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レポート

2019/01/22

横浜市立大学・第26回がんプロ市民公開講座より

あなたががんになった時の身近なサポーターは?

自分らしく生きるために必要なサポーターを知ってほしい

森下紀代美=医学ライター

 今では身近な病気となっているがん。もしもあなたががんになったら、誰に相談し、気持ちを打ち明け、手を差し伸べてもらうことを思い浮かべるだろうか。

 その答えのヒントとなる講演が、2018年12月に横浜市立大学で開催された第26回がんプロ市民公開講座「がんになった時の身近なサポーター」で行われた。がんを経験した患者、患者やその家族から相談を受けて支える看護師、この2つの立場からの講演を紹介する。


サポーターは患者がその人らしくいることを支える存在

 神奈川県立がんセンター患者会「コスモス」の世話人を務める緒方真子氏は、2度のがんを経験しており、自身の体験や患者会で出会った仲間のエピソードを紹介。緒方氏は「がんになっても、できるだけ自分らしさが守れることを望みたい」と話し、それを支える存在として、かかりつけ医、家族、医療相談支援室・がん相談支援センター、患者会を挙げた。

 まず、大きな支えとなるのが、かかりつけ医の存在だ。緒方氏が最初にがんを経験したのは、夫の転勤先の米国だった。かかりつけ医で受けた検診で異常が見つかり、紹介された専門医のもとで子宮頸がんと診断された。かかりつけ医は、緒方氏のさまざまな不安の訴えに耳を傾け、丁寧に答え、専門医との懸け橋の役割も果たした。さらに帰国後には原発性肝がんが見つかり、手術を受けることとなったが、この時もかかりつけ医に支えられたという。

緒方真子 氏

 日本でもかかりつけ医を持つよう呼びかけられているが、かかりつけ医を持たないままがんを発症するケースも少なくないようだ。日本でかかりつけ医がいると回答した人の割合は55.9%とする報告がある(日医総検ワーキングペーパー「第6回日本の医療に関する意識調査」No.384、2017年11月)

 多くのがん患者が「つらかった」と話すのが、がんと診断されるまでの期間、「がんかもしれない」と不安を抱えて過ごす期間だ。緒方氏も自身の経験から、「緩和ケアは、がんと診断された時から必要と言われるが、がんかもしれないという時期にも必要だと思う」と話した。この時期においても、かかりつけ医によるサポートの意義は大きい。

 家族の支えも欠かせない。60代の女性は3年間がんと闘病した後、緩和ケア病棟に入院することが決まった。女性が悲観的な暗い気持ちになっていることは明らかだった。しかし、夫が何気なく言った「お前の料理がもう一度食べたいよ」の一言が、女性の支えとなった。女性は残された時間で、最期の力を振り絞るように、夫に残すレシピを書き続けた。レシピには、夫が好きだった魚料理の作り方、肉の焼き方、食品を買う時の注意などとともに、最後に「火の元を消す」と書かれていた。その後、女性は緩和ケア病棟で亡くなった。

 「限りある命と向き合うことで、落ち込んだり、心を閉ざしたりしている人に、生きている喜びを持ってもらうことは簡単ではない。しかし、つらい病状の中でも、絶望の淵からでも、人は必要とされた時に輝き、生きているという実感と喜びが持てる。家族だからこそできる、最期まで守ることができるその人らしさと言えるのでは」と緒方氏は語った。

 医療相談支援室やがん相談支援センターも、命と向き合う患者と家族にとって支えとなる。30代の独身の男性は、がんが見つかり、手術が行われたが、予想よりも進行していることがわかった。医師からは、希望があれば抗がん剤治療も行うことができると説明され、両親は少しでも効果が期待できるのであれば受けてほしいと望んだが、男性は自分らしい生活を維持したいと望み、抗がん剤治療は望まなかった。家族の間でぎくしゃくとした時間が流れた。

 両親が病院の中のがん相談支援センターを訪れて相談したところ、経験を積んだがん看護専門看護師が間に入り、家族間で話し合うことができた。その結果、男性の意思を尊重し、抗がん剤治療は行わずに自宅に帰り、在宅で緩和ケアを受けることとなった。訪問診療医と訪問看護師が紹介され、男性は自宅で過ごしながら、夢だった詩集を出版し、亡くなった。

 QOL(生活の質)と命の長さは、時として矛盾するものとして、患者や家族の気持ちの中で葛藤することは少なくない。家族で悩んでいても、結論が出せないこともある。このケースでは、看護師に相談することで解決に向かうことができた。

 患者会や患者サロンも、がん患者を身近で支える存在だ。患者や家族がお互いを支え合い、励まし合い、前向きになれる交流の場である。患者会でよく聞かれるのが「がんになって失ったものもあるが、見えてきたもの、得られたものもある」という言葉だ。多くの患者が「がんになって、今まで過ごしてきた何でもない普通の日々が、一番幸せな場所であることに気がついた」と話し、その場所、その時間に戻ること、戻すことを願っている。

 がん患者に必要なのは、最先端の医療や的確な治療だけではない。医療者の温かい寄り添いや励まし、サポートが必要だ。緒方氏は「私たち患者や家族も、サポートを受け入れる柔軟な気持ちや感謝を忘れないことが大切。それにより、がんになっても自分らしさが実現できると思う」と話した。

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