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レポート

2019/01/08

「おっぱいらしさ」を追求する乳がんの手術(その1)

オンコプラスティックサージェリーとは何だろう?

福原麻希=医療ジャーナリスト

 がんの治療では「再発の可能性を減らすこと」がもっとも重視される。さらに近年は、治療中・治療後の患者の生活も視野に入れ、「アピアランス(appearance:外見、整容性)」も意識されるようになった。乳がんでは、治療と乳房の整容性を両立させるために、乳腺外科医が形成外科医の意見を取り入れる試みが進んでいる。その最前線を紹介する。


 がんの治療では、治療法によって外見が変化することがある。例えば、乳がんの場合は乳房手術による身体の表面の創(きず)、抗がん剤治療による眉毛・まつ毛・髪の毛の脱毛、手の爪の割れ・はがれ、二枚爪、足の爪のはがれ、足や顔のむくみ等も起こりやすい。もちろん、手術後の乳房の形状は大きな問題だ。

 早期乳がんの場合、乳房温存療法は「乳房内の再発率は全摘より高くなるが、乳房全摘手術と比較して生存率はまったく変わらない」ことが大規模臨床試験によって明らかになり、乳房温存療法が普及した。このとき、がんの根本的な治療(根治性)と乳房のアピアランス(整容性)の両立を目指す乳房手術の考え方を「オンコプラスティックサージェリー(Oncoplastic Surgery)」と呼ぶ。2012年には日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会も設立された。

埼玉医科大学総合医療センターブレストケア科診療部長の矢形寛教授

 「オンコプラスティックサージェリー」を目指すためには、乳腺外科医だけでなく、放射線治療医・腫瘍内科医・病理医・形成外科医等の診療科を横断するチーム医療での取り組みが求められる。学会が設立される前の2008年~10年、埼玉医科大学総合医療センターブレストケア科診療部長の矢形寛教授は、全国の乳腺外科医・形成外科医とともに「乳房温存治療の整容性」に関する検討会を開いていた。矢形教授はオンコプラスティックサージェリーの重要性について、こう説明する。

 「乳房は、母親として乳児に母乳を与えるだけのものではなく、女性にとって女性らしさや自分らしさにつながる臓器です。そして、それは何歳になっても続きます。乳房を切除するということは、本来、自分にあるべきものがなくなる、そして女性の機能の一部を喪失することにつながります」。そして、「だからこそ、乳房を温存する手術のときは、特に『おっぱいらしさを保つこと』を意識します。私も手術で乳房がきれいにできあがらなかったときは後悔します」。

女性らしい、自分らしい乳房とは?

 それでは、「おっぱいらしさ」とは、どんなことだろうか?
 評価基準が明確に定まっていないため、医師によっては考え方が違うこともあるだろう。検討会では次の8点に整理したという。

●術後の外見について
①乳房の丸いふくらみが保たれていること(がん切除後にできるへこみを作らないこと)
②左右対称になること
③乳頭や乳輪に違和感のある傾きが出ないこと
④乳房や乳輪、乳頭の色が変わらないこと
⑤手術時の創あとが目立ちにくいこと
⑤おっぱいの形状が下垂していること(がん切除後にできたへこみを補正するとき、乳房の形が上向きになることがある)

●このほか
⑥乳房が柔らかいこと(がん切除後、組織が壊死して硬くなることがある)
⑦術後の痛みがないこと
⑧皮膚の感覚が保たれること(皮膚の下の組織を剥離して、感覚の神経を切除せざるを得ないため、術後は乳房を触られたときの感覚に乏しくなる)

 ⑧の皮膚の感覚については、時間経過とともにその触感は戻ってくるが、元通りにはならないという。矢形教授は「外見との天秤にかけたとき、触感や硬さはどうしてもプライオリティが下がってしまう。これらのすべてを完璧に満たすことは難しいため、私は①~⑧と優先順位をつけながら、患者さんに手術の方法を説明しています」と言う。

 矢形教授は検討会の議論を集約し、「整容性からみた乳房温存治療ハンドブック」(メディカル・サイエンス・インターナショナル社 2010年)という医師向けの書籍を編集した。そのとき、同じ医師であっても乳腺外科医と形成外科医では視点や考え方が異なることに気付き、いまでは積極的に形成外科医のよさを治療で取り入れている。矢形教授の考え方を反映させて、埼玉医科大学総合医療センターではブレストケア科(乳腺外科)を形成外科の隣室に配置した。

 乳腺外科が形成外科から得た知見とは、どんなことだったのか。
 
 第一に、患者を目の前にしたときの考え方の出発点が異なる。乳腺外科医は「がんを根治させるためには、どのように切除して摘出するか」を考えるが、形成外科医は乳房の再建を担当するので「きれいに手術するためには、どうしたらいいか」から始まる。

 また、基本的に乳腺外科医は侵襲性(体の負担)を少なくするため、1回で手術を終わらせようと考えるが、形成外科医は「手術は事前にわからないこともあるので、最初から1回で終わらせるということでなく、複数回の手術になっても完璧なきれいさを目指そう」と考える医師が多いそうだ。

 このようなことを含めて、形成外科では「手術前後に写真を撮影すること」が常識とされている。形成外科医は、おもに診察室で正面だけでなく、左右の斜位(斜め姿)、左右の測位(横姿)の6方向から写真を撮っている。

 矢形教授は形成外科医から「写真を撮影することで、術前・術後の比較ができるだけでなく、患者さんへの説明に使ったり、第三者の意見も聞けたりする」と勧められた。「確かに、手術から1年以上経って、放射線治療やホルモン治療によって乳房の形状が変化することがあるため、写真による比較はとても有効です」と矢形教授は言う。

 写真撮影時は体全体のバランスから乳房の形状や乳頭の向きを検討するため、「乳房だけでなく、顎部から下腹部まで入るようにフレームを大きく取ること」がポイントになる。写真の明るさの度合いや手ブレ等の取り損ねにも留意し、多めに撮影するように心がけるという。

診察室の写真撮影用バックスクリーン

 撮影時は背景にも気を遣ったほうがいいため、矢形教授の場合は紺色のバックスクリーンを用意している(写真)。色味がある写真はコントラストが付いて、評価・検討をしやすくなるからだ。そうとはいえ、患者が多く待っていて忙しいときや環境が整わない場合は、簡易的に病室や手術室で撮影する医師もいるだろう。診察室で何枚も写真撮影をされることはあまりないため、驚いた患者もいるかもしれないが、実はこのような理由がある。

 矢形教授自身は、多くの症例経験から「現状とできあがりの乳房をイメージできるようになった」ため、近年はあまり写真を撮っていないそうだ。だが、「乳房の整容性について勉強し始めた頃、私も写真撮影にはこだわり、写真を見ながら何度も手術について検討していました。若い乳腺外科医には、ぜひ丁寧な写真による乳房の評価をお勧めします」と助言する。ただし、「写真撮影する際には、患者のプライバシーや気持ちへの配慮が大切です。撮影理由と活用法をあらかじめ伝え、患者の同意のもと行うべきですね」とも矢形教授は話している。

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