療やリスクが高い患者さんには予め連携することが求められた」。

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