倫理委員会でチェックすべきことは?
北里大学医学部新世紀医療開発センター(臨床腫瘍学)の佐々木治一郎教授は、初回からこのワークショップのプロトコル作成責任者を務める。「過去2回の模擬倫理委員会では、参加者から様々な視点の意見が出て、ポテンシャルを感じました。そのため、今年はよりレベルを上げて、実際の臨床現場で使用している文書をPAL用に内容を変更する形で使用しました」と話す。ワークショップでは、研究の全体像を理解してもらった上で、委員として審査で留意すべき点をテキストから見つけ出す。
倫理委員として審査時にチェックすべき項目とは、具体的にどんなことだろうか。佐々木教授が挙げたのは、「研究の目的は患者の治療や生活の質の向上に役立つか」「研究の目的と方法は一致しているか」「研究参加の同意は撤回できるか」「研究に参加しなくても不利益は被らないか」などだ(下表)。
佐々木教授は「いくら医療者が患者さんの気持ちを想定しながらプロトコル(治療実施計画書)を書いても、患者の立場になるまでは、本当に患者さんの倫理性を理解できたとは言えません。倫理性が担保されていない研究は質が低いとみなされるため、委員会には代弁者が必要です」と説明する。「米国では、すでに臨床試験のプロトコル立案にも患者や支援者の声が反映されている」とも言う。
これまで、患者は医師の説明に対して盲目的に従ってきたところがあった。だが今は、診療現場でインフォームド・コンセント(診療における説明と患者の同意)が必要となったため、患者は診療内容や研究内容を理解して判断しなければならない。PALプログラムの企画運営委員の一人で、全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介さんは、自分が被験者になったとき、医師から「一晩、考えてきてください」と言われたことについて「一晩で答えを出すのか」と驚き、不安を抱えた経験談を話す。
天野さんは「倫理員会で発言するとき留意することは、自分が研究の被験者になる場合、『どんなことを不安に思うか、どういうことをしてほしいか』です。被験者を守ることができるのは患者の立場で選ばれる委員なので、臆することなく、しっかり発言してほしい。ただし、目的は患者さんに適切な治療が届くことなので、誤字脱字を指摘するだけであったり、研究をつぶすだけの意見を出したりすることはやめてほしいですね」と話している。